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ヤンデレ彼女も異世界へ!  作者: 黄田 望
第二章 【 魔王と神 】
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第54話 少女


 長く続いた梅雨の時季を終え、日差しが強くなり始めた初夏。

 強い日差しを照らす太陽の下でアンナは溜まった洗濯物を干し終えて背を伸ばす。


 「う~ん! 今日も良い天気!」


 自分1人程度の洗濯ならそれほど時間もかからないが、魔王という職を降り、何故か今は小さな家の中でシェアハウス状態で暮らしている。

 それもあり洗濯物もその人数分にまで増えている為、家の裏にある干し場所もいつも以上の場所を取る羽目となった。

 

 「まぁ、これだけあると逆にやりがいがあったかな?」


 風になびき揺れる洗濯物を眺め、何処かで達成感のようなものを感じながら洗濯籠を手に取る。


 「おや。 もう干し終えたのですか? アンナ殿」

 「あ、執事様・・って眩しッ!!」


 家の裏口から出てきたのは執事服を着て顔が鏡となった男性、カガミという名の男だ。

 晴天の空に浮かぶ太陽の日差しが彼の鏡の顔が反射して、アンナは思わず目を細めて両目を手で影を作る。


 「おぉ、これは申し訳ない。 しばしお待ちを・・・・これでどうですかな?」


 カガミは自分の顔からニット帽を取り出して頭に装備する。

 確かにそれで日光の反射は対処できたが、執事服にニット帽は驚くほど似合わないなと思う。


 「流石の仕事の早さですね。 我が城のメイドでもこの量を1人で干すのは少々厳しいのですが・・」

 「あははは。 まぁ、慣れといいますかなんといいますか・・」


 あまり褒めてもらうという事に耐性の少ないアンナは少し照れくさそうに指で髪をクルクルと触りながら誤魔化す。


 「ハハハ。 またまたご謙遜を。 それに()()()という貴女が洗濯物に慣れるというのは少々不思議に思う所もありますが・・」

 「・・・」


 カガミの意味深に言い含めた言葉に思わず鏡の顔を見上げるアンナに対して、カガミは肩をすくめる。


 「そのような怖い顔をしないでください。 私はまだ、あの方達には何も申し上げていません」

 「・・つまり、貴方の占いがまだその時ではないと結果にでたのでしょうか?」

 「どうなんでしょうな。 私も、もうこの占いが確実に当たるという自信を先日失ったばかりですので」


 そう語るカガミの声はどことなく寂しそうな声色だった。

 先日と言うのは、教会で起きた出来事のことだろうう。

 この顔が鏡で出来たカガミは、千年も前から生存している不死身の禁書目録を所持していた魔術師だ。

 女神の加護と呼ばれる神の権限を狙っていた老婆から思い続けていた女性と再会する為に歩み続けてきたカガミだったが、占いで出ていた思い人との再会は果たされる事無く終幕した。

 ただ、どうやらまだやるべき事が残っているのか、彼はまだ執事として生きていくことを選んだらしい。


 「さて、このような小難しい話をする為にここに来たのではありませんでした。 昼食の時間にはまだ少し早いですが、紅茶を用意したのです。 いかがです?」


 執事らしい振る舞いでお辞儀するカガミにアンナは小さく溜息を吐く。


 「えぇ。 ありがたく頂きます」


 ◇ ◆ ◇ ◆


 裏口の扉から家の中に入ると、扉から先は異空間と化していた。

 殺意と独占欲と感情が蠢いた何かが可視化され、陰陽のように2つの色に別れ家の中を侵食している。

 片方は蒼く輝く粒子がフワフワと浮かび上がり、一方は真っ黒な靄が広がり暗闇が覆っている。

 アンナはその状況を見て思わず扉を一度閉めた。


 「・・・なんですか。 あれ」

 「さぁ? 神同士のじゃれ合いのようなものでは?」

 「では止めて来てくださいよ執事様。 片方は貴方の主様でしょ」

 「そういうアンナ殿こそ。 あの禍々しいオーラを解き放つ張本人の御友人でしょう? 先に彼女の方から止めて来てくれると私も嬉しいのですが」

 「それが出来るのなら苦労はしません」

 「ですな。 ・・っとなればやはり」

 「・・・はい」


 アンナは少しだけ扉を開き小さい隙間から家の中の様子を覗き込み、アンナの上からカガミも同様に覗き込む。

 

 「・・さて、もう1度話をまとめましょうか。 淫乱女」


 冷たい声色と視線で相手を睨むのは由紀だ。

 腕と脚を組みまるで女帝のような雰囲気を出す彼女に、普通なら体の芯から震えあがり目を合わす事も出来ないであろう迫力が溢れ出ている。

 

 「あらあら~。 まとめるも何も~、すでに決定した事をもう1度話を掘り上げようなんて流石は重すぎる人ですね~貴女は」


 一方、そんな由紀に対して余裕の笑みを浮かべながらカガミが事前に用意した紅茶を一口飲んでいるのはマリーである。

 相手を怯えさせる雰囲気を纏う由紀とは相対的で相手を怯えさせるのではなく、まるですべてを受け入れるような優しい雰囲気を漂わせる彼女はまさに女神そのもの。

 ――ただ、アンナとカガミは分かる。

 優しい微笑に対して、目だけは笑っていない。

 あれは獣を狙ってる目だ。

 目を合わしたら最後、すべて喰らいつくす恐ろしい目をしている。


 「あらそう? それならこの話は終わりね! 正樹さんにお帰りなさいのハグをするのはこの私で決定ね!」

 「あらあら~。 貴女、見た目に寄らず記憶力がゴブリン以下なのかしら~? マサキにお帰りなさいのハグをするのはこの(わたくし)で決まりだと何度言えばわかるのかしら~?」

 「は?」

 「あら~?」


 ピシリッ ――と何かが割れてヒビが入ったような音が聞こえたと思うと、異空間と化していた家の中が更に時空間が捻じ曲がっているように見える。


 そんな状況を外から見ていたアンナは再び扉を閉めた。


 「・・・どういう状況ですか?」

 「はい。 つまりこういう事です」


 カガミは自分の鏡に映像を流して説明してくれた。

 会話の流れは正樹が少し散歩に出かけてくると家を出てすぐの時だった。

 アンナは洗濯物を干しに裏庭に。

 カガミは昼食の準備にキッチンへ。

 そうしてリビングに残ったのは自然と由紀とマリーの2人だけになった。

 そして、そこで事件は起きる。


 『昔、世話をしてくれるメイド達から聞いた話なのだけれど~、異性の御方にハグという物をすると意識して好意に繋がるらしいんです~』

 『・・・だから?』

 『だから~。 貴女邪魔なんで何処かに行ってくれませんか~?』

 『なんでよ! 正樹さんの抱き着くなんて事、妻である私が許す訳ないでしょうがッ!』

 『もぅ~、これだから重い女性というのは~。 そもそもまだ結婚もしていないのにそんな事言ってるからマサキも辛いんだと思うのよ~。 だから(わたくし)の抱擁で少しでも彼の苦しみを楽にしてあげようかと~』

 『ちょっと、そのわざと腕を組んで胸を押し上げる仕草やめて。 むしり取るわよ?』

 『あらあら~。 いくら御自分の抱擁に自信がないからと他人を傷つけようなんて~、野蛮にも程があるのでは~?』

 『よ~しわかったわ。 覚悟しなさい。 この淫乱女!』

 『こちらも容赦しませんわよ~?』


 そこから本気で神の権限で喧嘩しそうな所をカガミが割って入り、何とか話し合いで事を終わらせる話になったのだが・・。


 「その結果が空間を捻じ曲げる異空間を創り上げてしまった・・と」

 「私もまさかこのような事態になるとは、いやー参りました! ハッハッハッ!」


 笑っている場合ではないのだが、結果的に自分達が今ここで2人に割って入ってもやれることなど何もないのでアンナも溜息を吐く事しか出来ない。


 「因みに正樹は今何処に?」

 「確か街の近くまで降りてすぐに戻ってくるとか言っていましたし、そろそろ戻ってくると・・・あっ!」


 噂をすればなんとやら。

 森の奥から正樹の姿が見え、アンナは思わず声を上げて腕を大きく振るう。

 あの2人を平和的に治める事が出来るのはもう正樹しかいなかった。

 家の中の空間を捻じ曲げる現象を創り上げる2人に対して、賢者の石を保有している元魔王とは言え怖いものは怖い。

 早々に何とかしてもらいたいという一心で正樹の姿を見た後、安心したのだが、アンナの大きく振る手は正樹が近づいてくる度に徐々に小さくなっていき、最後にはピタリと動きを止めてしまった。

 隣に立っているカガミに関してはせっかく直り始めていた鏡のヒビが更に割れて壊れたロボットのようにガクガク身体を震わせていた。



 ◆ ◇ ◆ ◇


 「ただいま~」


 「「 !? 」」


 家の扉から最愛の相手の声が聞こえたと同時に由紀とマリーは神の権限で溢れだしていた魔力を一瞬で押さえ仕舞い、同時に駆ける。


 「お帰りなさい正樹さーん!」

 「お帰り~! マサキ~!!」


 両手を広げ、正樹の飛び掛かり抱きつこうとする2人だったが、直前で足を止め目をパチリッと瞬きをする。

 その理由は抱きつこうとしていた正樹には、すでに()()()()()()()()()()()()()


 淡いピンクのワンピースに麦わら帽子を被っているその人物は、見た目からして10歳ほどの年齢の可愛い少女だった

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