第17話 眠りの美女
「グレンさん。 もう1度先ほどのお話をお聞かせ願えますか?」
上級冒険者として5年。
ギルド職員の適正職員として転職してもうすぐ10年が経とうとしているグレンは、人生で初めて自分に子供がいれば娘と変わらない少女に正座をさせられていた。
その少女と言うのは1ヵ月前に突然現れた少女。 名をユキと言うらしい。
あまり聞きなれた名前ではないのと、夫婦?だという旦那が街娘達にモテている事もあり嫌でも顔を覚えた。
旦那といる時は歳相応の可愛らしい少女なのだが、旦那に色目を使おうとする街娘達には容赦のない鋭い眼光とオーラを解き放ち、他の冒険者達からは【女王】やら【魔王の生まれ変わり】など色々と密かに呼ばれている。
さて、そんな良くも悪くも有名となった少女に、何故大の大人が正座をさせられているかと言うと全般的にこちらの不手際が原因だった。
その原因と言うのが、今もクエストボードに大々的に張り出されている1枚のポスターが関係してある。
ポスターには毎年開催されている大都市国家【英雄の国】と呼ばれる都市の観光案内の物だ。
先日、街の周りで出現していたゴブリンの討伐クエスト。
これは各ギルド支部が設置されている街や村、そして国の周囲でも同様にゴブリンが大量に出現した事から、本部のある英雄の国から直々に発注されたクエストである。
そのクエストの報酬には普段のゴブリン討伐に対して3倍の報酬が支払われる事と、大都市国家への旅行チケットが人数分配布されるという物だった。
しかし―――
「観光チケットを送り届けてくれるはずの本部の使い魔が配送場所を間違えたらしく、チケットを渡す事ができない」
ギルドは大都市国家にある本部1つに対して、小さな村から街まで約数百件という数の支部が設置されている。
その為に本部からの連絡は緊急時以外、鳥類の使い魔が配送する事になっていた。
しかし、今回のクエストは本部から各支部へと送りこまれている為、報酬も勿論、数百とある支部へと同時に支払われる。
普段は配送ミスなのあまりないのだが、今回に限って使い魔が間違ってべつの支部ギルドへと届けてしまったとつい先ほど連絡が入った。
「別の支部に間違って配送したのなら新しいチケットを早急に再配送してもらってくださいよ」
「そ、それはできないんだ。 今回の観光チケットは本部直々の報酬だからチケットの再発行はできない」
「じゃあ間違って送ってしまった支部から直接こちらに送ってもらってください」
「それが・・向こうもまさか使い魔が間違っていると思っていなかったらしく、チケットはすでに別の冒険者に渡してしまったと・・・」
ザワッと由紀からおぞましいオーラが解き放たれるのが分かる。
周りの冒険者と職員達は関わらないようにと2人の周囲から離れて目線も合わせないように別の方向へと顔を向ける。
「それじゃあ私達が今回クエストを受けた意味がありません。 早急に別の対策を求めます」
「そ、そうだな。 ・・・報酬の追加なんてどうだ?」
「却下です」
「そうか・・じゃあ、街の店の買い物券一か月分なんて」
「却下です」
他の提案をしても何も言わせない圧を放つ由紀に、今はいない由紀の旦那に心の中で助けを求める。
どうやら今日はもう1人の少女、アンナと正樹は街に降りてきていないらしくチケットの受け取りには由紀1人だけがギルドに来ていた。
「いいですかグレンさん。 1日だけ猶予を差し上げます。 もしも期限までにその観光チケットが私の手元に届かなかったら―――」
由紀はカクンッと顔を横に傾け、黒く綺麗な長髪をユラッと垂れる。
「私、何をするか分かりませんから」
グレンはこの時、上級冒険者時代に感じた命の危険を感じ取ったと言う。
◆ ◇ ◆ ◇
由紀がギルドへ観光チケット報酬を受け取りに行った同時刻。
正樹は困惑していた。
家の家事をこなしてくれていたアンナは今日の夕飯に必要な食材が足りない事を思い出し、先ほど急いで街へと降りて行った。
本当なら由紀と一緒に街へ降りてギルドに向かう予定だった正樹だが、先日のゴブリン討伐クエストの件で街の娘達からのアプローチが強まった事もまり、由紀からしばらく街へ降りる事を無言の圧力で禁止されてしまったのだ。
まぁ、今回は前のように監禁されるような事にはならなかった為、まだマシな方である。
しかし、せっかく天気がいいのに家の中でいるのも勿体ないと感じた正樹は散歩がてらに家の周辺を歩く事にした。
そして、事件が起きる。
「・・・どうするよ・・これ」
家から少し離れた場所には浅い小川が流れており今日見たいな天気の良い日には魚もよく釣れるとアンナが教えてくれていた。
まだ実際に近づいた事もなかった為になんとなく小川に近づいてみた正樹。
そこには、綺麗な服を身に纏った美女が地面に寝そべっていた。
暑かったのか胸元を緩めた服に風でめくれたであろうスカート。
そこから見える白い肌の生足は多感な男子には刺激が強い姿をしている。
一瞬、何も見ていないふりをして家に戻ろうとも考えたが、こんな無防備な状態の女性をこんな森の中で置いて行く事も出来ない正樹は、どうする事も出来ずその場で立ち尽くしていた。
街へ到着して食材を買い込んでいるアンナ。
「ハッ!? 今なんだか面倒くさそうな気配を察知した気がします!」
 




