第8話 チートスキル
「っという事で! まずはこの世界になれる為に街へ行きましょう!」
アンナの提案により山を降りてすぐにある街へ行くことになった。
目的は特になかったが、昨晩アンナの話を聞いていると冒険者ギルドと言う組織が存在しており、そこに行けば自分自身のレベルと魔法適正を調べる事が出来る他に、この世界で冒険を行う際に必要な証明書を作る事が出来るという。
正樹達は打倒魔王を相手する前に、ファンタジーな世界を少しでも体験しておこうという事になった。
そうして到着した冒険者ギルドで正樹は居心地が悪かった。
理由は正樹に身体を密着させて腕を組み、過ぎ通り女性1人1人に睨みつける彼女の機嫌が悪いからである。
「あの・・由紀ちゃん?」
「大丈夫。 正樹さんは私が守るわ」
いつにもまして女性に対して警戒心を強くするのには理由がある。
それはここに来るまで正樹は数十名の若い女性に声をかけられては口説かれていたからだ。
元の世界ではモテるという経験がなかった正樹は露出の激しい女性達に鼻の下を伸ばして挙動不審になっていた為、由紀のヤンデレ属性が発生。
それから正樹に近寄ろうとする女性を片っ端から警戒しているのだ。
一部始終の様子を見ていたアンナには女たらしと認定されたらしく軽蔑した視線を送られる。
俺が一体何をしたって言うんだッ!!
そんな窮屈な空気の中で、1人の男性が近づいてきた。
「アンタらが新規の冒険者登録者かい?」
「あ、はい。 そうです」
彼は冒険者ギルドで職員をしているグレン・バーストと名乗る。
厳つい外見とは裏腹に多種多様な魔法を扱う事に長けている事から、冒険者の魔法適正を判断するのに抜擢されているらしい。
「それでは早速だが、アンタらには1人ずつこの紙に血をつけてもらう」
グレンは3人にそれぞれ真っ白な紙を手渡すと親指を紙に添えるよう指示する。
どうやら血をつけると言ってもわざわざ身体に傷をつける事はなく、指を紙に添えると外見にキズを付けることなく血液を摘出してくれるという摩訶不思議な魔法を付与させているという。
無事に3人の血が紙に検出され文字が浮かびあがる。
これが証明書として使用されるらしい。
確認の為、3人の証明書を確認するグレンは顔を真っ青にして身体を振るえ上がらせる。
「あ、アンタら一体何者だよ・・特にそこの嬢ちゃん達ッ!!」
グレンの異常な様子に首を傾げる3人に対して、グレンは震えた手でそれぞれの紙を手渡す。
【名前】 最上由紀
【レベル】 測定不能
【魔法適正】オール可能
【スキル】 チートスキル『神の権限』
【名前】 アンナ・サタラエル
【レベル】 999
【魔法適正】闇
【スキル】 環境操作
レベルが測定不能とチートスキル『神の権限』とか怖い名前がある由紀もおかしいが、元とは言え魔王であるアンナも最大レベルと評価されている999という数字に、いつでも人類を滅べそうな環境操作というスキルを所持している。
それらを見れば確かに誰でも体を震わせて怯えるわけだが、正樹はそんな規格外の2人よりも自分の証明書を見て驚愕していた。
【名前】 安生正樹
【レベル】 測定不能
【魔法適正】光
【スキル】 チートスキル『ハーレム』
・・・チートスキル、ハーレムってなんだぁああああ?!
ハーレムってあれ?
1人の男に多数の女性が惚れてモテると言われる伝説の単語か?!
そこで正樹は気付いた。
さきほどギルドに来るまで多数の女性に声をかけられた理由を。
「~~~~~ッ」
こんなものを由紀に見られでもしたら何が起こるのか分からない。
ここは穏便に話を逸らして誰かに見られる前にすぐに証明書をズボンのポケットに押し込む事にした。
「ねぇアンちゃん。 この神の権限ってなんだと思う?」
「なんですかね。 多分チートの中のチートっぽいと思いますが、試しにやってみてはどうですか?」
「それもそっか。 えいっ!」
由紀はまるで最初っから知っていたかのようにチートスキルを発動させて、ポケットに押し込んだ正樹の証明書を通りすがりの冒険者にスリをさせて持ってこさせた。
「待って何それ!! どういう事?!」
「どうやら頭の中で思い描いた事を実行できる最強チートみたいですね。 流石は奥様です!」
「確かに凄いけどなんで僕の証明書を盗むような形で取ったの?!」
焦る正樹に由紀はニッコリと微笑む。
「だって正樹さん。 何か私に隠し事があったでしょう?」
そうして急いでポケットに押し込んでクシャクシャとなった証明書を開くと、由紀の雰囲気は一瞬で剣幕なオーラが溢れだす。
どうする事もできない正樹はその場から颯爽と逃げ出すが、数秒後に阿修羅のような顔で追いかけてくる由紀に捕まったのは言うまでもない。