第２１話 闇落ち
「女神の・・・」
「・・・加護」
マリー・ホワイトと言う白髪の女性は自分の事をハッキリと【女神の加護】を持つ聖女だと言い放つ。
「女神の加護。 それってまさかッ！」
正樹が元の世界で命を落としこの世界に召喚させた女神。
魔王を討伐すれば元の世界に生き返らせてもらえる条件だったが、魔王をどれだけ倒しても再び次の魔王が登場すると元魔王であるアンナの話から、正樹達は魔王討伐ではなく女神様との連絡手段を探す事になっていた。
そのきっかけになるであろうセリフを、マリーは女神の加護だと言い放ったのだ。
「き、君ッ！ 女神の加護ってまさか――ッ！」
指の指先が正樹から離れたせいなのか、正樹はいつのまにか身体も声も自然に動くようになっていた。
「まぁマサキ！ 君だなんて他人行儀な。 私の事はどうかマリーとお呼びください！」
流れるように身体が自由になった正樹へと倒れ込むように近づき、正樹の胸元へと添い遂げるようにくっつく。
その様子を見ていた由紀は地面にある野球ボールほどの石を拾いあげるとマリーに向けて全力で投げつけた。
しかし石はマリーには当たることなく、見えない壁に触れたように何もない所で跳ねて小川に落ちて行った。
「なんなんです？ 先ほどから私とマサキの邪魔をして。 貴女に私達の関係に何か問題が？」
「問・題、大有りよッ！！ この淫乱女ッ！！」
足元の地面がめり込む程に踏み込むと、由紀はマリーに向かって一直線に飛び掛かる。
すると何処から取り出したのか手元には包丁のような物を持っていた。
「死ね。 淫乱」
「あらあら。 下品な方です事」
由紀は包丁を真っ直ぐにマリーに刺しこむ寸前に、マリーは由紀に指をさした。
次の瞬間
どちらの攻撃も当たっていないはずなのに２人の間に電流のような物が流れ突風が発生した。
由紀は突風の勢いで後ろに飛び、マリーは突風に耐えた正樹へと抱き着くような形で体を預ける。
「お、おい――ー」
「あぁ、ごめんなさいマサキ。 私を守る為に身を挺して守って下さったのですね。 やはり貴方は鏡の予言にあった運命の人」
（鏡の予言？）
マリーの言葉に疑問を持っていると、前から体中に鳥肌が立つほどの恐ろしい視線を感じる。
前を見るとまるで魂が抜けたような真っ黒な瞳でユラユラと体を横に揺れる由紀と目が合った。
「いつまで私の正樹さんに抱きついてんのよ。 正樹さんは私のなんだから。 正樹さんと将来を約束したのは私なんだから」
「ゆ、由紀ちゃん？！ あの、その、これはッ！！」
何か言い訳をしようと声を出すが、この状況と最初に見られた状況が最悪すぎて上手く由紀をなだめる言葉が見つからない正樹。
しかし、由紀と正樹との関係を知らないマリーは正樹の首に腕を回し更に身体を密着させてくる。
それが余計に由紀の機嫌を損ねた為、由紀はすでに周囲の声と共に正樹の声も聞こえておらず、意識にあるのはマリーに対しての殺意のみだった。
「私と正樹さんの仲を引き離そうとするなんて許さない。
正樹さんは私のなんだから。
私だけしか見ちゃダメなんだから。
私以外の女と仲良くしないでよ。
私だけを見てよ。
――あぁ
――アァ
――あァ・・・」
―許さない赦さないユルサナイ許さない赦さないユルサナイゆるさない―
ドプンッと何かが沼に落ちたような感覚が由紀の中で溺れるように落ちていく。
