第4話 破局の危機?!
「あの、助けてくれて・・ありがとうございます。」
ゴブリンに襲われていた所を助けに入ってくれた正樹に少女は頭を下げる。
「私はこの先にある小屋で暮らしているアンナと申します。 もしも嫌でなければどうかお礼をさせてください!」
「お断りします。」
バッサリとアンナの誘いを断ったのは正樹ではなく、先ほどから正樹に抱き着いて離れない由紀である。
「あ、貴女には聞いていません! 私は体を張って助けてくれたこの方に聞いているんです!」
「そうですか。 でも正樹さんは私の彼氏なので、貴女のような泥棒猫の目をした女の誘いを承諾するわけには行きません。」
「ど、どろッ!! 誰が泥棒猫ですか! そもそもゴブリンを一瞬で倒してしまう貴女の方が正樹様の身の安全が心配です! 貴女こそ離れてください!!」
右腕には美少女彼女の由紀が胸を押し付け抱きしめ、左腕にはアンナが恥じらいながら腕袖を引っ張る。
第三者から見れば羨ましいイベントシーンではあるのだが、当の本人である正樹は先ほどから感じ取れる由紀の殺気に怯えていた。
最初にこの森に来た時は鳥の鳴き声や小動物がチラホラといたんだが、由紀の殺気により周辺の動物達は危険を感じて避難してしまったらしい。
そのせいで森は今、2人の美少女の争う声だけが響き渡る。
「ま、まぁまぁ由紀ちゃん。 僕達もまだこの世界に来たばかりなんだし少しくらい何処かで情報を集めても良いと思うよ?」
「それならこんな泥棒猫の家ではなく何処かの村とかに向かいましょう。」
「だからッ! そういうのじゃないってばッ!!」
アンナは涙目になりながら由紀の言葉を否定する。
その表情は男心をくすぐる物があり思わず胸の鼓動が早くなるのが分かる。
「・・・正樹さんの鼓動が少し早くなりました。 つまり君は今、この女に好意を持ったと?」
「待って違うッ!! そうじゃないよ由紀ちゃん!」
「じゃあ一体なんですか?」
「そ、それは・・・。」
チラッとアンナの方を見ると、アンナはかなり由紀の言葉にダメージを負ったのかスカートを両手で強く握りながらこぼれ落ちそうな涙を必死に抑えていた。
その様子を見て、正樹はとりあえず暴走気味の由紀を落ち着かせる事にした。
「それは、由紀ちゃんがあまりにも積極的だから・・。」
「・・・ふぇ?!」
正樹の言葉の真意に気が付いたのか、由紀は顔を真っ赤にして押し付けていた胸を隠すように離れた。
「それに由紀ちゃん。 初対面の人にそんな言い方はあんまりよくないと思うよ。」
「え? あ、あの・・まさ、きさん?」
「僕、人を傷つける由紀ちゃんは―――好きじゃないな。」
「~~~~~~ッ!!?」
元の世界の時から、暴走した時の由紀を止める方法は今のように遠まわしに【嫌い】アピールの言葉を与える事だ。
それで由紀はしばらくショックにより石のように固まってしまう。
(よし、今の内だ。)
正樹はこうして、アンナの家に赴き、聞けるだけの世界の情報を得る事にした。