第43話 不死身②
「どうなってるの?」
急に襲い掛かってきた老婆と巨大な女神像に由紀は苦戦を強いられていた。
初手では雄叫びを上げて襲い掛かってきた女神像に驚き先手を取られたが、それからの由紀は影から黒いオーラを放ち女神像を木っ端微塵に粉砕した。
しかし、何度女神像を粉砕してもまるで時間が戻るように元通りになるのだ。
「アッハハハッ! どうした器よ! もう終いか?!」
不気味な高笑いをする老婆を睨みつけ、女神像に放つ黒いオーラの一部を老婆に向ける。
「無駄じゃッ!」
しかし何度老婆に攻撃を仕掛けても黒いオーラが届く前に何故か蒼い粒子となって消滅してしまうのだ。
「無駄じゃ無駄じゃ無駄じゃッ! 己がどれだけ我に攻撃をしてもすべて無駄な事じゃ! それはすでに定められた運命なんじゃッ! アッハハハッ!!」
攻撃が当たらない事に余裕があるのか、老婆は不気味な笑みで宙に浮く由紀を舐めるようにみる。
「それにしても本当に美しい。 流石は千年も待ち望んだ器なだけはある」
「悪いんですけど、この身体はもう私のじゃないからッ!」
「・・・なに?」
由紀の言葉に老婆は見て分かるほど顔を歪める。
「私の身体はもう正樹さんの物よ。 他の誰にも渡すつもりはないわ」
「・・・ほぅほぅ。 マサキ・・マサキとな?」
老婆はフラフラとした足取りですぐ後ろにマリーが眠っているケースに手を添える。
「なるほど。 この男がお主の思い人とか」
それから1人で何かを納得した老婆は再び女神像と戦い続けている由紀を見る。
「ならばこの男は我が貰ってやろう」
「・・・ハッ?」
一体何を言い出すのかと由紀は思う。
流石の由紀も女性ではあるが、かなり高齢の女性が正樹を自分の物にしようと言う発言に対して怒りよりも驚愕の方が勝った。
「ふむ。 顔はまぁ中の下と言った所だが、何か惹かれる物があるのは確かじゃ。 安心せよ器。 我であればお主にも出来ぬ快感を男に与えてやれるぞ?」
「さ、さっきから一体何を・・・ッ?!」
最初は戸惑いを見せた由紀だが、老婆が言っている事が本気である事を理解して徐々に怒りを溢れ出てくる。
「我は寛大な人間じゃ。 ただお主の身体を寄越せと言うのも気が引けていたのじゃ。 だからお主の身体を我が頂く代わりに、お主の身体で男とまぐわってやろうと言うのじゃ」
どうだ? 悪い話ではないだろう? ――と老婆はニヤリと笑う。
「お主は男を想い未練がある。 ならば我がその未練を叶えてやろうと言うのじゃ。 世界で一番の美貌を持つ事になる我に抱かれるのじゃ。 男もさぞ嬉しかろうよ!」
老婆は今までの中でも1番大きな笑い声を上げ女神像が暴れ建物が崩れる音さえも通る。
その笑い声を聞いて、由紀はあまりの不快感に老婆を冷たい目線で見下していた。
「なんなの? 何がそんなに楽しいの?」
雄叫びを上げ攻撃を仕掛け来る女神像に対して、由紀は上半身を一瞬で消滅させた。
「ハハハハ・・・ハッ?」
あまりの一瞬の出来事ので老婆はさっきまで笑って開けていた口が思わず閉まらない状態でとどまる。
「私の身体は私の物よ。 そうよ。 正樹さんは私を選んだのよ。 他の誰でもない・・この私を」
自分の身体を抱きしめるように両手に力を加える。
女神像が暴れ建物を崩したせいで天井からは雨が入ってきて由紀の身体を濡らしていく。
その感覚があまりにも冷たいせいなのか、はたまた老婆への怒りのせいなのか、由紀は体をこまめに震わせる。
「正樹さんは私だけを見てるの。 他の誰でもない・・この私を・・だから・・だからッ!!」
刹那、由紀の身体の周囲から黒いオーラがさっきまでの比ではない量が発生した。
最初は溢れ出るオーラがただ漏れているような状態だったが、徐々に由紀の中心へと集まっていくと1つの小さな球体へと変化していく。
「だから・・私から正樹さんを奪う人は、誰であろうと――殺す」
そして、黒い球体は真っ直ぐとビームを放つように老婆の胸を貫いた。
「な・・に・・?」
さっきまで当たらなかったはずの攻撃が直撃して何が起きたのか理解が追い付かない老婆。
しかし胸から滲み出る血と口からこぼれ出る出血を視認すると、老婆は膝から崩れ落ちるように倒れた。
静かになった建物内には雨が降り注ぐ音だけが響き渡り、由紀は濡れた体の事など気にする様子もなく、ゆっくりと地下へと繋がる扉の部屋に移動する。
「正樹さん・・待っててね。 私が・・・行くから・・」
そして扉のドアノブを握り開けようとした時だった。
「待て待て。 まだお主の身体をもらっておらぬぞ? 器よ」
かすれた老婆の声が耳元から聞こえた。
由紀は咄嗟に黒いオーラで声のする方へ攻撃を仕掛けるが、黒いオーラは蒼い粒子へと変化して一瞬で消滅してしまう。
その拍子で振り向くと不気味な笑みを浮かべる老婆と目があった。
「どうして・・生きてるの」
目の前の老婆は確かに心臓から血を流して、手の施しようがない出血の量が流れている。
しかし老婆はまるでそんな事を気にもしないような余裕を見せていた。
「ん? 気になるか? そうか、気になるよな? ならば教えてやろう!」
老婆は由紀を逃げられないように肩を握りしめて動きを封じる。
すると、先ほど上半身を消滅させた女神像が徐々に再生していき由紀を視認した。
「我は不死なのじゃ! 何をしても死なぬ体を先に手に入れた! ただそれだけの事よ!!」
女神像が攻撃態勢に入り逃げようとする由紀に老婆は腕を放す様子を見せない。
そんな老婆はいつの間にか血を流していた心臓部から出血がとまり服さえも由紀が黒いオーラで貫く前まで元に戻っていた。
「あとは美貌だけじゃ! 永遠に陥る事のない不老の美貌をッ! お主の身体さえ手に入れれば、我の長年の願いが叶えられるッ!!」
どれだけ振りほどこうとしても放さない老婆に由紀は攻撃を仕掛けてくる女神像に対して、身を守る態勢に入る。
「さぁッ! 我にその身体をッ! その美貌をッ!! 寄越せェェェええええッ!!」
老婆は叫んだその瞬間、女神像は地面に向けて連続的に攻撃を開始した。
地面には亀裂が入り徐々に崩れ落ちていく音が聞こえる。
由紀は自分の身体のみを黒いオーラで囲い女神像の攻撃を防いでいるが、目の前の老婆は自分もろとも女神像に攻撃を受け身体が変形してしまっている。
そんな中であるにも関わらず、老婆は笑っていた。
「さぁぁぁぁぁッ?! よぉぉぉこぉぉぉせぇぇぇぇえッ!!」
女神像の連続撃は遂に亀裂を入れた地面を崩れ落とし、由紀は女神像の攻撃の勢いでそのまま落ちて行った。




