第13話 賢者の石
「奥様、正樹様。 申し訳ありませんが私はクエストに同行をする事ができません」
ゴブリンの討伐クエストを受理したその夜、アンナは食事を終えた後に話があると正樹達をリビングに呼んだ。
ギルドでクエストを受理した時も職員のグレンには先にクエストを受ける事ができないと話を通していたらしく、今回のクエスト受理欄にアンナの名前が書かれていなかった。
その事に由紀は初めから気付いていたようだ。
「前にもお話しましたが、私は神との闘いに敗れ魔王としての力の大半を使えません。 今の私で人間の娘と変わらない非力な身体能力なんです」
正直に言えば、まだこの世界にあまり慣れていない身としてはアンナがいてくれれば初のクエストも助かるのだが、確かに普通の女の子と変わらないとなれば争いが起きる場所に近づかせるのは危険だ。
正樹はすぐに納得して了承しようとすると隣で座って聞いていた由紀が「ダメよ」と否定した。
アンナは勿論の事、正樹も目を見開いて驚いた。
普段の由紀であれば正樹と2人きりになれる口実が出来て即答で了承しているのだが、予想とは真逆の答えである事にアンナは少し動揺しながら理由を聞く。
「理由は2つ。 1つ目は私達だけじゃまだゴブリンがいる土地を把握しきれずクエストが行き留まる事」
そして2つ目の理由で由紀はアンナに指をさす。
「2つ目はアンちゃん。 貴女は私達といなさい」
2つ目の理由に正樹は首を傾げた。
1つ目の理由に関しては正樹も同意見だった為あまり反論はない。
しかし2つ目の理由に関して危険が及ぶ場所まで戦う事が出来ないアンナを連れてまで一緒にいないといけない理由が検討もしなかった。
その疑問に気づいたのか由紀は正樹に説明する。
「正樹さんは初めてアンちゃんと出会った日の事を覚えてる?」
アンナとはこの異世界に来て1番最初に森の中でゴブリンに襲われている所で出会った。
初めは体を張って襲われそうなアンナを正樹が守ろうとしたのだが、すぐに空から由紀が登場して一瞬にして3匹のゴブリンを消してしまった。
そこで正樹は「あっ」と声が漏れた。
「つまり、ここでアンナが1人で留守番したら危険な可能性がある?」
「それもあるけど、私はもう1つ理由があるの」
「もう1つの理由?」
更に分からないという顔で正樹が首を傾げると由紀はアンナと目を合わせる。
「多分、ゴブリンはアンちゃんを狙ってる」
その言葉に正樹はゆっくりとアンナを見る。
アンナも一瞬驚いたような表情を浮かべると珍しく真面目な表情を作り替えた。
「どうして、そう思うんですか?」
「簡単な話よ。 元魔王であるにも関わらず当たり前のように同族から襲われるなんて普通じゃない。 つまり、ゴブリン達はアンちゃんが元魔王だと理解した上で襲った。 そうでしょ?」
由紀の推測を聞いて、アンナは小さく頭を縦に振った。
「でも、なんでわざわざ元とは言え魔王であるアンナをゴブリンが襲うんだ?」
忠誠心が元々なかったと言えば話はそれで終わりなのだが、この数週間一緒にアンナと暮らしてきて分かった事がある。
それはアンナは人一倍お人好しであるという事だ。
街へ向かっても困っている人がいれば声をかけ世話を焼き、正樹達のようにいきなり現れた人間も嫌な顔1つせずに家に招きいれる。
そんな彼女が魔王だったと言えば、それはもう部下に慕われていた光景が目に浮かぶ。
「それは、私の魂を狙っているんです」
アンナはか弱い声でそう呟く。
「魂?」
「はい。 私達、歴代魔王は魔族の王としての証にとある石が封印されているんです」
正樹と由紀が同時に「とある石?」と声にだしながら首を傾げると、アンナはゆっくりと目を閉じて手を胸元に添える。
すると、胸元から紅い光が輝き綺麗なダイヤのような石が出てきた。
「これは初代魔王が神を倒す為に作りだした魔石。 名を【賢者の石】と言います」




