第62話 鏡の映像
「うわぁぁぁぁぁぁぁッ!! お、落ちてるぅぅぅぅッ!!」
カガミの顔である鏡の中にいた筈の正樹は今、まるでスカイダイビングをしているかのような加速で急落下していた。
何故に鏡の中で落下しているのかは正樹自身も理解できていないが、まるで立っていた地面が急に壁となり重力が180度変化したかのように落下が始まった。
「カガミーッ! マリーさーん! アンナー! ピースちゃーん! 誰かーーーっ!!」
一体どこまで落ちていくのか、落下していく下を見ても地面など見えず、視界に映るのはさっきまで地面だと思っていた壁にいつの間にか多くの鏡が飾られている。
鏡の種類はすべて違い、大きなものから手鏡サイズの小さいものまで幅広く飾られている。
そんな多くの鏡が飾られている中で、正樹は1枚の鏡を落下していくすれ違いに視界に映った。
その鏡に映っていたのは正樹本人の顔ではない。
鏡が映し出していたのは――――
正樹が血を流して倒れている姿だった。
「なんだ・・・今の・・」
一瞬頭の中が真っ白になったその瞬間にも、落下している最中である正樹の視界には別の鏡の中の映像が視界に入る。
次に見た鏡が映し出していたのは、何処かの現代の街。
ただし信号近くで起こったであろう事故現場だ。
電柱にぶつかって止まったトラックの背後には身体の骨が折れて倒れている正樹の姿。
次の鏡の映像には病院で死ぬ正樹の姿。
次は誰かに包丁で刺され死ぬ姿。
更に次は屋上から飛び降りる姿。
次も、その次も、さらにその次の鏡の映像にも。
すべての鏡には何故か何通りかの正樹が死ぬ映像が映し出されていた。
「なんだこれ・・一体なにが・・」
今、自分が見ている物が何なのか理解が追い付かない正樹はただ落ちていく際に視界に映る鏡の映像を眺めていくことだけだった。
そんな頭の整理が追い付かずにいると、ようやく地面らしきものが見え始めた。
その時だ。
「―――正樹さん」
聞きなれた声で正樹の名を呼ぶ声が聞こえた。
いつも自分には勿体ないほど綺麗で可愛く、だけども少し束縛が強くで自分以外の女性と会話をしているだけで性格が変わってしまうヤンデレの彼女。
「ゆき――――」
声が聞こえた恋人の名前を呼び振り向いたその瞬間、正樹は目を見開きまるで落下する時間さえも止まってしまったかのように感じる感覚が全身を襲った。
そこで正樹が見た物とは、周りにもある同じ1枚の鏡。
ここまで落下していく中で何故か自分があらゆる関連で死ぬ瞬間の映像が映し出されていた。
しかし
そこで正樹が見た鏡の映像は他の物とは全く別の映像が映し出されていた。
そこに映しだされていた鏡の映像には、まるで誰かを見下ろすように眺めながら、血が付いた包丁を手に持つ由紀の姿が映し出されていた。
そして最後に鏡の映像から映し出されている由紀から一言の声が聞こえる。
「あぁ。 また失敗した」
 




