第76話 修羅場①
「いい加減に・・・しろッ!!」
強引に上乗せになっている女性を引き離す事に成功した正樹は四つん這いで必死に距離を取り腕袖で口を何度も拭う。
「あラ、そんな照れなくてもいいじゃなイぃ」
引き離した際に尻もちをついた女性はニヤニヤと笑みを浮かべてフラッと立ち上がる。
「どういう・・つもりだッ!」
もしかして何かしらの魔法をかけられた?
それとも毒か何をを盛られたとか?
一体何を企んであんな・・あんな事を?
「アぁ~・・別にアナタを傷つけたり殺したりする為に口づけをしたわけじゃないわァ」
「 ! 」
顔の表情に出ていたのか痩せこけた女性はペロリと口を舐めながらゆっくりと近づいてきて、未だに地面に尻をつけている正樹と視線を合わせる為に腰を下ろす。
「ちょっとォ気になる事があったのヨぉ」
「・・・気になる、こと?」
「そゥ。 この浮かんだ考えが正しい物かどうなのかをねェ?」
「浮かんだ考え? それとその・・今の、キスと何が関係が?」
「アらァ? なァに? 頬を赤らめてェ。 もしかして意識しちゃったァ?」
「ブッ!」
思わぬ言葉に咳き込む。
さっきまでニヤニヤと不気味な笑みを浮かべていた癖に急に真顔で変な事言ってきたからだ。
決して・・決してッ!
キスされた事に動揺したわけでは、ない!!
「キャはハはハはハッ! まァじカぁッ! アナタって結構簡単な男なのねェ!」
「ち、違うわいっ! そんな訳ないだろがッ!!」
「動揺までしちゃってェ。 キャはッ! 決めタぁッ!!」
「な、何ブォ?!」
女性は正樹の頬を両手で掴むと視線を合わせながら額を合わせてきた。
一瞬、またキスをされるのではないかと肩をビクッと震わせ、それがばれたのか女性はまたニヤッと笑った。
「決めたァ。 アナタぁ、今日からワタシの伴侶になりなさいィ」
・・・
・・・・
・・・・・
・・・・・・はんりょ?
「最初はワタシと神サマの対面を邪魔したクソ野郎とも思ったけれどォ。 アナタ、結構ワタシのタイプの男ヨぉ」
はんりょ・・・
伴侶?
あぁ、旦那になれってことか。
なるほどなるほど、旦那か。
それならいいか・・・ってなるかァッ!!
なに言ってやがるのこの人ッ!!
「自分の身よりも他人の心配ィ。 覆らない覚悟ぉ。 そして何より他人の為に危険を顧みらないその心ォ! 正にワタシの理想ぅ! ワタシが待ち焦がれた王子サマだワぁッ!!」
痩せこけた女性は呼吸を荒くして両手で掴んだ正樹の頬を撫でまわし始めた。
その触り方があまりにも気持ち悪く鳥肌が身体全身に浮き出るのが分かる。
「さぁ さァ サぁ サァ さぁッ!! ワタシと夫婦になりましょうゥ? ダーリン?」
撫でまわすように体に触れてくる手が服の中に手を突っ込んできた。
今も外で咆哮を上げている鬼に睨まれても体が硬直するほどではなかったのに、今は女性に襲われそうになっている状況で恐怖を感じて体が思うように動かない。
(やばいヤバイやばいヤバいヤばいやバいッ!!)
必死に抗おうと体を動かそうとするが、思うように力が入らない。
思考も上手くまとまらずされるがままにされた状態で正樹にはどうする事も出来なくなっていた。
(だ、だれか・・たすけ―――ッ!!)
そして、ズボンに手をかけられ今にも脱がされそうになった。 ――その時だ。
「ねぇ・・・なにしてるの?」
聞き覚えのある声が聞こえた。
そのドスが効いた低い声はまるで救いの女神か、はたまた悪魔のささやきか。
しかし正樹にとっては涙が出るほど会いたくて、だけど今の状況では会いたくなかった人物。
長い黒髪を身体全身から溢れ出ている黒いオーラで浮き上がらせ、顔を斜めに傾けながら光の無い瞳で正樹に上乗りになっている女性を睨みつけていた。
 




