第2話 恋人も! 異世界へ!
異世界へ渡る光の柱へ入って行った少年を見送った女神は警戒していた。
それは異世界へ向かった少年にではない。
先ほどから天界にまで放たれる殺気を感じ取っ手の警戒だった。
「一体誰が・・天界に喧嘩を仕掛ける者など魔王くらいだと思っていましたが・・。」
「女神様ッ!! た、大変でございます!」
背中に綺麗な白銀の羽の生えた少女、天使が慌てた様子で飛んできた。
「何かあったのですか?」
「そ、それがッ! 敵襲でございます!!」
「なんですって?」
天界に喧嘩を仕掛ける者は今まで数えきれないほどいたが、天界そのものに攻撃を仕掛けられた者はただの1人して存在していない。
「敵の正体は?」
女神は先ほどまでのラフな格好から一瞬で鎧に身に纏った。
それほどの異常事態が発生しているのだ。
天使もその緊張感が伝わったのか更に声が大きくなる。
「敵の正体は・・・人間です!」
「・・・に、人間? そんな馬鹿な!」
今まで天界に喧嘩を仕掛ける者はどれも強大な力を持つ種族、悪魔のみ。
その種族の中でも最強と言われるのが魔王と呼ばれる存在だ。
神に近しい者であるにも関わらず、負のエネルギーが強すぎる為に悪魔達は争いのみを生き甲斐にしている。
一方、人間とはただの生物だ。
特別な能力があるわけでもなく、1では世界を救う事も支配する事もできない。
だから下界にいる魔王を倒す為に、天界から離れる事ができない神に変わりわざわざ特別な能力を付与させて異世界へと召喚させる。
そんな人間が天界を襲いに来た?
一体どうやって・・いや、そもそも目的は?
そんな事を考えていると、上空から女神でさえ恐怖を感じる負のエネルギーを感じた。
空を見上げると誰かが浮いている。
「あれが・・人間ですって?!」
確かに姿形は人間の少女の姿だ。
しかし、その内側から溢れ出る負のエネルギーは魔王おろか、神をも超越している。
「ねぇ。」
先ほどまで空に浮いていたはずの少女が一瞬消えたと思えば、気が付かぬ内に女神の背後に立っていた。
「ここに・・男の子は来ていませんでしたか?」
(男の子? ま、まさかこの子、あの少年が目的?!)
女神は引きつった笑顔で振り返る。
その時に再度確認して思う。
目の前にいる少女は何処から見ても普通の人間だ。
長髪の黒髪が良く似合う清楚な気質があり、年頃にしては体つきも色っぽいスタイルだ。
男神が見ても女神に匹敵する美貌を持っているとも言える。
(それだと言うのにこの禍々しく感じ取れる負のエネルギーは一体?!)
「どうなの? 来たの? 来てないの?」
頭を壊れたロボットのようにカクッと斜めに傾ける。
「ご、ごめんなさい! えっと・・男の子を探してるのよね? その子ならたった今そこの光柱から異世界へ向かったわ。」
少年が入って行った光柱は少しずつ消えかけている状態だったが、まだ追いかけようと思えば追いかけられる。
「・・そう。 それと、あと1つ聞きたいのですが。」
「な、なにかしら?」
「貴女、あの人の事が好きなんですか?」
「・・・・は?」
少女は顔を斜めに向けた際に乱れ落ちた前髪を口に加えながら逆方向に顔を傾ける。
「だって、おかしいじゃない。 沢山いる人間の中でなんであの人を選んだんですか? 顔がタイプだったんですか? それともあの人の優しい性格に惹かれたんですか?」
「待って? 決してそんなやましい物はありません。」
「じゃあ一体なんだって言うんですか? あの人に好意があるから選んだんでしょ? そうなんでしょ?」
少女の身体から黒いオーラのような物が溢れだし、周りの綺麗な空と大地は段々と汚染されていく。
「あの人は私のなんだから。 あの人の1番は私なんだから。 他の女があの人に好意を抱くなんて許さない。」
――――許さない赦さないユルサナイゆるさないッ!!
「誰かぁぁあああ!! 助けてェぇええ!!」
あまりの圧力により女神様は涙目になって助けを求めた。
◇ ◆ ◇ ◆
結果的に、天使が助けを連れて来てくれた10柱の神様により人間の少女を異世界へと強制召喚させる事で天界の平和は保たれたのだが・・。
「あの子・・大丈夫からしら・・・。」
女神様は魔王を倒しに行かせた少年を心の底からの謝罪と心配した。