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ヤンデレ彼女も異世界へ!  作者: 黄田 望
第二章 【 魔王と神 】
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第73話 【  】が来た


 幼かった頃、リビングでテレビを見ていた父親と一緒にゾンビ映画を見ていた事があった。

 

 主人公は高校生くらいの青年で、平和に暮らしていた日常から感染してしまうとゾンビ化してしまうウイルスによって当たり前だった平和な日常が一瞬にして崩れてしまう所から物語は始まった。

 

 家族に友人、そして恋人までゾンビとなってしまった主人公は必死にゾンビ化を治す方法を探すのだが、どれだけ必死に頑張っても抗体が見つかる事がないまま物語が進んでいくと、とある1つの組織が存在する事を知る。


 表側ではゾンビ化した人間達を保護して治療する抗体を研究する組織としていたが、実はゾンビ化ウイルスを世の中にばら撒いたボスが立ち上げた組織だった。


 最終局面では多くの仲間達と共に組織へ潜入して遂にラスボスを追い込む事が出来た所で主人公の青年は1つの疑問をボスに質問した。


 

 ―――何故、こんな事をした?



 主人公の質問にラスボスはまるで子供のような笑顔でこう言った。



 ―――神になりたかったからだ。



 ◆ ◇ ◆ ◇


 ホテルから脱出に成功した正樹達だったが、外に出てから頭の中が真っ白になり身動きが取れずに固まってしまっていた。


 ここは平和である事で有名な英雄の国。

 その昔、凶悪な魔王を打倒した勇者が誕生した土地として知られ多くの人々が笑顔で暮らしていた場所。

 実際、正樹達もつい数時間前までこの国がどれだけ平和で治安が良い国だったのか自分達の目で見たのだ。

 しかし

 そんな誰もが思い描く平和な国は今、絶望と恐怖の叫び声が響き渡っていた。



 「た、たすけて・・だれか・・あぁぁぁああああっ!!!」

 「お願いします! 子供だけはどうか! きゃあああああッ!!」


 

 どこからともなく聞こえてくる人々の悲鳴と燃え上がる建物の炎が目の前に広がっている。

 つい数時間前まで、まったく想像すらしていなかった絶望的な景色だ。


 (なんだこれ・・どうなってる? いや、それよりも避難・・安全な場所の確保を・・)


 頭の中がグルグルと一気に情報が錯乱して上手くまとまらない。

 何故こんな事になっているのか。

 何故こんなに人の悲鳴が聞こえるのか。

 急激な展開に正樹はどうする事も出来ずにただ呆然と目の前の光景を見ている事しかできなかった。


 「正樹様ッ! ピースちゃんがッ!」


 腕に抱きかかえていたアンナが慌てた様子で正樹を呼び、ようやく夢のような感覚から目が覚めた。

 

 「ど、どうした!」

 「ピースちゃんが、急に苦しそうに!」

 

 アンナの腕に抱かれていたピースが苦しそうな表情で歯を食いしばり両手で耳を覆っている。


 「兎に角、ここから離れよう。 ピースちゃんの事もその後で―――」


 ようやく今するべき事が定まってきたその時、頭上から パリ―ンッ とガラスが割れた音が聞こえた。


 「まて待てマテ待てェぇェぇいッ!!!」


 ガラスの破片と一緒に落ちてきたのはさっきの痩せこけた女性だ。

 約5階くらいの高さからガラスの破片よりも遅く落下してきたそれはまるで鳥のように軽く着地した。

 

 「やってくれたなァやってくれましたネぇッ!! あんな小細工でよくもワタシから逃げちゃってくれえやがりましたねェえぇエェッ!!!!」


 咆哮とも呼べる声で女性は叫ぶと先ほど木の枝に変えた包丁を地面に叩きつけ真っ二つにへし折る。

 すると木の枝はすぐにただの包丁へ姿を変えた。


 「一体どういう魔法を発動させたのかは分かりませんがネぇ。 もうそんな小細工は効きませんよォ? そろそろ貴様を神サマの供物にしてやりますヨぉッ!!」

 「ッッ!?」


 急に女性から感じるオーラが変わり、背中がゾワッと寒気を感じる。

 この感じはあれだ。

 ()()()()()()に向けられた感覚に似てる。

 命を奪うという殺意を向けられた時の感覚。


 「アンナ、とりあえず僕の後ろに」 

 

 抱きかかえていたアンナを下ろして後ろに下がらせる。


 (ここで殺されるわけにはいかない。 それになんでか知らないけどこの人はピースちゃんを神と崇めて狙っている)


 その理由までは分からなくても、こんな未知で危険な相手に幼い子供であるピースを引き渡す訳にはいかない。

 小さく呼吸を整え、身体の力を出来うる限り抜き捨てる。

 女性もいつでも攻撃出来る態勢を整え、あとはどちらかが攻撃をいつ仕掛けるかだけだった。

 その時―――




 ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!!!





 まるで大きな獣のような咆哮が響き渡り空気が響き渡る。

 周りの建物にヒビが入り、燃え上がっていた火事は吹き飛ぶように空へ飛び散る。


 「な、なんだ、今の・・・」


 今まで生きてきた中で聞いた事もない雄叫びに驚愕していると女性はまた不気味な笑い声を上げた。


 「キャァハハッ! 来たきたキタきタッ!!! ()()()()()!」

 「・・・あれ?」


 女性は楽しそうにピョンピョンと飛び跳ねていると、今度は地響きのような揺れが発生した。

 揺れは一定のリズムでズシーンッ ズシーンッと揺れながら、少しずつ音が近づいてきているのが分かる。


 「なんだ? 一体何が・・・」

 「ピースちゃん!」


 次から次へと起こる出来事に追いつけていない中で、さっき後ろに下がらせたアンナが悲鳴を上げる。

 後ろを見ると抱きかかえられているピースがさらに苦しそうに今度は耳を覆う事はせず頭痛を抑えるかのように頭を抑えていた。


 「ピースちゃん?! どうしたの? 何が来るって??」

 「どうした?!」

 「正樹様! ピースちゃんがその、急にうなされるようにずっと同じ事を繰り返して言っていて」

 「繰り返して? 一体何を??」


 そんな状況の中、先ほどまで居たホテルの建物がまるで爆発したかのように崩壊した。

 正樹は瞬時にアンナとピースの場所に駆け寄り2人を瓦礫から守るように覆いかぶさる。

 

 しばらく土埃が舞う中、正樹は驚愕する光景を目にした。


 ―――ダメ


 ホテルが建っていた場所からは、周りの建物と変わらない体長の生物が立っていた。


 ―――ダメ

 

 人間のような形状で立っているその生物は真っ赤な瞳を正樹と視線を合わせる。


 ―――ダメ


 その生物を見て、正樹はある空想の生物を思い出した。


 ―――来た


 子供の頃から御伽噺でも登場する生物。


 ―――あれが来た


 2本の角を頭に生やし、人々に恐怖を与える悪の概念を形にした生物。

 人々はそれを―――


 ―――鬼が、来た!

 

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