第19話 告白
周囲の小川が吹き飛び、小さな池が出来上がった。
空からはパラパラと石や岩だったものが砂のように細かく砕け降り注ぎ近くの樹木も風圧のせいで枝が折れている。
そんな悲惨な状況の中、1人の白髪の少女ははだけた服を正しく着直して誰が見ても麗しいお嬢様の気質を出していた。
「ん~ッ!! ・・・はぁ! あまりにも良い天気だからつい寝てしまったわ~」
女性は気持ちよさそうに腕を伸ばし何事もなかったかのように手で押さえながら欠伸をする。
「さて、流石にこれ以上勝手をしていると怒られそうだし戻ろうかしら・・・あら?」
今頃心配しているであろう付き添いの慌てた様子を思い出し、クスクスと笑いながら何処かへ向かおうとした女性は足を止め、小さな池となった小川を振り返る。
「あ、あっっっぶなぁぁぁぁッ!! え? ナニコレ、川が池になってるんですけどッ?!」
池へと地形が変形した小川の向こう側には先ほど爆発に巻き込ませた少年、正樹が驚愕の表情で池と小川を交互に眺めていた。
(・・・?)
女性は眉をひそめながらも先ほどと同様に正樹に指をさす。
「え? ぉぉぉおおおおッ!?」
すると今度は正樹の立っている位置に周囲の樹木がまるで襲ってくるように折れて落ちてきた。
激しい音と砂ぼこりが舞い、普通なら樹木に踏みつぶされて圧死する状況だ。
「あぶなッ! 本当にあぶなッ! なんだここ!」
しかし、正樹は樹木の下敷きにはならず、まるで瞬間移動をしたかのように今度は再び女性が立っていた場所の近くに移動していた。
「・・・ッ」
女性は再び正樹に向けて指をさす。
すると今度は猛毒を持った蜂の大群が正樹を襲うが、森に逃げ込んだ正樹は叫び声を上げながらも数秒で蜂を巻いて元の場所に戻ったきた。
「・・・ッ!」
そしてまたも女性が指をさすと、森の奥から魔獣クラスの大蛇が現れ正樹を襲う。
しかしこれも正樹は大蛇の攻撃をすべて避けながら森へと逃げ込みすぐに戻ってきた。
「~~~~ッッ!?」
女性はまるで自棄になったように頬を膨らませながら、今度は5回連続で正樹に指をさす。
1回目は大型魔獣の大鳥が襲いかかり。
2回目は偶然居合わせた盗賊団に襲われ。
3回目は着地した場所が崩れ地下に落ちていき。
4回目では天気の良い晴天に落雷が発生して。
そして5回目では謎の術式が正樹の周囲に発動して人が1人立つサイズの場所が跡形もなく消滅した。
なのにも関わらず、どれも正樹は焦っている様子ではあるが疲弊した様子など微塵も見せない様子で再び元の位置に戻ってくる。
「・・・ふふ。 良いですわ。 認めましょう。 私のスキルがすべて偶然ではなく必然的に回避されているという事実を」
女性は温厚そうな笑顔から真剣な表情を作りあげゆっくりと正樹にむけて腕を上げる。
「これが、私の本気です」
そう言って指を正樹に向けてさそうとした瞬間だった。
先ほどまで立っていた正樹の姿が何処にもないのだ。
急に視界から消えた正樹を探そうと周囲を見渡そうとした時、指でさそうとした腕を誰かに捕まれる。
「なぁ。 そろそろいい加減にしてくれません?」
そこにいたのはさっきまで離れた場所に立っていた正樹が口元をピクピクと動かしながら作り笑いを向けて目の前に立っていた。
女性は掴まれた腕を振り払おうとするが、男性である正樹の方が圧倒的に強い為振り払う事が出来ない。
「・・・か弱い女性に対して手をあげるなど殿方としての品が疑われましてよ?」
「か弱い女性は心配して声をかけた他人を殺そうとしません」
さっきまで和やかだった自然の雰囲気は2人の張り詰めた空気でひりつき、周囲の動物達はぞろぞろと離れていく。
「それでは何か? このまま私に暴力でも振るって何処かへ連れていきますか?」
「・・・」
温厚な笑顔のまま強気な言葉で正樹を威圧するが、掴まえた女性の腕は微量ながら小さく震えていた。
正樹は肩を落としながら小さく溜息を吐き、ゆっくりと女性の腕を放す。
「別に、どうもしないよ。 これ以上そっちが攻撃を仕掛けてこないなら僕もこのまま離れるよ」
「あら? 寝ている女性を襲おうとした殿方の言葉を信じろと?」
「・・・あのねぇ」
正樹はさらに肩を落としながら呆れた様子で女性と距離を取る。
「こんな街から離れた森の奥で人が倒れてたら誰だって声をかけるでしょうが。 考えなしに声をかけた僕も悪かったと思うが、少なからずそちらにも非があった事は認めて頂きたい」
言いたい事は言えたのかこれ以上女性と関われば余計面倒な事になりそうだと考え、正樹は「それじゃ」と一言声をかけて森の奥へと歩き始めた。
しかし
「待ちなさい」
女性が呼び掛けると家に戻ろと歩いていた正樹は急にその場に立ち止まる。
まるで誰かに身体を乗っ取られたような感覚だ。
力を振り絞り首だけ振り向くと、女性は正樹に向けて指をさしていた。
「な・・に・・ッ!!」
女性は顔を地面に俯けたまま速足で正樹の前まで周りこみ目の前まで近づく。
未だに顔は地面に向けている為何を考えているのかイマイチ理解が追い付かない。
ただ、さっきまで自分を殺す勢いで何かを仕掛けてきた相手がこれほどまで至近距離に近づかれると何かされてしまうのではと焦りが募る。
そして、女性は顔と同時に腕を上げ正樹に指をさしこう呟いた。
「好きです」
一瞬の静寂。
しかしその一瞬が正樹には数十秒にも感じるほど長く感じた。
一体自分は何を言われ、女性は自分に何を言ったのかまるで理解ができなかった。
戸惑いながら女性の顔を見ると、女性は真っ白な肌が紅葉のように赤くしてニッコリと笑顔を向けていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハッ?」
何処からか、聞きなれた少女のおぞましく、そしてドス黒く低い声が聞こえた。
光の速度で飛んでいった由紀を追いかけ森の中を走るアンナは木に手をついて息を切らしていた。
「ハァ! ハァ! う、運動しなきゃ・・・」




