第32話 急展開
「未来予知?」
雨が降る山の中で目的地である旧神殿に向かう途中にある洞窟で昼休憩をしていた正樹達はカガミからマリーが魔王に命を狙われている理由を聞いていた。
「はい。 私のスキルは陰陽属性の光。 未来予知なのです!」
顔の表面が鏡で出来てる執事のカガミは自分の顔を光で反射させて自慢気に話す。
「――と言いましても私は冒険者ではない為スキルの熟練度も足りず、極稀に未来の映像が夢のように見える程度なのですがね」
「へ~。 それでその未来予知のスキルでマリーさんが魔王に命を狙われている映像を見たって事?」
「大雑把に言えばそういう事になりますね」
昼飯も食べ終え、アンナと由紀は昼飯片づけを片手間に正樹が中心となり質問をしてカガミの話を聞き耳に傾ける。
「でもそれだとマリーさんが魔王に命を狙われているというのは分かるけど、今から向かう旧神殿っていうのも未来予知で見たから?」
「いえ。 マリー様の家系は代々禁忌とも言われる魔術を扱う家柄ですので、私はその古い書記に書かれていた魔術書を見て魔王の封印するスキルの習得方法を知りました。」
するとカガミは自分の鏡の顔からボロボロの本を取り出して正樹に手渡す。
「こちらがその魔術書です。 そこには太古の時代から受け継がれてきた魔術が記入されています」
手渡された魔術書をペラペラとめくって見るが、この世界の文字だからなのか全く持って読めない。
まるで幼稚園児が適当に書いた日本語のようだ。
「正樹様。 私、この文字読めます」
いつの間にか片づけをしていたアンナが真横から本を覗き込んできており、耳元で囁くように正樹に伝える。
「これは魔王の座に引き継がれる際に伝えられるルーン文字という物です。 初代魔王の頃に存在していたアンチ魔法と呼ばれており私を含めここ200年間の魔王は誰も習得できていない魔術です」
「そんな凄い魔法がなんでマリーさんの家に?」
「魔術と言うのはやろうと思えば誰でもできる言わば方程式なんです。 決められた文字と羅列、さらに魔法を出力させる魔力があってすべての条件が揃えば発動が可能です」
だから人間が魔王の魔術を研究して資料として残っていてもおかしくはないとマリーは言う。
「ちょっと淫乱! そんな所立ってないで少しは手伝ってよ!」
一方、まだバスケットの中身を整理していた由紀が洞窟の奥をジッと眺めているマリーに声をかける。
しかし、かなり大きな声で呼びかけたというのにマリーはまったく反応を見せず洞窟を眺め続ける。
由紀は肩を落として小さく溜息を吐きながらマリーに近づく。
「さっきから何見てるのよ。 何かいた?」
「・・・呼んでる」
「え?」
ボソッと声を漏らすマリーの顔を見ると、上の空のような表情でジッと洞窟の奥を見ていた。
「ねぇ。 大丈夫?」
あまりにも様子がおかしく感じた由紀はマリーの肩に触れようとした。
その瞬間、マリーに触れようとした由紀の手に電流のような物が流れ弾かれてしまう。
(これはッ?!)
その電流の感覚を由紀は知っている。
1週間前、マリーと初めて出会ったあの日に由紀の【神の権限】とマリーの【女神の加護】が衝突した際に生じた衝撃。
「ん? 由紀ちゃん? どうかした?」
洞窟の奥川にいる2人の異変に気が付いた正樹が振り返る。
すると由紀とマリーが立つ更に奥、洞窟の暗闇の中から一点の光が見えた。
その光を認識した瞬間、目の前の景色がグニャリと曲がり、いつの間にか由紀とマリーの姿が消え、周りの光景も洞窟から何処かの建物へと変わった。
「へ? 何処だここ・・由紀ちゃんとマリーさんは?」
急な展開についていけていない正樹はまるで何処かのお城のような建物を見回す。
「なんだここ・・なぁカガミ。 僕達さっきまで洞窟の中にいたよな? なんで急に――」
状況を聞こうと背後に立つカガミの方へ振り向いた瞬間だった。
視界の中には刃物のような物が正樹の頭に目掛けて刺さろうとしていた。
「正樹様ッ!!」
あとコンマ1秒遅かったら、正樹の眉間には刃物が突き刺さり即死していただろう。
たまたま横に立っていたアンナが腕を引っ張り、正樹の態勢を崩した事で刃物は右頬の横を通りすぎた。
その際に完全に避け切れる事が出来ず頬に線を描くように傷が出来て血が流れる。
「・・・カガミ?」
急激な展開が一度に2度も起こり、未だに状況の理解が追い付かない正樹。
しかし、そんな正樹を置いて目の前に立つ男は刃物を再び構え攻撃態勢に入っていた。
「やはり、上手くいかない物ですね。 申し訳ないが、貴方にはここで死んでもらいます。 正樹」
正樹とアンナに明確な敵意を向けているのはさっきまで一緒にご飯を食べて楽しく談笑していたマリーの執事、カガミだった。




