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ヤンデレ彼女も異世界へ!  作者: 黄田 望
第一章 【 不死身と神 】
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第36話 千年前①


 「鏡よ鏡。 この世で一番美しい者を映し給え」

 

 丸い鏡を手にした男がそう唱えると、鏡は薄っすらと輝きだして1人の女性の顔を映し出した。

 美しく煌めく白い髪に整った顔立ち。

 瞳を合わせるだけで男女関係なく惑わす色っぽさを持つ女性。


 男は鏡に映しだされた女性の顔を目の前の相手に手渡して深々と頭を下げる。


 「・・フフ、アッハハハッ!!」


 男から受け取ったのは鏡とまったく同じ顔をした女性だった。

 女性は鏡に映しだされた自分の顔を見ると高笑いに笑う。


 「そうであろうそうであろう? この世で一番美しいのはこの我だ。 すべての美貌を持ち完璧な存在。 それが我じゃ。 お主もそう思うか? 魔術師よ」


 深々と頭を下げ続けている魔術師と呼ぶ男に女性は目を細めて問う。


 「ハッ。 鏡という物は真実を映し出す道具。 その鏡に問うて貴女様のお顔が映し出されたという事はそれが真実という事です。 女王陛下」


 玉座に足を組み王冠を被るその女性はとある大国を治める女王陛下だ。


 「アッハハハッ!! 気に行ったぞ魔術師よ。 お主は噂に聞いていた通りの男のようじゃ!」


 魔術師はこの大国に訪れた旅人だった。

 日銭を稼ぐ為に占い屋として稀に路上で占いをやり人々の悩みを聞いたり助言を言ったりしながら旅を続けていた。

 そんなある日、この大国に足を踏み入れてすぐに女王陛下にお声が掛かった。

 噂に聞く魔術師に占ってほしい事があると。

 女王陛下の占ってほしい願いは簡単な物だ。

 世界で一番美しい者を知りたいという願いだった。


 そして今にあたる。

 鏡は真実を映し出す道具。

 その鏡が目の前の女王陛下を映し出したと言えばそれが真実だ。

 確かに女王陛下から溢れ出る魅力は尋常な物ではない。

 普通の人間なら瞬時に魅力され身も心も奪われてしまうだろう。

 しかし

 魔術師にはそんな事に興味がなかった。

 周りが当たり前に感じる恋心や性欲と言った感情が無く、どれだけの女性に言い寄られても愛想笑いですべて断り続けてきた。

 そして魔術師には世界で1番美しいと鏡に映しだされた女王陛下を見ても何も思わなかった。


 「して、魔術師よ。 実はお主にもう1つ頼みたい事があるのだ」

 「ハッ。 私に出来る事ならなんなりと」


 本当は占いだけをやってすぐにでもこの場から離れたかったが、相手は大国を治める女王。

 少しでも機嫌を損なえば面倒くさい事になる事は明白だった為、仕方なく願いを聞く事にした。


 「我はな。 不老不死になりたいのじゃ」

 「・・・はっ?」


 女王陛下の開口一番の言葉に思わず魔術師は礼儀を忘れ素の反応を見せてしまう。

 咄嗟に口を手で押さえ再び頭を下げると女王陛下はクスクスと肩で笑い魔術師の態度を許した。


 「分かっておる。 我の言葉が無理難題の事である事は。 だが、だからこそお主に話した」

 「恐れながら女王陛下。 私は何処にでもいるただの旅人。 少し魔術と占いが出来る程度の人間です。 そのような大それた御話を簡単に受け入れる事は難しい事かと」

 

 不老不死とは魔術の世界でも永遠の課題とされている。

 永遠に歳を取らず、永遠に死ぬことのない身体を手に入れるという事はそれだけのリスクを背負う事になる。

 ただ、そのリスクというのは考え出せば人間が一生を生きていく中では導きだす事はできない物だとされている。

 故に、人間が不老不死になる事は不可能とされてきていた。

 

 しかし、その事についても女王陛下はすでに承知の上だという。

 

 「我も城にいる優秀な魔術師達に色々調べさせているが、どうしても皆同じ事を報告してくる」

 「それなら尚更の事。 私のような平凡な魔術師には到底無理な事だと・・」


 謙虚ではなく本心からの言葉だった。

 この城に招待される間でも城の中には優秀な魔術師が多く在籍している事は目に見て分かった。

 敵を感知する結界にあらゆる所に見張りの使い魔を放して見かけない人物の監視を行っていた。

 それらは只の魔術師では到底簡単に出来る物ではない魔術ばかりだ。

 そんな優秀な魔術師達が調べ上げても分からない事を気楽に旅を続けているだけの魔術師に分かるはずがない。

 だが、丁重に頭を深く下げて断る魔術師に対して女王陛下は再び高笑いに笑った。


 「別にお主の魔術師としての能力は微塵も期待していない。 我がお主に期待しているのはこれよ」


 そう言って女王陛下は魔術師が手渡した丸い鏡の表面を優しく撫でる。


 「お主には今からある事を占ってもらう」

 「ある事・・その内容とは?」

 「なぁに。 簡単な事よ」


 女王陛下は玉座から立ち上がると魔術師に近づき鏡を押し付けた。

 そして真っ赤に塗った口紅が不気味に笑いながら魔術師に言った。


 「お主の占いで不老不死になる為の方法を占え。 出来なければ・・死刑じゃ!」


 男女関係なく誘惑するほどの美貌を持つ女王陛下に、魔術師が感じたのは恋心でも性欲でもなく、心の底から恐れた恐怖だけだった。

 

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