第27話 依頼
「「 御馳走様でした! 」」
アンナが用意してくれた朝食をテーブルで囲いながら食べ終えた正樹達は食後のティータイムに入る。
今日の朝食は目玉焼きとベーコン、そしてバターを乗せた白パンと白菜スープだった。
この家に居候させてもらってからという物、アンナは食事にかなりのこだわりを持っているらしく同じ料理が2日以上続く事など滅多にない。
その為、正樹達は異世界に来てから食事に関しての不満は今まで考えた事がなかった。
しかし
どういうわけか一緒に朝食を食べる事になったマリーという女神の加護を持つ少女と、その執事だという鏡の顔を持つ男カガミの様子を見て、今までどれだけアンナに助けられていたのか改めて理解する事になる。
「すごいですわアンナさん~! たったこれだけの食材でここまで新鮮で美味な味を引き出すなんて~!」
「全くその通りです! 私もあまりの美味しさに口元が緩むなどいつ以来でしょうか!」
身なりからしてかなり高貴な生活をしているであろうマリーと執事のカガミがアンナの朝食を大絶賛しているのだ。
しかも食後とその前にも入れていた紅茶とコーヒーも普通とは違うらしく、どれもプロレベルだという。
・・っていうか鏡の人はさっきからどうやって飲み食いしてるわけ?
アンタに緩む口なんてないでしょうがッ!!
見てたら料理と飲み物を口元であろう鏡の前まで持ってくると魔法のように一瞬で消えてるんだがッ!
あまりの絶賛に照れるアンナは嬉しそうにお盆で顔を隠してニマニマと笑顔を見せていた。
「それで? 貴方達は一体いつまで居座るつもりなのかしら?」
腕を組んで目の前に入れてもらった紅茶を味わいながら飲むマリーを睨みながら話を切り出したのは由紀だ。
「勿論~。 マサキを私の伴侶となるまで~」
「寝言は寝て言ってくれるかしら~????」
余裕の笑みを浮かべながら由紀の隣に座る正樹に片目を閉じてウインクをするマリー。
対して由紀も対抗するように笑みを浮かべるが口をひくひくと顔を引きつらせながら、マリーのウインクに一瞬照れる様子を見せた正樹にテーブルの下で足の脛を蹴り上げる。
「姫様? 伴侶とは一体どういう事ですか?」
するとマリーの隣で口元を布巾で拭いていたカガミが怪訝そうに質問する。
「どういうって、貴方が言ったんでしょカガミ~。 近いうちに私に相応しい運命の人に出会えると~。 それがこの御方。 マサキです~」
マリーは照れるような仕草で両手を頬に抑えクネクネと体を動かす。
「・・・・そう。 この淫乱に世迷言を吹き込んだのは貴方なの」
カクンッと首を傾げて由紀はカガミを睨みつける。
逃げて鏡の人ッ!
超逃げてッ!!
「でも残念でした。 正樹さんは私の旦那なのでアンタの運命の人ではありません。 人違いなので早く出て行ってください~!」
それに対抗するように由紀は正樹の腕に抱きつき自分達の関係を見せつける。
「あらあら~。 でも貴女達が御結婚しているようにはどうしても見えないんですよね~。 どちらかと言うと友達以上恋人未満?って感じで~。 本当に結婚されてるんですか~??」
ハッキリと言えば、夫婦ではなく恋人関係の状態だ。
しかしここで夫婦ではないと言ってしまえば後でどうなるのかなど未来が見える為、正樹は黙秘を続けた。
「確かにまだ式も届も提出していないけれど、正樹さんと私は将来を約束しあった仲なんだから実質すでに夫婦と言っても過言じゃないわッ!」
「あらあら~。 式もまだ。 結婚証明もまだ。 更には見た限り指輪もまだのようなのに夫婦とは流石は重い女性である事。 これならマサキが私に振り向くのも時間の問題のようですね~」
正論を続けて言われ珍しくも言い返せなくなった由紀は正樹の腕にしがみついている手をギュッと力を強く握る。
先ほどまであからさまに嫌な態度をとっていた由紀にしばらく様子を見て何も言わずにいたが、不安そうに表情を見てそろそろ話を交わろうとする正樹。
しかしその前に話に割って入ったのはカガミが先だった。
「ちょっと待ってください姫様。 確かに私は姫様にとって運命を変える方に出会えるとは言いましたが、それは伴侶がどうとかの話ではありませんよ?」
カガミの発言にマリーは両頬を手で押さえたまま「え?」と声を溢して体を固める。
「ふぅ・・そういう事でしたか。 そう解釈すれば確かにスキルで視た状況になるわけです」
カガミは頭を押さえながら溜息を吐くと、改めて椅子から立ち上がり正樹と由紀、そしてアンナに胸に手を添えて頭を小さく下げる。
「大変申し訳ございません。 実は私達は最初っから貴方達に出会う事を目的として遥々やってきました」
「僕達に?」
「会う為」
「ですか・・・」
お辞儀をする執事のカガミを前に正樹達は茫然とする。
「はい。 勝手ではありますが、貴方達は一応とは言え冒険者登録をされている冒険者。 どうか私の依頼を受けて頂けないでしょうか!」
先ほどまでの紳士的に明るい声のトーンではなく、真剣な声で頭下げるカガミに正樹は姿勢を取り直す。
「僕達に依頼とは、どういったものなんですか?」
カガミは一瞬、正樹の背後で同じく話を聞いていたアンナに視線を向ける仕草を見せるとすぐに正樹と視線を合わせた。
「貴方達に依頼したい内容。 それはこの御方、マリー・ホワイト様を魔王の手から救って頂きたいのです!」
魔王からマリーを救ってほしい。
その内容だけを聞けばまるでRPGのゲームで大冒険が始まる冒頭のようだ。
しかし、正樹と由紀は視線を後ろに向けてアンナを見る。
その魔王というのが目の前にいる少女なのだと、どう説明すればいいのか・・・。




