第33話 未来予知
「なんで、急にどうしたんだよ! カガミ!!」
執事服を身に纏い、鏡の顔をしていても陽気な性格なカガミが正樹に刃物を向けて敵意を向けていた。
刃物は細長い剣を片手で持ち、いつでも突き刺す事が出来るように構えている。
さっきまで確かに武器を1つも持っていなかった事から、恐らくあの一瞬で鏡の中から取り出したのだろう。
急に敵意を向けられ動揺する正樹にカガミは何も答えずに再び攻撃を仕掛けた。
「~~ッ!! アンナッ!」
隣に立つアンナを抱き上げカガミの攻撃を避けながら後退する正樹。
(攻撃が早いッ?! まるで数人同時に剣を突き付けられてるみたいだッ!!)
視界に映るカガミの剣戟は数本同時に付きつけられているようで正樹は半分直観でアンナを庇いながら避ける。
「・・ふむ。 やはりこれではダメですか。 では――」
攻撃をすべて避ける正樹に対してカガミは一度距離を取ると鏡の顔に手を添える。
「神の権限 【未来予知】!」
カガミの鏡の顔が神々しく光りだしたかと思うと、周囲には何故か多数の正樹が蜃気楼みたいに揺れ動き立っていた。
「なッ! なんだこれッ! それに今、なんて言った? 神の権限だって?!」
カガミの様子を伺いながら周囲に立つ自分そっくりの偽物を警戒する。
両手は今、お姫様抱っこの状態であるアンナを担いでいる為に反撃する余裕がない。
かといってここで今は魔王のとしての力がないアンナを下ろすのリスクが大きい。
「先ほども言ったでしょう? 私のスキルは陰陽属性の光、未来予知だと。 そして周りにある貴方そっくりの影はすべてこれから貴方が行動する未来を映し出したものです」
カガミが映し出した正樹の影と呼ばれる物は建物のほぼ全体を動き回っている。
映し出された正樹の影はすべて無傷である為、少なくともこれだけの動きをしても正樹はカガミからの攻撃を一撃も受けないという事だ。
「しかし、貴方がこれから私の攻撃を一切受けない未来が分かっても油断は禁物ですよ」
正樹の考えを読んだカガミは剣を本体の正樹にではなく、カガミの隣に映しだされている正樹の影に剣を構える。
「これは、ただの未来の残影ではありませんから」
そういうとカガミは隣に映しだされる正樹の影の右足を突き刺した。
すると、それと同時に本体の正樹の右足に激痛が走る。
「ガァァアアアアアッ?!?!」
「正樹様ッ!」
急な痛みに正樹は悲鳴を上げ尻もちをつく形で地面に座り込む。
アンナは瞬時に正樹から下りて右足を確認すると服から赤い血がが滲み出ていた。
「まさか、未来に起こる残影に攻撃して実際にダメージが?!」
「その通り。 流石は元とは言え世界を支配しようとした魔王様ですね」
「~~ッ!?」
正樹の脚に出血をハンカチで押さえながらカガミを睨みつけるアンナ。
「貴方、一体どこまで知ってるの・・?」
「どこまで? いいえ。 私は貴女様の事情はまったく知りません。 ただ未来を視て貴女様が魔王である事を知っただけです」
カガミのスキルはあくまでも未来を視る未来予知。
相手の過去や事情は視る事はできないという。
「そう。 じゃあ元々貴方達の目的は私が狙いだったという事ですね」
それなら正樹達を巻き込まずに自分だけを狙えば良いではないかと激怒するアンナにカガミは首を横に振る。
「確かに最初の計画は貴女様の命・・いえ、賢者の石だけが目当てでした」
(――ッ! 賢者の石の事まで!)
「しかし貴女様を討つタイミングを測っていた頃、なんの運命の巡り合わせなのか私の祈願を完璧に達成する事ができる御方が現れた」
「それが奥様・・いえ、由紀様ね」
「その通りです!」
カガミは両手を広げ興奮するように声を張り上げる。
「まさかマリー様以外にもっとも神に近しい御方が現世に現れるとは! この機会を逃すわけにはいきません。 私の祈願を叶える為。 あの御方を生き返らせる為!!」
言いたい事を言って冷静になったのか、カガミは再び別の正樹の残影に剣を構える。
最初に正樹の右足を突き刺した残影は攻撃をしたと同時に消滅していた。
そして今度は確実に殺す為に心臓辺りに狙いを定めて。
「安心してください。 アンナ様は念の為にまだ殺したり致しません。 しかし正樹様、貴方様はこれからの未来で私にとってとても厄介な人物となるお人です。 ・・なので」
グッとカガミが握る剣に力が入りいつでも正樹の胸を突き抜ける準備が整う。
「やめてッ!」
アンナは叫びながらカガミを止めようと走りだすが、それではどうしても間に合うはずがなかった。
「さようなら正樹様。 この一週間、久しぶりに楽しいと思える日々でした」
そしてカガミはスキルで映し出した正樹の未来残影に、確実に心臓を剣で突き刺した。
 




