表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤンデレ彼女も異世界へ!  作者: 黄田 望
第二章 【 魔王と神 】
65/142

第64話 経緯


 「さて、アンナにピースちゃんや。 一旦ここまでの整理をしよう」


 大きな穴の開いたボロボロのソファーにあぐらをかいて座る正樹は、ソファーと同様に捨てられていた敷布の下に敷いて座るアンナとピースのここまでの状況をまとめる事にした。


 「僕はカガミの鏡の中に保護(避難)してもらっている所で急に地面と壁が反転して鏡の世界へ落下してこのゴミ置き場に落ちてきた。 これが僕がここまで来た経路だ。 アンナは?」

 「あ、はい。 私はピースちゃんと執事様の鏡を覗いていると正樹様の姿が急に消えた事に気が付きました。 その後すぐにまるでピースちゃんが()()()()()()()()()()()鏡の世界へ入って行ったのでそれを止めようと私がピースちゃんを掴んだ所、一緒にここまで落ちてきたと言うのが現状ですね」


 ここまでの流れを思い出すように語るアンナの膝には、疲れたのかウトウトと眠たそうに横になっているピースの頭を優しく撫でる。

 

 「ふむ。 総合的に考えると、原因はすべてカガミにあるわけだな。 帰ったら一発殴ろう」


 今はここにいない鏡の顔をした執事服の男に対して力一杯に拳を握り絞め、思いっきり殴りつけるイメージをする。


 「そうですねー。 よりによってまさか英雄の国だなんて。 はぁ~」

 「ん? 随分と深い溜息だね。 苦手な場所だったりする?」

 「まぁ、これでも元々魔王をやっていましたから。 魔族である以上あまり良い気分ではありません」


 それもそうだろう。

 この国の名前である英雄の国は一説では魔王を倒した勇者の生まれ育った場所だというのだ。 

 そんな宿敵の故郷に来ていい気分になれないだろう。


 「そうだよな。 それじゃどうにかして早く移動しないとな」

 「ジィ~・・・」

 「な、なにその目は」

 「・・・正樹様。 お言葉ではありますが敢えて発言させて頂きます」

 「あ、はい」


 完全に眠りについたピースが起きないように抑えた声量でアンナは正樹をまるで呆れたような様子で見ながら話す。


 「私達がこの国に来てからどれくらいの時間が過ぎましたか?」

 「・・・分かりません」

 「分かりました。 質問を少し変えましょう。 現在の時刻がどれくらいかご存じですか?」

 「・・・夕暮れ時・・ですね~」


 高い建物の隙間から差し込む夕焼けを眩しそうに眺め、真上を見るとすでにチラホラと星空が見え始めていた。


 「私達がここに飛ばされてから約1時間ほど経過しています」

 「・・そうだね」

 「それならばすぐに移動さえすればこの国から離れ近くの村や街へ向かう事も出来たかもしれません」

 「・・そうだ・・ね」

 「それではなぜ、私達は未だに最初と同じゴミ置き場にいるのでしょうか?」

 「・・・」


 話が進めば進むほどアンナの視線が矢を突き刺すように痛くなり、正樹はさっきまであぐらをかいて座っていた姿勢をいつのまにかソファーから下りて地面で正座をしていた。


 「私達が未だにこのゴミ置き場にいる理由。 それは正樹様が原因である事をお認めになって頂きますか!!」

 「すみませんッ!!」


 ピッ! ――とさされる指に完全に逃げ所をなくした正樹は深々と頭を下げて地面にこすりつける勢いの誠意を見せた。

 

 本来であればアンナの言う通り、場所さえ分かれば早急に帰路についてこの国から離れる事がベストだったのだが、これもすべては自分のスキルあっての困難だった。

 まず1番最初に国の人々が賑わう表通りへと足を運んでみるとすれ違うありとあらゆる女性達が正樹を狙って声をかけてきた。

 それも普段生活している街の比率など比べ物にもない女性達が押し寄せてきた。

 その為、正樹と巻き込まれたアンナとピースは一時撤退を余儀なくされた。


 2回目のチャレンジではゴミ置き場に捨てられていた帽子をアンナが使える程度にまで裁縫で縫い使用できる程度にまでした後、顔を隠しながら人通りの少ない道路から脱出を試みた。

 しかし

 今度は怪しい匂いを漂わせる女性達に囲まれこれも一時撤退を余儀なくされた。

 

 え?

 なんで怪しい匂いをしていると思ったかって?

 それはもちろん雰囲気が由紀ちゃんに似―――


 「ゲフンゲフンッ!!」

 「ど、どうしたんですか急に?!」

 「いや、大丈夫・・気にしないで。 なんだかその先は考えてはいけないと思ってつい」


 そして3回目。

 今度は街へ降りてギルドに向かう際に使った作戦。

 近寄ってくる女性達から正樹を守る為にアンナが正樹にベッタリとくっつき追い払う作戦だ。

 ピースもいた為なるべくピースには被害が及ばないように、ピースを真ん中にしてピースの手をそれぞれ片方ずつ握って出歩く作戦を決行した。

 由紀がいない事で作戦の効果は薄いものだと予想してはいたが、子供連れという事もあるせいなのか遠目から正樹を狙う女性はいた物の近づいてくる女性は1人もいなかった。

 そう・・女性・・・は。


 「おかしいですよねー。 周りの女性達が近づいてこなくなったと思えば今度は周りの男性達から何故か色々な物を投げつけられてきたんですから。 正樹様に向かって」


 何やら妬みが含んだ感情で投げつけられていたようにも感じたが、流石にピースに被害が出てしまうと大変だと考え、ここでも一時撤退を余儀なくされた。

 

 それからも何度か色々と試しながらどうにかしてこの場から脱出できないかと実践してみたが、どれも呆気なくハーレムスキルのせいで逃げる事は不可能で終わった。

 

 そして現在、そうこう話している内に夕焼けは沈み、星が煌めく星空には月が昇っていた。

 

 「どうしよっかなー。 ピースちゃんもいるし一夜をこんな場所で明かす訳にもいかないし」


 森とは違い人が暮らす都会とは言え夜になれば肌寒さを感じるくらいに気温は下がる。

 そんな環境で子供を一晩明かすなど絶対にダメだ。

 ここまで来たらアンナとピースだけでも何処か泊まれる場所に行ってもらおうと提案する直前だった。


 「仕方ありませんね。 今晩はこの国で過ごす事にしましょう」

 「そうだね。 それじゃあアンナ。 悪いんだけどピースちゃん連れて何処か泊まれる場所に。 僕はとりあえず今日はここで寝るよ」

 

 ボロボロだとは言えソファーがある事は不幸中の幸運だろう。

 固い地面よりは幾千とマシだ。


 「何言ってるんですか。 正樹様も一緒に行きましょう」

 「いや行きましょうって、人の出入りが少なくなる時間まで待ってたらピースちゃんもアンナも体冷やしちゃうだろう」

 「それは正樹様も同じことです。 でもご安心を! 実は何度か正樹様がここから脱出を試みている間に念の為泊まれる場所を探していたんですよ! しかもすぐそこ! 人に出会う心配もないくらい本当にすぐそこ!」

 「 ? そんな近くに泊まれる場所なんてあった?」

 「それがあったんですよ! さぁ! 早速行きましょう!」


 妙にテンションが少し高めとなっているアンナは、寝息をたてているピースを起こさぬように抱きかかえ、見つけていたという一泊出来る場所へと向かう。

 正樹はそんな宿泊できそうな建物が近くに合ったものかと首を傾げながらアンナについていくと、本当にゴミ置き場から細い裏路地を曲がってすぐの場所にそれらしき建物が建っていた。

 ――と言うより見て分かるくらい旅館だと分かる飾りつけをしている。

 昼間は営業していないのか飾りの明かりがなかったから気付かなかったが、玄関付近に時間であろう数字と金額が記載されている看板が建っている。

 恐らく・・いや十中八九、宿泊施設である事は間違いない。

 間違いないのだが・・・


 「ほら見てください正樹様! この建物、なんと男性と女性が泊まれる場合のみ料金半額なんですよ! これなら何とか一泊ぐらいできそうです!」

 「うん・・・そうだね・・いや、ごめん。 ちょっと待ってアンナ」

 「 ? どうしたんですか正樹様。 なにかご不満が?」

 「いや、不満があるとかないとかそういう訳じゃないんだけど~~~・・・ッ」


 どうする。

 ここは正直に伝えるべきなのか。 

 それとも気付いた上で気にしていないから言っているのか分からない。

 だけど・・いやしかし、これは~~~!!


 「あ、このお店の名前【ドリーム オブ ミー(素敵な夢を)】って言うみたいですよ。 確かにこれだけ綺麗な飾りつけをしていれば素敵な夢も見られそうです! ―っという訳で早く入りましょう正樹様! こんな場所に立っていたらまたいつ女性に見られてもおかしくありませんから!」

 「あっちょっ、アンナ!」


 急かすように正樹の手を取り建物の中へと入って行くアンナに慌てて一緒に入って行く正樹だったが、人知れず心臓の音が大きくなっているのが自分でも分かる。

 それは女の子と2人で寝泊まりをする事態になった事だけではない。

 1番の問題はアンナが見つけたこの宿泊施設が只の宿泊施設ではないという事だ。

 

 恐らく、正樹の記憶にあるこの建物の飾りつけや看板の立て方からして想像した事。

 それは――



 (ここってラブホじゃないのかッ?!)


 

 思春期真っ只中、17歳。

 正樹の鼓動はすでに爆音が鳴り響いていた。

都市国家の中でもゴミ置き場として化している場所には人通りも少なく、普通なら近づく事もない地域である為、余程な事が無ければ現地の人間が足を踏み入れる事は多くない。

 それも夜になると治安もガクッと悪くなり一般人には近寄りがたい。


 そんな中、とある宿泊施設へと入っていく若い男女の姿を建物の隙間から瞬きすらせずに見ていた人影があった。


 「・・・なに・・あれ・・・」


 小さい声で、かつ殺気のこもったその声に夜行性の動物達は一目散に逃げていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ