第38話 千年前③
真っ白な修道服を身に纏う女性はマリー・ホワイトと言う名前らしい。
マリーはこの教会で孤児として拾われ19歳となり今ではシスターになる為の勉学中だとか。
「それで? 貴方の名前は?」
マリーは突然教会の中で立ち尽くして現れた魔術師に対して警戒するわけでもなく当たり前のように受け入れ食事まで用意してくれた。
料理は・・・まぁ・・食べれないわけではない。
「私は旅をしている平凡な魔術師です。 名前は故郷を飛び出した際に捨ててきました」
「あらあら。 でもそれだと色々と不便じゃない?」
今までに親しくなる相手がいなかった魔術師にとっては名前が無くてもそれほど不便を感じる事などなかった。
たまに旅の途中で親切にしてくれる同業の者もいたが、全員躊躇いもなく魔術師と呼んでいた。
「ん~。 でもやっぱり名前がないと不憫ね~・・ん? それは何?」
マリーは魔術師が腰に付けている丸い鏡を見つけ不思議そうに眺める。
「これは鏡ですよ。 私は旅をしながら占いをして日銭を稼いでいるんです」
「へ~・・・じゃあ貴方の事、これから【カガミ】って呼ぶわ」
「え?」
マリーは魔術師に有無を言わさずその名で呼び、魔術師はそれからカガミと言う名前になった。
鏡を持っているから名前がカガミって、なんて安着な・・。
◆ ◇ ◆ ◇
ここは山奥にある小さな村。
周りは森林に囲まれ小川も流れていた為、小さな村程度なら衣食住には困らない生活を送っていた。
そんな小さな村の中心にマリーがシスターになる為に勉学をしながら働いている教会が建てられていた。
大国にも建てられていない立派な教会。
カガミという名をもらった魔術師はすぐにここが占いで鏡に映った教会だと理解した。
カガミは不老不死になるヒントを探る為、しばらくこの村に身をとどめる事にした。
そして気が付けばマリーと出会ってから月日が流れ、半年もの時が経っていた。
「あの・・マリーさん。 貴女は不老不死という物を信じますか?」
不老不死になる為の手掛かりが一向に見つからないカガミは、教会で勉学中のマリーから情報を探る事にした。
不老不死となる情報が簡単に見つかるわけがない事は百も承知だが、占いでこの教会が映し出されたという事は何かしらのヒントが何処かにあるはずだ。
それならば怪しまれるかもしれないが一番身近にいる人間から聞き出す事が早いと考え、話を切り出したのだが・・。
「え? 勿論信じるわよ。 っていうか知ってるわよ」
「・・・え? 何を?」
「ん? 不老不死になる方法」
「・・・・えぇぇぇぇえええええッ?!?!」
当たり前のように不老不死となる事ができると言い切るマリーにカガミは人生で初めて大声を上げて叫んだ。
マリーはこの時代では存在さえあまり知られていない陰陽属性の光を持つスキルを保有していた。
さらにそのスキルの名は【神の権限】。
あらゆる事を意のままに人を操る事さえ出来る最強のスキルだという。
「でも、神の権限のスキルはあくまでも只のスキル名。 本来の能力は全くの別物なのよ」
「別物? つまり、神の権限というのは他にも複数の能力がある・・という事ですか?」
「う~ん、大雑把に言えばそんな感じ?」
上手く説明ができないと言うマリーはカガミを村の外まで連れて行くと森の茂みにゴブリンを発見した。
ゴブリンもカガミ達同様に気が付いたのかボロボロの刃物を構え突進しながら攻撃を仕掛けてきた。
カガミはすぐに討伐しようと魔術を発動させようとすると、マリーが止めに入る。
「見てて。 これが私が持つ神の権限の能力」
ゴブリンとの距離が手を伸ばせば届く範囲に入ったその時、マリーはゆっくりと指をゴブリンに向けて唱えた。
「【 アルマゲドン 】」
突然マリーの指が光りだしたかと思うと、ゴブリンは蒼く輝く粒子へと変わり消滅していった。
「どう? これが私の神の権限の能力。 悪の心を持ち敵を打ち払う力! その名も【女神の加護】!」
自慢気に親指を立ててニヤリと笑うマリーに対して、色々と理解が追い付かない現状を見せられたカガミはただ呆然とマリーを眺め考える事を放棄した。




