第35話 反撃
「素晴らしい」
カガミのスキルによる未来予知で未来に起こる残影を映し出された正樹は、残影の心臓を突き刺され殺されようとしていた。
しかし、カガミが正樹の残影の心臓部を突き抜けようとする直前に残影のすべてが一瞬で消滅した。
「流石は初代魔王が生み出した神に対抗する力。 神に授けられた私の力をこうも容易く破るとは」
大きく肩で呼吸をして今にも倒れそうなアンナにカガミは冷静に落ち着いた口調で話す。
「あ・・貴方は一体、何者・・なんですか・・ッ!」
「別に大した者ではありません。 私は少し占いを得意とする平凡な魔術師ですよ」
カガミはそういうと再び自分の鏡の顔を光らして先ほどと同じように正樹の未来の残影を映し出した。
「やはり賢者の石を持つ貴女様の未来は映し出す事はできませんね。 持っているだけで神の力に対抗できる」
いつでも攻撃が出来るように剣を構えながら、今度は正樹の残影に攻撃する事無く真っ直ぐにアンナに近づく。
「しかし、今の貴女様では神の力を無効にするだけで精一杯。 魔王としての本来の力はなく何処にでもいる人間の娘とそう変わらない。 ならば――」
地面に膝をつくアンナを見下ろして細い剣先を構る。
「これ以上邪魔をしないように両目でも潰して大人しくして頂きましょうか」
剣を振り上げアンナの片目に狙いを定めるカガミ。
そのカガミの顔には恐怖で怯え震えるアンナの姿が映し出されている。
身体はすでに動く事さえ出来ず、先ほどと同じような残影を消す力も出ない。
仕掛けられる攻撃に思わず目を瞑り覚悟を決めるアンナだった。
―――しかし
「いい加減にしろぉぉぉおおおおッ!!」
アンナの背後から飛び移る形で現れた正樹がカガミの顔面を力一杯に殴りつけた。
殴られた衝撃で鏡の顔にはヒビが入り、そのまま勢いでカガミは三転ほど後転して吹き飛んでいく。
「な・・にッ?!」
ヨロヨロとふらつきながら起き上がるカガミはヒビが入った鏡の顔を押さえ正樹を睨みつける。
「ごめんアンナ。 遅くなった!」
「・・正樹様ッ!!」
目の前に立っている正樹を見て、アンナは安心したのか目に涙を溜めながら笑顔を見せる。
「バカな・・ありえません! 私のスキルで貴方の未来はすべて残影で映し出せれている。 それなのに、なぜ貴方は未来とは全く別の動きをしているのですかッ?!」
「そんな事、僕が知るわけないでしょうがッ!!」
自信満々に胸を張って言い張る正樹。
動揺するカガミだったが、周りに映しだした正樹の残影を見てまだ自分に有利である事を確認して冷静を取り戻す。
「・・まぁ、いいでしょう。 何が起きているのか分かりませんがどちらにせよ貴方様が死ぬことには変わりはありません」
カガミはすぐ近くに映しだしている正樹の残影に剣を構える。
アンナはすでに体力が消耗しており先ほどと同じように残影を消滅させる事はできない。
今度こそ、正樹の残影の心臓を貫いて終わりだ。
しかし、またもカガミはあり得ない現状を目の辺りにする。
「グハッ?!?!」
正樹の残影の心臓に剣を貫こうとした瞬間、カガミはくの字になって腰を折り曲げ、剣を手放さし腹を押さえて地面に膝をついた。
「な、なんだ・・ッ!? 一体・・なにがッ?!」
本体の正樹はまだアンナの傍から離れていない。
アンナが何かしらの攻撃を仕掛けた様子もなかった。
ならば、この腹部の痛みはなんだ?
まるで力一杯にみぞおちを殴られたこの感覚はッ!?
ゆっくりと顔を上げ自分の腹部を殴りつけた何かを見上げる。
そこに立っていたのは、先ほどとは違う殴りつける仕草を取っている正樹の残影があった。
「ど、どういう事だ? さっきとは全く違う未来の残影に・・変わっているだと?」
落とした剣を拾い上げ未だ収まらない腹部の痛みを押さえながら立ち上がるカガミ。
すると今度は真後ろに立っていた正樹の未来の残影がカガミの顔面を殴りつけてきた。
「~~~~ッ!? ~~ッ?!?!」
さらに今度は右の残影が、次に左、また次は別の残影が飛び蹴りで攻撃を仕掛けてきた。
「なんだ?! なんなんだこれはッ?!」
休む暇もなく攻撃してくる正樹の未来の残影達にカガミは動揺と混乱で叫びあげる。
反撃をしようと剣を振るが、残影は一度攻撃を仕掛けると蜃気楼のように消滅していく。
それならば攻撃をされる前に避けるか防ぐをしようとするが、建物内一面に映しだされた残影の数はおよそ100体。
どれか1つの攻撃を防げてもまたすぐに別の残影が攻撃を仕掛けてくる事によって止める事ができない。
「クソッ!? 消えなさいッ!」
あまりの連撃にカガミは思わず自分のスキルを解除した。
攻撃を仕掛けてくる正樹の残影から徐々に消えていく。
(何が起きているのかまだわかりませんが・・こうなったら本体を直接攻撃して殺すしか・・ッ!?)
息を整えながら本体の正樹が立っているアンナの方へ見る。
しかしアンナが膝をついている場所に正樹の姿はない。
まだ残っている残影の中から本体を探そうと見回した時だった。
「後ろだ」
すぐ背後から正樹の声が聞こえた。
まるで時間がゆっくりと動いているように感じながら振り返ると、右腕を大きく振り上げてカガミを睨みつける正樹と視線が合う。
「うぉぉおおおらぁぁああああッ!!」
そして、正樹の咆哮と同時に拳はカガミの顔面を直撃して鏡の破片が飛び散りながら地面へと倒された。




