第51話 対面
お久しぶりです!
ようやく続きを書く事ができました!
どうかお付き合いください!
夢を見ていた。
悲しくて儚く叶う事の無かった、とある女性の恋物語を。
「これは~・・・涙?」
頬に流れる涙の感覚で目が覚めた。
視界に映るのは何処までも真っ白な景色で、まるで一面が雪に覆われているようだ。
『あら。 目が覚めた?』
しばらくの間、日差しで輝く雪の景色を見ていると背後から女性の声が聞こえて振り返る。
そこには雪のように輝く綺麗な白銀の短髪で同性でありながらも見惚れるほどの美貌を持った女性が立っていた。
『ごめんなさいね。 貴女をここに呼ばないとあの子達をあの場所へと連れていけなかったから、私が貴女を媒体に召喚するしかなかったの』
最初は女性の言う意味が理解できなかったが、声を聞いていく内に気を失う前、洞窟の奥から誰かに呼ばれた気がした事を思い出す。
その声と目の前の女性との声が一致している事もようやく気が付いた。
「あ、の~・・ここは一体~?」
『心配しないで。 すぐに貴女のお友達の所に戻れるから。 質問に答えるなら・・そうね。 私の秘匿領域、と言っておきましょうかしら』
女性は微笑みながら近づいてくると地面に膝をつき、座っている態勢のマリーの頬に触れる。
『貴女には、私が見てきた千年の記憶をお見せしました。 そして、今起こっている現実の景色と共に』
マリーが見ていた夢の内容は誰もが認める美貌を持ち得ながら、初恋を叶える事が出来ず、千年という長い年月をかけて尚、初恋の人物に振り向いてほしい一身で生きながらえている1人の女性の物語。
そしてその女性が今、正樹達と敵対して戦っている事もすべて夢の中で見た。
『貴女にはどうしても見て知ってほしかった。 そして終わらしてほしい。 あの人の未練と執着に覆われた結末を』
女性は悲しそうな表情を浮かべながらマリーの手を握り立つあがる。
『貴女、お名前は?』
「マリー。 マリー・ホワイトと申します」
『・・マリー。 そう、良いお名前ね』
女性はマリーの名前を聞いた途端、嬉しそうな、けれども何処か寂しそうな表情を浮かべるとゆっくりと握った手を放し一歩後ろに後退する。
『マリー。 どうかお願いね。 あの人を、どうか助けてあげて』
なんだろう、この気持ちは。
彼女を見ていると、彼女の声を聞いていると何故かとても落ち着く。
まるで幼い頃からずっと一緒にいる母といるような感覚だ。
そんな事を考えているとマリーの足元が急に光輝きだして光の粒子が身体を覆っていく。
「これはッ?!」
『あらあら。 もう時間みたいですね』
足元から輝く光は周りの景色が見えなくなるほど強くなっていき、目の前の女性の顔もすでに見えなくなっていた。
『マリー。 どうかお願いね。 貴女ならきっと成し遂げる事ができる』
「あっ、待って――」
貴女の名前は?
そう尋ねようとした時にはマリーの声は女性には聞こえず、マリーは光の粒子で昇り出来た光柱の中へと消えていった。
◇ ◆ ◇ ◆
「マリー様ッ!!」
「ちょっと淫乱! いい加減目を覚ましなさいッ!」
次に目を開けると目の前には心配そうな表情で顔を覗き込むアンナの顔と珍しくも何かに焦った様子で声を荒げる由紀の顔が視界に入る。
「ここは・・」
「はぁ~。 よかった。 気が付いた~!」
「まったく。 貴女そっくりな女性は全員眠っている事が普通なのかしら? それならずっと眠っていてほしいくらい・・あっ、でも安心してもいいわよ。 私と正樹さんの結婚式には呼んであげるから」
「奥様~! 病み上がりの方にそんな言い方しなくても~ッ!」
挑発的な言葉でマリーを責める由紀に、アンナは目に涙を浮かべながら由紀とマリーの顔を交互のみ合いながらオロオロとする。
「そ、そんな事よりも! マリー様! 落ち着いて下さい。 実は今――」
「大丈夫ですよ~アンナさ~ん。 現状は全部把握しているわ~」
「え? それはどういう・・」
「説明は後でね~。 早速だけど、私をここから出してもらえないかしら~」
マリー達がいる場所はさっきまでいた教会の中・・ではなく、見渡すすべてが反転している。
周りを見渡せば何故か生活道具を一式がチラホラと揃っているが、その辺りの所以外はすべてが現実の物と反転している。
ここは鏡の中の世界。
本来であれば現実の世界の反転とした世界を見せるだけの道具である鏡だが、カガミの顔にある鏡の中は異空間となっており収納が可能となっていた。
「すみませんマリー様。 ここは執事様の顔の鏡の中の世界です。 どういう原理は分かりませんが私達はここに閉じ込められて出る方法がわかりません」
「それで脱出方法を探していたら貴女がここで居眠りしている所を発見したわけ。 出られるなら私も早く正樹さんの場所へ行きたいわよ。 いいえ、行くのよ。 早く正樹さんの所に行かないと正樹さんの貞操がッ!!」
由紀はワナワナと体を震わせながら老婆に身体を狙われている正樹の危機を心配しているようだ。
「それは~、貴女の賢者の石でも脱出は出来ないのかしら~? 魔王様?」
「!?」
「ごめんなさいね~。 実は私の方も色々あって貴女達の事はだいたい把握しているの~」
あの夢の世界で見た映像の中では、1人の女性と共に、千年もの間思い人を守り続けていた男の景色も見えた。
男は思い人を救ってくれる救世主を探し出す為に得意としていた占いを鏡で占う姿を見た。
そこには2人の異世界人と、人間の仇敵魔王であるアンナの姿が映し出されていた。
「あ、あの・・マリー様。 私は・・」
「あ~勘違いしないでねアンナさん。 別に貴女を責めてるわけじゃないの~。 結局の所、私の命を狙っていたのは魔王ではなく亡霊とも言える人物だったわけで~。 実際貴女が魔王だと理解しても貴女自身がどういった人物なのかは一週間もの間い共に過ごして悪い人でない事は分かっているわ~」
だから安心してと伝えると、アンナは心底安心したように肩を落として息を吐く。
「あら。 淫乱のくせに理解がいいじゃない。 その調子で正樹さんからも手を引いてもらえると助かるんだけど?」
「うふふ~。 それは無理よ~。 だって私も本気でマサキの事を惚れたのだから」
「あらそう~・・・死ぬ?」
「あらあら~、返り討ちですわ~」
「お、お二人共! やめてくださぁぁあああい!!」
満面の笑顔でありながらバチバチと火花を散らす2人に挟まれながらオロオロとするアンナは外から見ればとても可哀そうな位置にいるポジションである事は間違いない。
「さて~、冗談はこの辺りにして~。 どうしても出る方法はないのかしら~?」
マリーの質問に難しい顔をしたアンナが渋々と1つだけ可能性のある提案があると話題を切り出す。
「実はあと残り一度だけ賢者の石を使えば脱出する事は可能なんです」
「え? そうなの? アンちゃんなんで早くそれを言わなかったの?」
アンナの思わぬ発言に由紀は両手でアンナの肩を押さえ顔を近づかせてくる。
しかも真顔で。
超怖い。
思わず猫みたいな怯えた声がアンナの口から漏れ出る。
「そ、そにょ! その力も3人同時に出られるほどの効力が残っていなくて! 出られるのは1人しか!」
「それなら迷わず私じゃない? 私しかいないでしょ? そうでしょ? それともなに? アンちゃんもしかして1人だけ脱出して正樹さんを助けに行くつもりだったの? それでお婆さんを倒して誰にも邪魔されない2人きりの状態で何をするつもりだったの? ねぇ何をするつもりだったの?????」
「まって奥様! 何もありません! 何もするつもりはないです! だから真顔で顔を近づけてくるのを止めて下さぁぁぁい!!」
由紀の背後では何かおぞましい影がうごめいているように見え、アンナは半べそを掻きながら真顔で見つめてくる由紀に対して両手を上げる。
「違うンです! 実はここにマリー様がいる事を事前に執事様から聞いていたのでマリー様を先に脱出させるつもりだったんです!!」
「そう。 つまりアンちゃんは私ではなく淫乱の味方をする・・と?」
「ちがいます違います! マリー様のスキルを頼りたかったんです!!」
「・・スキル?」
アンナの一言で何かに気が付いたのか由紀はアンナの肩を握る両手を放す。
一方アンナは本気で怖かったのかヘナヘナと腰を抜かしたように地面に座り込み胸を押さえて苦しそうに息を整える。
「なるほど。 確かに女神の加護なら正樹さんを守る事に集中できるかも知れないわね」
女神の加護はあらゆる悪意ある対象から護る事が出来る最強のスキル。
さらに敵意ある攻撃はすべて消滅させる事も出来る事から確かに今は攻撃を与えるよりも正樹を守る方法を優先した方がいい。
「それだけじゃありません。 恐らくですが女神の加護の能力であの老人を倒す事も可能かもしれません」
「その理由は?」
「禁忌目録です」
それを聞いて由紀は納得して大きな溜息を吐いた。
「つまり、禁忌目録で魂だけの状態である老婆であれば、女神の加護で老婆の魂を浄化できるという事ね。 確かに、それならこの女を先に外へ脱出させる事が優先ね」
「! 奥様ッ!」
合理的な判断をしてくれた由紀に対して、アンナは嬉し涙を浮かべる。
「だ・け・ど! あくまでもあの老婆を浄化させる事が最優先。 私が戻るまでに正樹さんに何かしたらただじゃおかないわよ」
釘をさすようにマリーに指をさして睨む由紀に対して、マリーはフッと笑みを浮かべる。
「何笑ってるの? 本当に正樹さんに何かしたら許さないわよ?」
「大丈夫ですよ~。 私は振り向いてほしい異性には真正面から立ち向かって正々堂々と振り向いてもらうから~」
野暮な事は絶対にしないと断言した。
その言葉には嘘偽りなど何処にも無く、何処か由紀に対してではなく別の誰かに対しての宣言のようにも聞こえた。
「さて~。 アンナさん。 脱出の準備はどれくらい時間がかかるかしら~?」
「心配ありません! 鏡の中に取り込まれた時にすでに魔力の充電は完了しています! 行けるのならばすぐにでも!」
胸を張って「エッヘン!」と言わんばかりに背を伸ばすアンナに対して隣に立っていた由紀は子供をなだめるように頭を撫で、マリーも同様に正面から頭を撫でる。
「本当によくできる子よアンちゃんは! 何処のバカな女とは天と地の違いね!」
「本当に仕事が早いですね~! 正式にうちのメイドとして雇いたいわ~! 気持ちだけが重くて相手の事なんて考えない女性とは大違い~!」
「あははは~!」
「うふふふ~!」
この2人は本当に。
さっきまでは少し場が和んでいたと思ったのにすぐに喧嘩をする。
しかもいつもよりによって自分を間に挟んでバチバチと火花を散らすものだから挟まれているアンナは生きた心地がまったくしない。
「あ~も~! はいはい! すぐにマリー様を外に出すのでお二人共はなれてくださーい!」
2人の居心地の悪い空間に挟まれながらも両手を伸ばして無理矢理に引き離すアンナはマリーの手をそっと添えるように握り絞める。
「いいですか。 恐らく外ではすでに正樹様と老人が対立しているはずです。 だけど必ず正樹様が相手の隙を作ってくれているはずです。 そこを狙ってください。」
「了解~!」
アンナはゆっくりと目を閉じると2度ほど深く深呼吸をして集中を高める。
するとマリーの足元がゆっくりと赤い魔術円のような物が浮かびあがってきた。
【 エリクサー 】
そうしてマリーは対面する。
悲しくて儚く叶う事の無かった、とある女性に。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
どうも毎回最終決戦という場面を書くのが苦手みたいでいつもどのように話を纏めればいいのか迷ってしまう悪い所が出てしまいました。
出来る事なら次回も連続で投稿したい所なのですが、また執筆が止まってしまって投稿が遅くなってしまうかも・・。
どうか、どうかそれでもお付き合いくださいますようよろしくお願い致します!!
それではまた次回!




