第24話 修羅場
安生正樹 17歳。
彼は今、今世最大の修羅場に対面していた。
周囲の雰囲気は言葉に表すなら正に地獄。
家の中だと言うのに灼熱の釜に煮られていると錯覚してしまうほどの熱さで汗が止まらない。
「うふふふ~」
「あははは~」
テーブルを挟み両サイドの椅子に腰をかける2人の女性。
2人が腰を落ち着かせてからすでに10分以上は経ったはずなのに、聞こえるのは何の意味もない笑い声だけ。
談笑しているわけでも、誰かが仲介役に出て話を進めている訳でもなく、ただ笑っている。
それがとてつもなく怖い。
「あ、あの~2人共?」
「なぁ~に? 正樹さん」
「どうかされましたか~? マサキ」
あまりの空気の悪さにどうにかして和ませられないかと声をかける正樹だったが、笑顔を固定したまま向けられた顔を見て思わず怯え「なんでもありません」と体を縮める。
2人共笑顔だというのに目が笑っていない・・・。
「失礼しま~す・・・」
そんな空気の中、アンナが台所からお盆に乗せて飲み物を持ってきた。
背筋を伸ばし落ち着いた雰囲気のように見えるが、2人の手元に飲み物を運ぶ手は今にも恐怖で溢しそうなくらい震えている。
「ありがとうアンちゃん」
「ありがとうございます~。」
2人は用意された飲み物を1口飲む。
「・・・さて、それじゃあ」
「えぇ~。 本題に入りましょう~」
ガシャンッ?!
――とコップを少し乱暴にテーブルへ同時に置いた2人は、何故かずっと床に正座をさせられている正樹へと再び視線を向ける。
「正樹さん。 この方は誰?」
「この方とはどういったご関係で~?」
・・・おかしい。
2人共言葉遣いは礼儀正しい筈なのに、それぞれの呼び方に悪意を感じる。
それは両方とも感じ取れているのか由紀はあからさまにマリーを睨み、マリーは笑顔のまま細めを少し開けて由紀を見る。
こんな状況になったのは昨日の出来事から一晩経った朝だ。
外は生憎の雨で時々雷が鳴っている。
昨日、家の近くに流れる小川を散歩していた正樹が森の中で倒れているマリーを発見。
その際にマリーを襲うおうとしたと勘違いされて一悶着あったのだが、どうやら完全な誤解だと理解してもらい、そこで話はついた。
しかし
何故かマリーは初めて出会った正樹に対して愛の告白をしてきたのだ。
一体何が起きているのか理解できないでいると、その状況を由紀に目撃されてしまう。
そこから由紀の暴走でさらに一悶着が起こり、この周囲と街を消し炭になってしまう直前にまで大事になってしまったのだが、女神様の介入もありその場は一応解決はした。
そして1日が経った朝。
あれから気を失うように眠ってしまった2人を家へと運び同室で休ませたのだが、2人共起きた瞬間から火花を飛ばし合い再び争いが起ころうとしたのだ。
それを猫のように涙目で怯えながら止めに入るアンナにより、話し合いという形で今に当たる。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。 私は最上由紀。 正樹さんの妻です。 どうぞよろしく」
ニコッと笑顔を向けながら自己紹介をする由紀であるが目は完全に殺人鬼の目である。
「あらあらこれはご丁寧に~。 私はマリー・ホワイトと申します~。 マサキの本当の運命の人です~。 どうぞよろしく~」
マリーもずっと崩れない笑顔のまま自己紹介をするが、目は完全に勝ち誇ったような目である。
それが気に食わなかったのか由紀は長い沈黙の後、「へ~・・・」と呟きながら首をカクンッと傾げる。
「・・・それじゃあ・・・」
「えぇ~。 自己紹介も済んだ所で~」
ピカッと窓から雷の光が差し込むと同時に、由紀とマリーは正樹を見る。
「正樹さん」
「マサキ」
そして近くで落ちたのか、光が見えてからすぐに何処かで家が軽く揺れるほどの雷が落ちた音が聞こえた。
「「 この方とは、どういった関係で? 」」
その雷が家の外で鳴ったのか、それとも家の中で鳴ったのか、この修羅場と化した家の中で正樹には分からなかった。
因みにアンナは飲み物を運んだ後、身体を震わせながら台所から見守っていた。
「これが・・三角関係ッ!!」
恐ろしいが、何処かで昼ドラのような展開を期待している事に気付いていない。




