第45話 消滅
「ァ・・ァア・・ッ! なんじゃ・・なんじゃこれはァァァアアアッ?!?!」
老婆は悲鳴を上げながら地面に膝をつき両手で顔を覆いかぶせる。
「なんじゃ! 一体何がどうなっておるッ! 身体が・・我の身体が崩れていくッ!!」
手や腕は肉が腐るように腐食していき、ボロボロの白髪は徐々に抜けていく。
顔のくぼみは酷くなり、数秒もしない内に顔の原形は消え白骨化へと侵食していった。
「なんなんじゃこれはッ!! 魔術師!! 説明しろッ!!」
「簡単な話ですよ女王陛下。 賢者の石の力により貴女はこれから死ぬのです」
「な・・んじゃと」
左の目はすでに白骨化の影響によりなくなり、残った右目でカガミを見る老婆の瞳には絶望の色に染まる。
「そんな訳がないじゃろ・・我は・・確かに不死身となり、現にこうして千年もの時を生きて・・」
「いいえ。 貴女はとっくに命を落としていたのですよ。 千年前のあの日。 私が不老不死の魔術書を持ち帰ったあの日にはすでに」
哀れんだ様な目で話を進めるカガミに対して老婆は怒りに身体を震わせる。
すでに立ち上がる力など無くなっており、骨となった腕を伸ばしてカガミのズボンを弱い力で掴む。
「それでは何故・・何故に我は千年もの間の時を生きていたのじゃ。 貴様が持ち帰ってきた不死身となる禁忌目録で不死身になったからではないのか?!」
「簡単な話です。 貴女が千年もの間、ずっとこの場に留まれていたのは貴方が所持している禁忌目録が原因です」
老婆が所有していたのは禁忌目録12冊の内の1つ、【魂の自由】。
その本に記されている内容はテーマ通り、魂に関する内容が書かれてある。
「その禁忌目録では死んだ生物の魂を自由に操る事や、自身の魂を他人の身体へ移す方法が、または死者の魂を呼び戻すと言った内容が記されています」
「その通りじゃ! だから我はこの魔術で世界一の美貌を持つ女の身体に移す事で永遠の美貌を手に――ッ!」
「しかし、禁忌目録のそれぞれには記されていないデメリットがあります」
「――なんじゃ、と?」
カガミは一呼吸置いて老婆の目を真っ直ぐに見る。
「禁忌目録、魂の自由のデメリット。 それは1度身体から魂が抜けてしまうと心臓が止まってしまい死んでしまうという事です。 つまり――」
魂の自由を発動させて身体から魂を放してしまった場合、身体の生きる機能は失われアンデット化する。
その話を聞いて老婆は哀れんだ目で見下すカガミに対して不信感よりも不思議な気持ちが優先した。
「貴様、何故そこまでの事を知っておる・・?」
老婆はカガミに自分の禁忌目録の話を千年間一言もしてこなかった。
もしもこの魔術書を狙われでもしたら女王陛下が掲げていた世界一の美貌が永遠に手に入らなくなる可能性があったからだ。
しかしカガミはそんな事よりも、禁忌目録をすでに所持していた女王よりも魔術書の内容を詳しく知っていた。
まるで、禁忌目録を発動すればどうなるのか結果を知っているかのように。
「まさか・・まさか貴様は―――ッ!!」
カガミに対して何かを言おうとした老婆の腕はまるで灰になるように崩れ落ち、徐々にそれが身体全体へと侵攻していく。
「先ほど、貴女は私を只の占いが得意な魔術師だから不死身に関する捜索をさせたわけではないとおっしゃいましたね。 どこで私の故郷の話を聞いたのかは存じませんが、1つだけ貴女は勘違いされていた」
「~~~~ッ!! き、貴様ッ・・いやッ!! 貴方様は!!」
カガミは老婆の顔を手で添えるように触れる。
「もう眠りなさい。 哀れな人よ。 次に生まれ落ちた時は、どうかその執着心をもっと別の事に向けて生きていきなさい」
その言葉を最後に、老婆はかすれた悲鳴を上げながら灰となって消滅していった。
 




