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ヤンデレ彼女も異世界へ!  作者: 黄田 望
第二章 【 魔王と神 】
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第60話 昔話②


 桃が老夫婦の家で暮らすようになってから2年と半年が過ぎた。

 季節は2回目の秋が訪れ、村は次に来る冬を越す為、食料の調達や冬着の準備で大忙しだ。

 流石に2回目となると村の仕事も把握できるようになった桃は去年よりも率先して村娘達と共に働いていた。

 いつも通りに平和な日常が過ぎ、当たり前のような日常が過ぎていく。




 ―――そう、思っていた。



 

 

 さっきまで晴れていた天気は急に反転して雲が覆い、雨が降ってきた。

 しかし村の人々はそんな雨の事など気にする事も無くある家を囲うように集まっていた。

 その家は昨日まで笑い声が絶えなかった老夫婦と1人の女性が暮らしていた家だ。


 『・・・桃ちゃん・・』


 家の中で力なく座り込んでいる桃の声をかけてきたのはふくよかな身体をした女性だ。


 『桃ちゃん、その、無理を言うようだけど元気をお出し。 そんな顔をしていてもお爺さんもお婆さんも帰ってはこないよ』


 女性の言葉に桃は頷く事も横に振る事もしなかった。

 桃の視線の先には白い布を顔に被せられながら横になっている老夫婦の姿だった。

 何故、お爺さんとお婆さんがこんな事になってしまったのか。

 本当なら、今日はお爺さんが川で釣ってきた魚をお婆さんが料理して待ってくれているはずだった。

 いつも通りに笑顔でお帰りと言葉をかけてくれて、他愛無い話をして笑い合って、そして狭いボロボロの家の中で冷えないように3人で川の字になって一緒に眠り、目を覚ませばおはようと声をかけてくれるはずだった。


 それなのに・・・なぜ・・・。


 現実の現状を受け入れられない状態だった桃の所に、息を切らしながら1人の若い村の男が家に入ってきた。


 『桃ッ! 分かったぜ爺さんと婆さんを襲った奴らの事!』


 実は老夫婦は家の中で倒れているのが見つかっただけで誰もお爺さん達の身に何が起きたのか知る者はいなかった。

 唯一の手掛かりはお爺さんとお婆さんが流した血が何者かの足跡が外に繋がっていた事だけだった。

 それに気が付いた村の男達が足跡を追ってくれていたのだが、その内に1人がわざわざ急いで報告をしに来てくれた。

 しかし、若い村の男はまるで怯えた様子で顔を真っ青にしながら周りにいた村人達にこういった。


 『爺さんと婆さんを襲ったのは人間じゃねぇ! ありゃ()だ!!』

 

 村の男の言葉に村人達に動揺が走る。

 鬼と言うのは村に伝わる人間の姿に近い謎の生命体の事だ。

 村から北東の方面にある地域に生息しており、その生態は熊よりも大きく恐ろしい妖術を扱うと言われている。


 『おい鬼だってよ。 ここにいると俺達も危ないんじゃないか?』

 『でもどうするの。 逃げるとしてももうすぐ冬が来るんじゃ山の中で凍え死んじまうよ!』

 『しかしここにいてもまたいつ鬼がやってくるか分からんぞ! 次は我々を狙ってくるかもしれん』


 ざわざわと村人達が慌て始め不安は次第に恐怖へと変化していった。

 そんな中、更に悪い状況が訪れてきた。


 『誰かァァああああああッ! 助けてくれぇええええッ!!!』


 家の外から男性の悲鳴が聞こえてきた。

 声のする方面へ村人達が視線を向けると、そこには大きな何かに追われ血を流しながら必死に逃げてる村人の1人だ。

 必死に逃げる村人の男性は足を怪我しているせいかまともに走る事が出来ず、すぐに大きな何かに追いつかれ、グシャと何かが潰れた音と共に姿を消してしまった。

 そして、その光景が村人達の目に映った瞬間、紅い瞳をした獣と目があった。


 『お、鬼だァァァあああああああああッ!!!』


 誰かの叫びと共に村人達は悲鳴を上げながら鬼と呼ばれる生物とは正反対の方向へと一目散に逃げて行った。


 怯える声。

 子供の泣き声。

 助けを乞う声。

 多くの不安と恐怖が交じり合う感情が広がっていく。


 その声が心地いいのか、はたまた楽しいのか、鬼と呼ばれる生物はゲラゲラと汚い笑い声を上げながら逃げていく村人達を追いかける。

 そんな中、鬼は逃げ遅れた親子を目を付けた。

 まだ幼い子供抱えて逃げ遅れた親子はおぞましい笑みを浮かべながら近づいてくる鬼に怯え、子供の母親は子を守ろうと強く抱きしめて体を出来るだけ丸まっている。

 そうして鬼は先ほど逃げていた村の男と同様に、棍棒のような物を親子に向けて振り上げた。


 『誰か―――ッ!! 助けてッ!!』


 必死に助けを叫んだ母親に対して、鬼は狙いを定めて棍棒を振り下ろした。





 しかし幾度待てども親子に棍棒が当たる事など無く、痛みすらも感じない。

 一体何が起きたのか何も理解できない母親だったが、震え続ける母親の抱きしめられていた子供が母親に声を変える。


 『母ちゃん。 あれ』


 子供の声に『え?』と声を洩らしながらゆっくりと振り返ると、目の前には鬼ではなく見覚えのある後ろ姿が立っていた。

 ピンク色の長髪をした女性。

 桃が立っていた。


 母親は何が起きたのかまったく理解できずに呆けていると、桃の目の前には先ほどまで自分達を殺そうとしていた鬼が立っていた。

 しかし、その鬼には先ほどのような不気味な笑みは浮かべておらず何故か怯えた様子を見せていた。



 ――何故(なにゆえ)に命を奪う



 何処かからか声が聞こえた。

 静かに透き通るような綺麗な声で、しかし何処か怒っているような低い声。


 

 ――何故(なにゆえ)に理解が出来ぬ


 

 何処から聞こえてくるか分からない声は次第に大きくなっていき村人全員に聞こえていた。


 ――何故(なにゆえ)に考えれぬ

 ――何故(なにゆえ)に分からぬ

 ――貴様らもまた、同じ心持つ生物であろうて・・・何故に・・・何故・・・


 少しずつ小さくなっていく声は次第に聞こえなくなっていくと、桃の足元から光の粒子が溢れ出てくる。

 光の粒子は次第に天高く昇って行き空を貫いた。

 そして、桃に手にはいつの間にか1本の剣を持っていた。



 『【    】』



 そうして天まで昇る光の柱と同じく剣を空へ振り上げると、桃は誰にも聞こえない声で呟き剣を振り下ろした。

 すると目の前に立っていた鬼は一瞬で光の粒子に包まれ跡形もなく姿を消してしまった。



 ◇ ◆ ◇ ◆


 村人達は一体何が起きたのか全く理解が出来ない。

 其れは知識のない村人達だったから分からなかったわけではない。

 其れは人智を超えた何かが起こったから分からないのだ。


 天まで昇る光の柱は世界各国で目撃される事となり、人々に希望をもたらして人々の心に強く刻まれ誰もが天に祈るようになる。


 そして、後に人智を超えた現象をこう呼ぶようになる。


 ――神様、と。


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