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ヤンデレ彼女も異世界へ!  作者: 黄田 望
第二章 【 魔王と神 】
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第61話 ピースの意味


 「まだ帰ってきませんね~奥様。 何かあったんでしょうか?」


 コトコトと今晩のスープを煮込みながら、夕暮れになっても帰ってこない由紀を案じるアンナ。

 その横では慣れない手つきで真剣な表情で調理で使った調理具などを洗っているピースの姿があった。


 「あら~。 もうこれは(わたくし)にマサキを譲るという意志表示なんじゃないかしら~。 空気の読めない心の重い人にしては良い心掛けね~。 ――っという事でマサキ~。 今晩は(わたくし)達の子供を作りましょうか~!」

 「とかなんとか言って先ほどから扉をチラチラと落ち着かない様子で伺っているようですが・・。 心配なら少し街近くまで様子を見てきましょうか? マリー様」

 「ありがとうカガミ~。 そんな勘違いをしている貴方にはトンカチをプレゼントするわ~」

 

 笑っている表情であるにも関わらず何処から取り出したのか片手にトンカチを持ち、いつでも振り下ろす態勢を整えながらジリジリとマリーはカガミに近づいていく。


 『待ってマリー! それだと僕がここから出られなくなっちゃう! 例えカガミの命が危うくなるとしても僕がここから出られなくなるのはとてもまずい!!』

 

 そんな殺人現場に変わりそうな場面の中、カガミの顔である鏡の端から焦る様子で顔を見せたのは正樹だ。

 正樹の登場に今にも振り下ろそうとしていたトンカチを持つ手はピタリと止まり、マリーは小さく肩を落とした。


 「確かにそれはいけませんね~。 例えここでカガミの顔を割って気分がスッキリしてもマサキが戻ってこなければ意味がありませんわ~」

 『そうだよ! もしもカガミの顔を割りたいなら僕がここから出てからにしないとッ!!』


 「あの、お二方。 私に何か恨みでも?」


 まるでカガミの事はどうでもいいかのような会話に思わず正樹とマリーの会話に入るカガミだったが、二人の返答は返ってこなかったショックを受け、カガミは分かりすく落ち込んだ。


 「いいですよいいですよ。 どうせ私なんて占いだけが取り柄でしかないちょっと珍しい顔をした執事ですよー!」

 『結構すごい取り柄だと思う』


 そんな正樹のツッコミには耳を傾けずカガミは壁際に顔を向け落ち込む様子で体を小さくうずくまる。

 そんな落ち込んだカガミの肩にポンポンと小さな手が優しく叩かれ振り向いてみると、先ほどアンナの料理を手伝っていたピースがカガミの顔の覗き込ませていた。


 「おや? もしかして私の顔が珍しいのでしょうか? そうですよね。 人間の顔が鏡の顔なんて珍しくて覗き込みたくなりますよね。 いいですよ。 いくらでも見てください。 そしてこちらのお二方に私の顔を壊さないように守ってください!」

 『子供になびかせるとか卑怯にもほどがあるだろう』


 鏡の顔の癖にいっちょ前に目の辺りから涙を流しながらピースの手を握り頭を下げるカガミに、思わずピースも少し後ずさる。

 しかし、それよりもやはり鏡の顔と言うのが珍しいのかジッと顔を覗かる。

 その際に鏡の中に未だ滞在中に正樹と視線が合う。


 『イエーイ。 ピースピース』

 「なんですか何してるんですかマサキ。 いきなり意味不明な事をするからピース様が驚いているではありませんか」

 『驚いているのはお前の必死な様子を見てだからね! 僕のピース姿で驚いてるわけじゃないからね!』


 正樹はピースの視線が合った際に咄嗟に両手でVサインを作ったのだ。

 だいたいこの状況だと手を振るというのが約束だと思ったが、鏡の世界から見る現実の世界という物は面白い物で、まるで動画を録画されているかのような感覚なのだ。

 

 鏡が本来、現実の世界を模範して映し出しているという事は()()()()()()()()()()()()という事だ。

 カメラが映像を記録してデータ化するように、鏡は現実の世界を記録して反転した世界を映し出している。

 つまり、いつもなら現実世界から見る景色を映像を記録している正樹が、今は逆の立場となり、()()()()()()()()()()()()()()()()()という錯覚を創り出している。

 それを踏まえてなんとなくピースと視線が合った正樹は鏡の外からカメラで録画されているような感覚を味わっているのだ。


 「 ? 正樹様。 先ほどから何故ピースちゃんの名前を呼んでいるのですか?」

 『へ? 別に呼んでるつもりはないんだけど?』

 「しかし先ほど言っていませんでしたか? その両手で指2本を立てたあたりからピースピースと」


 大方の晩御飯の準備を終えたのか、アンナはエプロンを外して椅子に掛けるとピースの隣に膝をつき、鏡の世界にいる正樹を見る。


 『・・・あ。 まさかこっちの世界ってピースサインっていう概念がない?』

 「ピースサイン~? この指の形に何か意味があるの~?」


 正樹と同じ両手でVサインをマリーも同じように形を作ってみる。


 『う~ん、まぁ意味としたら一応このサインは【 勝利 】っていう意味があるみたいだけど、あんまりその辺りを気にして示したことはないな~』

 「へ~この指の形が勝利と言う意味なんですか。 ピースちゃん、勝利ですって。 ピースちゃんの勝ちですよ!」


 一体何に勝てたと言うのか。

 ――と問いかけは野暮という事はその場にいる全員が理解していた為、アンナがピースサインすると同時に笑顔を向けてピースサインを作るピースとのやり取りを見て微笑んでいた。


 『まぁこのサインの意味としては確かに勝利と言う意味なんだけど、名前としてはまた別の意味になるんだよ』

 「ほぅ。 サインとは別に名前だけで違う意味があるのですか。 それは面白いですね」


 落ち込んだ様子から復活したのかカガミは正樹の話を興味深そうに耳を傾けていた。


 「それで、その意味とは一体どんな意味が?」

 『うん。 その意味っていうのが―――』


 カガミの質問に他3人も興味深そうな表情で正樹の返答を待ち構えていた。




 『―――【 平和 】って意味なんだ』


 


 それは一瞬の出来事だった。

 ピースの名前の意味を言ったその瞬間、まるで重力そのものが急に方向転換したように正樹は後ろに()()()()()()

 

 その一瞬の出来事を一部始終見ていたアンナ達も頭が追い付かず、まるで正樹が自分から後ろに飛んで行ってしまったように見えて状況が掴めないでいた。


 そしてそんな脳の処理で理解できたことは、正樹が鏡の世界へと消えてしまったという事だけだった。

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