第28話 人生ゲーム
元の世界に生き返る為に魔王を倒す為、異世界へやってきた正樹達は気が付けば早2か月が過ぎようとしていた。
異世界に来た時にはすでに気候は肌が温かく感じ緑が豊かになっている季節である為、異世界とはこういった物だと認識していたが、ここ1週間ほど雨が連続で続いていた。
窓から聞こえる雨の音と共に、カエルの大合唱が聞こえてくる。
この世界にも前の世界のように四季という物があるのか分からないが、もしかしたら今は梅雨の時期なのだろうか?
「やっぱりこれだけ森の中で建っている家だと自然の音がよく聞こえるな~」
耳を澄ませば屋根に当たる雨音とカエルの合唱がまるでユニットを組んでいるようで不思議と心地が良い。
前の世界ならこのまま居眠りをしているだろう。
・・・あれがなければ
「ちょっとッ! それ私のッ!!」
「フフフ~ッ! 何を言ってるの~?? これは悪魔でもルールを乗っ取っての取り分ですよ~??」
「だからって私の領分から取る事ないでしょッ! そっちがその来なら・・」
「あぁ~~ッ! それは私の~ッ!! 返しなさ~いッ!」
「フンッ。 先に仕掛けてきたのはそっちでしょ?!」
「あらあら~。 相変わらず可愛げのない事~」
「あら? 喧嘩なら買うわよ?」
「正樹様ァァァあああああッ!」
眠りに入りそうだった意識をアンナの悲鳴と共に現実に戻り正樹は溜息を吐く。
どうやら3人はマリーの執事だという鏡の顔をした男、カガミが暇つぶしに紹介した人生ゲームをして遊んでいたようだ。
ゲームは進行役を合わせて4人用だった為、正樹は遠慮して昼寝をしょうとしていた。
しかし、先ほどから1ゲーム進める事に由紀とマリーの言い合いになり挙句の果てにはお互いスキルを使用して喧嘩を始めようとする始末。
その度にプルプルとゲームに混ざっているアンナが正樹を呼び寄せる。
「君達ね~。 少しは仲良く遊ばない?」
「無理」
「無理ですね~」
真顔で拒否する由紀と笑顔を向けながら否定するマリー。
そこで息があったのが気に障ったのか2人共再び火花が飛び散って見えるくらい睨みつける。
「ハッハッハッ! 困ったものです!」
「いや、アンタ進行役なら止めてよ」
その間で楽しそうな笑い声でやれやれと肩をすくめるのはカガミだ。
続く雨に暇を持て余した女性陣(アンナは強制参加)達に自身の顔からマジックのように取り出したゲームであるはずなのに、始まってから2人の言い争いを止める様子がまったくない。
むしろ見て楽しんでいるように見える。
顔がないけど。
「因みに今度は何で争ってるわけ?」
睨み続けていた2人に聞くが、いつの間にかゲームが再開されて別の事で言い争いになっていた。
置いてけぼりになっている正樹に横から袖を引っ張られる感覚に気が付く。
「ん? どしたアンナ?」
服の袖を引っ張っていたのは怯えた子猫が猫を折り曲げているような表情で上目遣いをして見ていたアンナだ。
「正樹様。 このゲームは危険です。 即刻中止にするべきだと思います」
「いや、そこまでしなくても良いと思うけど。 たかがゲームだし」
「正樹様は甘いです。 これがただのゲームだと思ってると・・死にますよ?」
なにそれ怖い。
ゴクリッと唾を飲み緊張感を引き出すアンナだが、未だに正樹はその緊張感についていけていない。
ただのゲームに一体何をそんな必死になっているのだと。
ルールは至ってシンプルな物でサイコロを振って出た目に駒を進めていくゲーム。
その止まった駒でお題のような物や仮想紙幣を支払ったり貰ったりするのだが、正樹は改めて次々に進めていく2人の様子をしばらく見る事にした。
「2・・3・・4ッ! はい来たッ! 気になる相手に既成事実に成功して結婚ッ! 幸せの生活がスタート! まぁそうよね! 将来的にはこれが当たり前なのだから当然よ!」
「5・・6~! あらあら~! 気になる相手がストレスで倒れている所を発見~。 介抱と名ばかりに誘惑して彼と一夜を共にですか~。 フフフ~ッ。 マサキが私に振り向くのも時間の問題ね~♪」
「ちょっと待って」
改めて駒の内容を聞いて正樹は思わずゲームを一時中断させる。
さっきから既成事実やら誘惑やらと恐ろしい単語が出て来てなかった?
気のせいじゃない?
「カガミ。 これなに?」
頭を抱えながらゲームを紹介した執事に尋ねる。
「なに・・と言われましても、人生ゲームですよ?」
「少なくとも僕が知ってる人生ゲームでは既成事実とか誘惑とかの単語は存在しないな」
カガミはキョトンとした様子を見せると由紀とマリーを見て肩をすくめる。
「仕方がないですよ。 普通のゲームだと盛り上がらないと思いまして少し趣向の違うルールのものを使用しているので」
「へ~。 ・・因みにその趣向とは?」
「ズバリッ! 【ドキドキッ! 彼は私の物! 掴み取れ、気になる相手とのハッピーライフッ!】というお題です」
「それ絶対に1番2人に参加させちゃダメなやつッ!」
つまり同じく好意を寄せた相手を狙うプレイヤー同士でどちらが先に相手の好感度を上げて自分を選んでもらうかという人生ゲームらしいのだが、何故敢えてそんな昼ドラ設定のようなルールのゲームをこの2人に参加させたのか・・・。
「因みに好感度が1番高くゴールに就いたプレイヤーは正樹と結婚する事になっているのであしからず」
ハッハッハッ! ――と何がおかしいのか明るく笑うカガミに思わず近づき胸倉を掴む。
「何勝手な事してくれてんの?!」
「いや~。 こうでもしないと由紀様のやる気と説得ができなかったもので。 必要な犠牲というものです」
「だからって僕を生贄にする事ないじゃないかッ!!
そんな勝手に正樹を巻き込んでの正樹だけのデスゲームは着々と進められていく。
アンナがただのゲームではないと真剣な表情で言ったのはこういう事か。
これは雨が続いての暇つぶしと言ったがカガミにとっては暇つぶしではなかった。
今から1週間前、カガミが正樹達にとある依頼を頼みにきた。
それは魔王に命を狙われているマリーを助けてほしいという物だ。
しかし、その依頼に正樹が答える前に即答で由紀が依頼を拒否した。
それでも食い下がらないカガミは何とか由紀に依頼を受けてもらう為だけにこの一週間家に居座り説得を続けているのである。
そして現在、1週間の説得に頭を縦に振らなかった由紀にカガミは最終手段に出る。
それがこの人生ゲームだ。
マリーが勝てば依頼を受けてもらい、由紀が勝てば依頼を受けない。
そういった話し合いで決まったのだが、人数規定により人数合わせで家事をしていたアンナが強制的に参加させられた形となっている。
始めてから2人の本気の雰囲気について行けず体を縮こまっている。
かわいそうに・・
「4・・5ッ! 正樹さんの気持ちを引き留め離婚回避ッ! やっぱり最後に勝つのは愛ね!」
「2・・3~ッ! マサキが洗脳されている危惧を感じ治療へ~。 これで私への気持ちに気付いてハッピーエンドよ~!」
ゲームは終盤。
2人は人生ゲームとは思えない白熱を見せていた。
2人に対する正樹の好意度もほぼ同じで後はどちらかが先にゴールすれば勝利だ。
「正樹さんと一緒になるのはッ!!」
「私よ~!!」
そして最終ラウンド。
2人の最後のサイコロ振りですべてが決まるッ!!




