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ヤンデレ彼女も異世界へ!  作者: 黄田 望
第一章 【 不死身と神 】
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第46話 世界一の美貌


 これは、1人の女性の物語。

 

 人を愛して、人に愛されたかった失恋の物語だ。


 その女性はとある大国の姫として誕生した。

 清く純粋に、そして何よりも大事に育てられてきた姫は14歳という若い歳にして他国の王子から求婚を申し込まれるほどの美貌を持っていた。


 一目会えば誰もが見惚れる美貌に、声を聞くだけで昇天してしまうほどの美声を持ち、目を合わせれば二度と頭が離れないような不思議な力を持っていたという。


 しかし姫の親である大国の国王は娘を大事にするあまりに他国から寄せられる求婚をすべて破棄してきた。

 まだ娘には早すぎる。

 国王はそう言って姫を誰にも見られないように城内からの外出を禁止した。


 それから月日は流れ、姫は20歳となっていた。

 姫の美貌はさらに上回り、美しさと大人の色気が溢れ出て城内で働く兵士やメイド達を問わずに心を奪う魅力を手に入れていた。

 姫の美貌は城内から外にまで噂として流れ、次第に彼女の事を人々は【女神様】と呼ばれるようになっていた。

 

 ある日、国王は今まで誰にも近寄らせてこなかった姫様に合わせたい男がいると1人の王子を紹介した。

 凛々しい顔に鍛えられた身体。

 更には清らかな心を持っている人物である事は少し会話した中でも理解できた。

 

 姫はこの時、生まれて初めて 恋 をしたのだ。


 姫はすぐに王子に求婚を持ち掛けた。

 今まで誰もが彼女の事を女神と崇めるほどの美貌を持っていると言って求婚を申し込んできた。

 故に、彼女は求婚すれば結婚出来ると思っていた。


 

 『申し訳ありません。 僕は貴女と結婚はできません』



 姫はこの時、生まれて初めて失恋をした。


 求婚を断られた姫は毎晩のように枕を濡らして泣いていた。

 誰もが見惚れるほどの美貌を持つはずの自分に求婚されて何故結婚を断られてのか、理解できなかった。


 初恋をした王子の事がどうしても諦めきれなかった姫は1人の兵士に王子が自分の求婚を断った理由を探るように命令をした。

 自分に足りない所があるのなら、いくらでも見直す。

 だからまずは王子が求婚を断った理由が知りたかった。

 

 『王子にはすでに思い人がおりました』


 兵士からの報告は3日もしない内に呆気なく分かった。

 

 王子には平民として暮らす1人の女性を愛しているという。

 その女性は真っ白な雪のように輝く白髪を持ち、笑顔を絶やさない姫様のような存在だったと兵士は語る。 

 そして、そんな彼女の事を王子は 白雪 と呼んでいたそうだ。


 姫は兵士からの報告を何も言わずに静かに聞き終え、ある1つの答えに辿り着いた。


 その白雪とは私以上の美貌を持つ者なのだろう。

 だから王子は私ではなく白雪を選んだ。

 自分よりも美しい美貌を持ち、初恋をも奪った女。

 

 あぁ――

 アァ――

 アぁ――


 なんとおぞましいことなのだろう・・・。


 自分よりも美しい美貌を持つ者がいて良い筈がない。 

 自分ではなく別の女に初恋を奪われていい筈がない。

 何とかしなければ。

 私が世界で1番の美貌を持っていると証明すれば。

 

 (王子)はきっと、自分を選んでくれるに違いない。


 清く純粋な姫の心は何処か深い水の中へと落ちていき、最後にはドプンッと真っ暗な意識の中へと入ってしまった。

 その時だった。

 姫様の手元には、いつの間にか真っ黒な本を持っていた。

 見た事もない文字。

 見た事もない丸い絵。


 しかし姫は何故かその本に書かれてある文字と丸い絵が理解できた。

 

 『・・フフ・・ハハ・・アッハハハ!!』


 姫は笑った。

 大声で笑っていた。

 その笑顔には幸福感などは無く、まるで悪魔の笑い声のような恐ろしい感覚だった。



 ◇ ◆ ◇ ◆


 それからほどなくして、()()()()()()()()と他国にまで情報が広まった。

 原因は不明。

 ただ分かるのは、姫は最後に一口だけ真っ赤なリンゴを食べた後に息を引き取ったという事だけだった。


 『あの姫様が亡くなられたか。 まだお若いのに』


 大国の姫が命を落としたと伝えられた王子は悲しんだ。

 求婚を断ったとは言え自分に好意を持っていてくれた女性が命を落としてしまったという話を聞くのは心が痛むと言う。


 『大丈夫ですよ王子。 彼女もきっと貴方を許してくれます』


 王子の隣に並び手をソッと添える彼女の名は白雪。

 来月には出産も控えている王子の妻だ。


 『・・・あぁ。 そうだね。 僕は姫ではなく君を選んだ。 その事実を受け入れて、必ず君を幸せにするよ。 白雪』

 『えぇ、ずっと一緒です。 王子』


 そうして2人はお互いの体温をしっかりと確かめ合うように抱きしめ合った。


 『これで、貴女にとって世界一の美貌を手に入れましたわ』


 白雪は王子に聞こえないよう小さな声で呟き、純粋な白い雪のような笑顔とは縁遠い、悪魔のような笑みを浮かべていた。

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