第31話 依頼の内容
とある目的地へ向かう為、正樹達は一週間以上続く雨の中で山の中を歩いていた。
人の通る道ではなく薄っすらと開ける獣道を頼りに足場を作りカガミを先頭に朝から歩き続き、途中であった絶壁の洞窟で休憩する事になった。
「いやはや。 やはりこの雨の中で山の中を歩くのは少々厳しいですな。 気が付けばもうお昼を回っておりました」
自分の顔である鏡から小さい時計を取り出して時刻を確認するカガミ。
目的地まであと少しだという所らしいが、時間的にも丁度休憩に入っても良い頃合いだった。
そこで時計を鏡の中に戻すと今度は2つ分のバスケットを鏡の中から取り出し洞窟の中で座れるようにシートを用意する。
ここまでの流れは流石は執事というべきか、まるでプロに用意してもらった如く綺麗な休憩場が出来ある。
バスケットの中には朝早くにアンナと由紀が用意してくれた卵とハムが挟んであるサンドイッチと具材別のおにぎり、そして簡単に食べられるよう切り分けてスティック状にした野菜が入っていた。
「それで、今更だけど本当にこんな山奥にあるわけ? 旧神殿なんて」
人参のスティックを一口食べる由紀が隣でサンドイッチを手に取るマリーに横目で聞く。
「そうらしいですよ~。私はまだ一度しか行った事がないので場所はすべてカガミに任せてますけど~。 そうですよねカガミ?」
「はい。 このままあと少し山を登れば今は原形もほとんど残っていない古い神殿があります」
カガミはどうやっているのか分からない自分の顔である鏡に地図のような映像を浮かびあがり、洞窟から目的地までの道のりを映す。
「今回、私が皆々様に依頼した内容。 我が主であるマリー様をその旧神殿まで護衛して頂き、主人を狙う魔王を封印するスキルを習得させる事です」
カガミはここまでの話を纏める為、正樹達が昼食を取りながら話す。
「まずはこの依頼を受けて頂くきっかけとなったアンナ様に感謝を。 貴女にはこの一週間生活面などにも色々と助けられました。 このお礼はまた必ず」
深々と頭を下げるカガミにアンナは慌てて手を横に振る。
一週間もの間、カガミの依頼を断り続けた由紀を納得させることが出来たのは昨日プチ開催された人生ゲームに優勝したのがアンナだからだった。
依頼を受けるか断るかの中で中立した立場だったアンナは由紀とマリーのプレッシャーに耐えられず多数決で依頼を受けるか決める事に。
結果、正樹・カガミ・マリーが依頼を受けるほうに挙手。
中立だったアンナと元々断り続けた由紀が受けない方の挙手で話がまとまったのだ。
まぁ、依頼した側が挙手するのは少し・・いや、かなり変だが、全員参加でというアンナの決定には誰も口に出す事は・・・由紀以外口に出す事はなかった。
「そ、そんなやめてください! 私は別に感謝されるような事もしてないですし!」
「あらあら~。 本当に可愛い人ね~。 本当に私の直属のメイドにしたいくらい~」
「え? そ、そうですか? あはは、嬉しいな~・・」
マリーはこの一週間のアンナの私生活を見てきて余程気に入ったらしく何度か本気でアンナをメイドにならないかと誘っていた。
しかし、アンナはその誘いを謙虚に断ると同時に複雑な表情で目を泳がせる。
なぜなら今から向かう目的地へ行く理由。
それが魔王を封印するスキルをマリーに習得させる事が目的だからだ。
「あらあら~。 何度も言うけど私のメイドになればもっと裕福な生活は保障するわよ~? 今の家だと小さくて色々と不便があるのではなくて~?」
「いや~・・あははは」
まさか元とはいえ魔王である自分を封印するスキルを習得させる手伝いをしているとは言えず、アンナは愛想笑いをするしかなかった。
「話が少し逸れたけど、そもそもなんでマリーが魔王に命を狙われてるんだっけ?」
「あぁ、それはですね・・って、大丈夫ですか正樹。 やはり少々右頬が腫れているようですが?」
「うん、まぁ・・ごめん。 その事には今は触れないでくれると助かる」
右頬が腫れている事をカガミに指摘され、正樹はなんとも言えない表情をする。
その際にアンナと視線があうのだが、まだ汗で濡れた服を脱いでいる所を見てしまった怒りが収まっていないのかプイッと目を逸らされてしまった。
隣に座る由紀に最初は心配されたのだが、アンナは自分の裸を見られた事は言わず急に声をかけられた際に思わず叩いてしまったり訳を話す。
もしもアンナの裸を見たと言ってしまったら、どんな目に会うか分かったものではない。
そこの所はアンナも危惧して話を上手く変えてくれたのだ。
「そうですか? それでは話を元に戻しますが、我が主が命を狙われ初めたのは今から約1ヵ月前まで遡ります」
洞窟近くでシートを広げ、輪になって座る正樹達。
雨はどうやら朝よりも激しさを増し、一週間の中で1番激しい雨が降り注いでいた。




