第39話 千年前④
マリーが保有している神の権限【女神の加護】の能力は悪の心を持ち敵として認識した相手を浄化する能力。
それらを利用してマリーは山をいつ囲う結界を作りだした。
村人の人間、もしくは善の心を持つ清い人間でないと村に近づかせないようにする結界だという。
村人の人間は普通の山を登れば村に到着するが、善の心を持つ人間とその仲間達がいる場合は結界による幻覚により村の入り口が絶壁に見えると言う。
そこの洞窟で結界による審査を通ればカガミが最初に教会に訪れたような形で村に入れる仕組みだ。
「さて! それではカガミが知りたがっている不老不死になる方法とは~~これです!!」
マリーは溜めに貯めて勿体ぶらせると、カガミを教会の地下に案内した。
女神像が建つ隣の扉にはシスター達が暮らせるようなリビングに繋がっているが、隅の床には地下に繋がる出入り口が作られていた。
そこを降りると教会と同等な広さでビッシリと本棚に数えきれない本の数が並んでいた。
「ま、まさか・・・」
ギギギッと壊れたロボットのように首を動かしてマリーを見る。
するとマリーは満面な笑みを浮かべる。
「うん! この中の何処かに不老不死になる方法が掛かれた本があるよ! ファイト~!」
・・少しでも、不老不死になる方法が分かるかも知れないと期待した自分にカガミは肩を大きく落として落胆した。
◇ ◆ ◇ ◆
それから不老不死になる為の本を探して大国から離れ更に半年が過ぎた。
探しだす期限は決められていないとは言え、これ以上報告もなしでいると女王に何を言われるか分からない。
近いうちに1度大国に戻ろうと思っていた時だった。
なんとなく触れた一冊本を手を滑らせて落とした際にたまたま開いたページが目に入る。
そこには【不老不死】とルーン文字で書かれていた。
「あ、あった・・・」
地下にある本の約4分の3は調べ上げたカガミは達成感で力が抜けその場で倒れ込む。
これでようやく面倒な女王の命令に怯えることなく旅を再開できる事を心から喜んだ。
「ちょっと! 大丈夫?! なんか大きな音がしたけど?」
床に倒れた音が思った以上に上まで響いたのかマリーが心配した様子で降りてきた。
「はい。 大丈夫です。 それよりも、お陰様で見つかりました。 不老不死になる方法が掛かれた本を」
「あら! よかったじゃない! よくもまぁこれだけの数の中から探し出したわね」
「えぇ、まぁ。 半分は仕方なくですがね」
「ふ~ん? じゃあもう半分は?」
半分は面倒な女王に目をつけられた事により仕方なく探していた。
しかし、もう半分は魔術師としての興味だ。
不老不死とは人間の永遠のテーマとまで言われていた課題だ。
どんな事をしても実現不可能と言われた現象を可能とする方法があるといいのなら知っておきたい。
他人に対する恋心や性欲と言った人にとって当たり前にある感情がないかわりに、カガミは知識という欲は人一倍強い傾向があった。
「まったく。 ほ~ら。 こんな所で寝転ぶから服が汚れてるじゃない。 あぁ~ほらここも」
カガミの背中に付いた汚れを落としながらマリーはポケットから真っ白な布巾を取り出して顔にもち浮いている汚れを拭う。
「・・・」
「ん? どうかした?」
「あ・・いや、なんでもないです」
顔を拭われている間にマリーの顔がすぐ近くまで接近している事にカガミは体を硬直させてマリーの顔を凝視していた。
それに気づかれマリーがカガミと視線を合わせると同時にお互いの口がくっつきそうになる距離になっていた。
思わずマリーから視線を逸らして顔をそっぽ向けるカガミ。
「あっコラ! まだ汚れ取れてないわよ?!」
「だ、大丈夫です。 じ、自分で拭けますので・・」
何故かマリーの顔を正面から見れないカガミは自分の顔が耳まで熱くなっていくことに戸惑いながらまるで身体全体に響いているような心臓の音がうるさくて混乱していた。
(なんだ? 今までこんな事1度も感じた事がなかったのに・・)
身体の奥から熱い感覚が湧き上がる感情を、この時のカガミはまだ知らなかった。




