第70話 探し者
「こんバんワぁ~!」
扉の前に立っていたのは真っ黒なマントを被った痩せこけた女性だった。
不気味な笑みを浮かべながら手には刃物のような物がマントから見える。
「こ、こんばんは? えっと、なにか御用でしょうか?」
正樹はなるべく冷静を装って笑顔で対応すると、女性はコクコクと頷いて扉を閉められないように顔を突き出してきた。
「えェ~、えェ~、実はワタシぃ探している物がありましてェ」
「探し物? 何を探しているんですか?」
「神サマですゥ!」
女性に言った探し物に頭の中で何度も言葉を変換させて頭がフリーズしてしまう。
・・・カミサマ
・・かみ様
・神様?
え?
もしかして今神様を探してるって言いましたこの人?
ただただ普通に危ない人なのかな?
「あ~すいません。 この部屋には神様はいないですね~。 申し訳ないんですけど今日の所はお引き取り下さい。 それでは」
これは即座に話を切り上げて終わらせる事が1番。
幸いにも刃物を持っている女性なだけで由紀本人ではなかった。
それだけでも分かれば後は怖いものなし。
服装が変化する件も正樹がベッドから離れて床で寝れば問題ない事なのかも知れない。
それならば今晩は大人しくこの部屋でゆっくりしよう。
このまま扉を閉めてしまうと女性の顔を挟んでしまうので、少し強引に閉めれば嫌でも離れてくれるだろう。
そう思って怪我をしない程度の力量で扉を閉めて女性の顔を扉に挟むが、女性は笑みを浮かべたまま一向に扉から離れようとしない。
それどころか足まで扉に突っ込んできて閉めさせないようにする気満々だ。
「ちょっとなんですか! 神様なんていないですってば!」
「いますゥ! 神サマはここにいますゥヨぉ!!」
女性は確信をしているように興奮して段々と鼻息を荒くしながら少しずつ身体を扉の中へ無理矢理入れ込もうとする。
「神サマはここにいますですゥ! ワタシ見たァ、見たノぉ! 神サマがここに入るのォ。 だから、だからあぁァァああああッ!!」
女性はガクガクと体を震え上がらせながら閉めようとする扉に無理矢理押し入ろうとする。
そうして顔がついに首元まで扉にこじ入れた時だ。
さっきまで不気味な笑みを浮かべていた女性は一瞬で正樹に対して憎悪と嫌悪といった表情で睨む。
「だからァ・・・貴様は死ね」
「!?」
扉の横の壁から刃物が突き抜け、まるで豆腐のように滑らかに壁を斬りつけた。
女性を入れまいと必死に扉を閉めようとしていた正樹は壁から突き抜けてきた剣を避ける為に仕方なく扉から離れ後退する。
「正樹様ッ!」
吹き飛んでくるように飛んできた正樹に未だに熟睡中のピースを抱きかかえたアンナが驚いた様子でこっちを見る。
「アンナッ! 逃げるぞ・・ってあれ? いつのまにか服が元に戻ってる?」
「え? あ、あれ? 本当だ。 いつのまに・・って正樹様ッ! まえ!!」
再びアンナの服装がこの国にやってきた時と同じ白いロングスカートに汚れてもいいような上着の軽装に戻っている事に気付いていると先ほどの女性が奇声のような笑い声を叫びながら部屋の中に侵入して正樹に襲い掛かる。
「ッッ!!」
今度は剣を横に振り斬るような形で襲い掛かってきた為、正樹は咄嗟に剣筋よりも低く身を屈ませて攻撃を回避する。
これに関しては驚いたのか女性はフラッとその場で立ち尽くし正樹を見下ろす。
「あレぇ? おかしいなァ? 殺したと思ったのにィ? 殺せたと思ったのにィ?」
カクカクと何度も顔を横に振りながら手に持っている剣と正樹の顔を交互に見入る。
「なんで死ななァい? なんで殺せなァい? ワタシぃ・・わたしはァ?????」
さらにカクカクと横に振らすスピードを上げていくと、女性はある所でピタッと動きを止めた。
その視線の先にはピースを抱きかかえたアンナの姿だ。
「・・・・・いたァ・・・」
女性はその時、涙を流していた。
まるで絶望の淵から希望を見出した人間のように、初めて救われたかのようなリアクションでポロポロと涙を流している。
「ァあ・・ぁア・・・ッ!! 御会いしとうございました。 神サマぁ!!」
胸を強く握り絞め、必死に叫んだその瞬間、ピクッと今もアンナに抱きかかえられたままの1人の少女が反応した。




