第66話 妄想(そうぞう)
人間の創造力という物は豊かなもので 1 を思いつけば 100 も考え付く事が出来る。
例えば大人気のアニメを見た視聴者たちが今後の展開を考え予想を膨らませれば一説を出せばまた別の説を予想して、時にはアニメの原作を手掛ける作者でさえ驚く結果を導く事がある。
良い言い方をすれば発想が豊か。
悪い言い方をすれば煩悩まみれと言える。
テスト期間で勉強に集中しなければならないと言うのに、つい棚にある漫画やスマホの動画に手が伸び興味のある事ばかり考えてしまう。
つまり何が言いたいのかと言うと――
人とは1度想像を膨らませてしまえば考える事を止めると言う事自体がほぼ不可能なのだという事だ。
「もぉ~やだぁ~・・」
「・・・」
ベッドの上で掛布団を被って身体を隠し顔をうずめているアンナの前に、正樹はどうする事も出来ず床に正座の状態で座っていた。
「急に給仕の恰好になったと思えば今度は白いミニスカの変な服に変わるし、その後は下着みたいな面積の少ない布状の物になったりお腹がさらけ出された赤い服、最後は胸元前回の黒いドレス服!」
なぜかナース服へと服が変化した後、まるで衣装大会が始まったように一方のテンポでアンナが身に纏う服が次々に変わっていった。
ナースの次はビキニの水着姿になり、今度は露出の多いサンタ服に最後は際どいドレス服へと変わっていき、耐え切れなくなったアンナはピースが寝ているベッドへ潜りこみ出て来なくなってしまった。
「・・・因みにアンナ。 もしかして今もベッドの中で服が変わってたりしてる?」
「はぃ・・今度は奥様と初めてあった時のせいふく? みたいな服に変わってますぅ・・」
「・・・」
まだ恥ずかしいのかアンナは布団から顔を出すことなく正樹の質問に答えた事に、正樹は心から安堵と謝罪の気持ちをアンナに向けて心の中で叫ぶ。
(多分、僕だ。 いや、正確には僕のせいでもないし原因も何も分からないけれど、その原因と発端の間にほぼ必ず僕も関わっている・・と思う)
そう結論が出た理由。
それはアンナが今まで変化していった服装に関係してあった。
アンナにメイド服が似合いそうだと考えたあの瞬間、自分が想像した通りのメイド服を着たアンナが後ろに立っていたからだ。
さらに次に変わったナース服も、水着も、サンタも、そしてドレスと制服もすべて今、正樹が心の中で想像していた服と一致しているからだった。
(と、とりあえず考える事を止めよう。 これ以上考えちゃうとアンナの感情ステータスがオーバーヒートしてしまう!!)
すでに掛布団上からでも分かるほどの熱の蒸気を発している。
(よぉ~し! まずは別の事を考えよう! え~と、とりあえずここで一夜を明かした後は早朝にこの国から出て近くの街までを目指す事にしよう。 うん。 そうしよう!)
「な、なぁアンナ? とりあえず今後の事なんだけどさ」
今後の事というワードに反応したのか顔をうずめていた布団から少しだけ頭が出てきて布団の隙間からアンナと視線が合う。
その姿はまるでコタツに入った猫のように見える。
「あ、やべ」
しかし、声に出した瞬間にはすでに遅かった。
「今後の事と言うと・・この国から出る事ですか?」
「あッ?! ちょッ! ま、待ってアンナ!」
会話をしようと布団から頭を出したアンナは何故か顔を横に向けて視線を泳がせる正樹を見てベッドの横に置いてあった化粧鏡で自分の顔を見る。
するとそこには猫耳と髭が生えた獣人に近い姿をしたアンナの姿があった。
「にゃ・・にゃんですかこれはぁぁあああああッ!!」
猫のように見える。
そう考えた時に一瞬、猫耳の飾りをつけたアンナの姿が思い浮かんでしまった事に、正樹は自分の想像に対して若干嫌気になっていた。
シャー
シャー
シャー
何処かで刃物を研ぐ音が聞こえる・・・
 




