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ヤンデレ彼女も異世界へ!  作者: 黄田 望
序章 【 異世界転移 】
11/142

第11話 女性対策


 異世界へと召喚されて早2週間が経過した。


 元の世界で命を落としてしまった僕は、女神様との契約によりこの異世界で悪さを企む魔王を討伐すれば生き返らせてくれる事を条件にこの世界にやってきた。

 しかし、この異世界へやってきて最初に出会った少女アンナは普段は人間と同じ姿をしているが、本当の正体は()魔王だった。

 本来であればアンナを倒せば僕の契約は遂行されるはずなのだが、アンナは僕が異世界へやってくる前に神様自らの手で敗北されて魔王の座を離脱。

 今はアンナの弟が玉座に就いているらしいが、もしもアンナの弟を倒したとしても再び別の魔王が現れるという。

 そうなれば、いくら僕が魔王を倒せたとしても、この異世界に魔王が現れる為、僕と女神様の契約は無限ループで終わる事がない。


 ――と言う事で、1週間の監禁生活を終えた僕は何か情報はない物かと街へ降りる事にした。

 降りる事にした・・・のだが。


 「なんですか貴女。 私の正樹さんに何か用ですか? ハッ? 私には関係ない? 関係大有りなんですけど。 私は正樹さんの妻なんですが?」

 「・・・」


 街へ降りてきたのは良いのだが、街に降りると僕がこの異世界で手に入れたスキル『ハーレム』が発動して道行く女性が僕を口説こうと近づいてくる。

 それを片っ端から喧嘩腰で睨みつけるのは、僕の腕をガッチリとホールドして離れない恋人の由紀である。 

 何故か恋人から夫婦にグレードアップしているが、今は何も言わずにソッとしておこう。


 「あ、あの・・すみません! その、は、離れてくだしゃい!!」


 顔を真っ赤にしながら僕に近づいてくる女性達を由紀同様に追い払ってくれているのはアンナだ。

 ただ、僕も困惑しているのだが、アンナもまた、何故か由紀と反対の僕の腕をガッチリとホールドしてしがみついている。

 それが恥ずかしいのかさっきから声が小さくセリフも噛み噛みなのだ。


 「なに、この状況・・。」


 この状況に至った経緯を説明するには、街へ降りてくる少し前まで遡る。


 ◇ ◆ ◇ ◆


 「なぁ。 何これ?」


 森の奥に立つ一軒の家の中。

 雲1つない晴天で過ごしやすい気候の中、僕の心は薄暗い雲が覆っていた。

 

 「何って。 決まってるじゃない。 街へ降りる準備だよ正樹君」


 キョトンとした表情で僕の疑問に答えたのは恋人の由紀だ。

 

 「いや、街へ降りる準備なのは分かるよ? 分かるんだけど・・・」


 僕は由紀が用意してくれた綺麗にハンガーに掛けてある服を横目にチラッと見る。

 1週間前、僕を監禁していた際に食材などの買い物をアンナと2人で街へ降りた時に購入した物だと言うのだが、僕はどうしても用意された服に納得がいかないのだ。

 

 「今から街へ降りて情報収集するんだよ?」

 「 ? 分かってるよ?」


 何やら台所でトントンとテンポの良いリズムで食材を刻みながら料理をしている由紀に僕は聞こえないように小さく溜息を吐いた。


 これから僕達は、とある情報を手に入れる為に街へ降りる事にした。

 ・・・いや

 本当はもっと早く街へ降りて情報を集めるはずだったのだが、最初に街へ降りた際に僕のチートが『ハーレム』だと分かった由紀に1週間の監禁生活を余儀なくされていたのだ。

 それから更に1週間は監禁はやめてもらった物の、ハーレムのスキルがまた発動する事で街の女性達が僕に寄ってたかってくる事を嫌がり 「じゃあ、街の女達を全員動けなくしてくる」 などと無表情で言い放つ由紀をなだめるのに、更に1週間が過ぎてしまった為、ようやく今日街へ降りて情報収集を実行する事となった。

 なったのだがッ!!


 「なんで僕の服が女性ものなんだよ!」


 由紀が僕に用意してくれた服。

 それは何処からどう見ても女性が着用する真っ白なワンピースだった。


 「おかしいよ! 絶対におかしいよ由紀ちゃん! なんで僕が女の子の服を着ないといけないの?!」

 「大丈夫だよ正樹君! 絶対に似合うから!」


 料理の手を止めて振り返った由紀は笑顔でウインクする。

 一瞬それが可愛いと思った自分がいたが、今はそれで誤魔化されない。

 いや、誤魔化されては僕の男としての何かが失われる気がするッ!?

 

 「いやいやいやいや。 僕着ないよ? 絶対着ないからね由紀ちゃん?」

 「え~? 絶対に似合うと思うんだけどなぁ~?」


 嫌がる僕に由紀は残念そうな肩を落として手に持つ包丁を台所に置き用意してくれたワンピースを仕舞う。

 よかった。

 これだけ早く納得してくれたという事はそれほど本気ではなかったのだろう。


 「じゃあこれは?」


 ヒョコッと服を仕舞いに別の部屋に入った由紀が顔だけを出して別の服を見せる。

 それは由紀がこの世界にやってきた時に来ていた制服だった。


 「余計に着れないよ?!」


 動揺する僕を見て由紀は小さく肩を揺らして笑う。


 「冗談だよ。 ちゃんと正樹君の服は用意してあるから!」


 そういうと由紀は再び部屋の中へと戻って行った。

 

 ・・・なんだか異世界に来てから由紀は元の世界にいた時よりも笑顔を見せてくれるようになった気がする。

 元の世界では誰にでも愛想がいいお嬢様で、他人との間に何処か壁を作っていたが、この世界ではアンナとも上手く言っているらしく、夜遅くまで2人が楽しそうに会話をしているのもよく聞こえる。


 「結構、この世界に打ち解けてるのかもな」


 元はと言えば僕が元の世界で死んでしまったせいで由紀もこの世界に僕を追いかけてきてしまったわけなのだが、あれほど楽しそうにしている由紀が見れたのだから、少しだけラッキーな気がした。

 

 「正樹様」

 「ブフォ?! ゲホっ! あ、アンナ!?」


 由紀が用意してくれたお茶を一口含んだ直前に背後から急に気配なく近づいてきていたアンナが急に声をかけてきた為、思わずお茶を吹き飛ばしてしまった。


 「ど、どうしたの? そんなコッソリと気配を消して」

 「申し訳ありません。 でもこれもすべて正樹様の為なんです」

 「僕の為?」

 

 一体何の事なのかと首を傾げると、アンナは1枚の紙を僕に手渡した。

 そこには【正樹君を女性(害虫)から守るプラン!】と真っ赤な文字で書かれたる。

 一瞬ホラー映画で壁に描かれてある恐怖映像かと思った。


 「・・・ナニコレ・・・」

 「奥様が正樹様と街へ降りると決めた時から計画していた書類です。」

 「この赤い文字は?」

 「安心してください。 ただの赤インクです」

 

 この血で書いたうような文字を見て何を安心すればいいのか。

 しかし、僕の不安はアンナが指をさした一覧を見て恐怖を感じる事になる。


 「僕の・・女の子計画?」


 他にも色々と【洗脳計画】やら【催眠計画】やらと物騒な事が書かれてあるが、どれも上書きするように線が引かれており、唯一残されていたのが【女の子計画】だった。


 「ナニコレ」

 「そのままの意味だと、思います」


 何故かチラチラと頬を赤く染めながら僕の股間の方を見るアンナに僕は羞恥心よりも恐怖心が増して椅子から立ち上がる。

 

 「え? 待ってそういう事?! そういう事なの!?!?」

 「あ、いえ、その、私もよく分からなくて、その・・・ご、ごめんなさい!!」


 アンナは立ち上がった僕に背中を向けて両手を頬に抑えながら外へ飛び出して行ってしまった。

 

 「待ってアンナッ! お願い帰ってきて!! これの真相が分かるまで置いて行かないで!!」

 「アンちゃんがどうかしたの?」

 「ヒュッ!?」


 いつの間にか僕の背後に立っていた由紀に驚き、思わず変な息の吸い方をして肩を飛び跳ねる。

 ゆっくりと振り向くと笑顔であるにも関わらず、どことなく不穏なオーラを放つ由紀と目が合う。


 「正樹君の服、用意しておいたよ?」

 「あ、ありがとう由紀ちゃん。 ・・・その、因みに用意してくれた服っていうのは?」

 「ん? う~ん、見せる前に正樹君に協力してもらいたい事があるの」

 「え? な、なに?」


 由紀を怯えながら協力してもらいたい事というのを聞くと、由紀は笑顔で包丁を取り出した。

 

 「~~~~ッッ!?」

 「 ? どうしたの?」


 またもキョトンとする由紀であったが、僕はすべてを察して部屋の端まで後ずさる。

 

 「待って由紀ちゃん。 話し合おう」

 「話し合うって・・大丈夫だよ正樹君。 すぐに終わるから」

 

 苦笑しながらも包丁を手に持って近寄ってくる由紀に僕はこれ以上後退する事の出来ない中、ジリジリと近寄ってくる由紀の包丁を持った手を握った。


 「待って由紀ちゃん! お願いだからッ!」

 「ど、どうしたの正樹君? そんなに嫌だった?」


 手を握られた事に動揺しているのか、由紀は照れくさそうに笑う。

 しかし、由紀の計画を知っている僕は計画を止めようと必死でそれどころではなかった。


 「確かに僕の何か分からないスキルのせいで君が嫌な気持ちになっているのは分かってる。 だけどこれだけは分かってほしい。 僕は由紀ちゃんだけを愛してる!」

 「・・・ふえ?」


 照れていた赤かった顔が更に真っ赤になり由紀の身体が硬直するのが分かった。

 故に、このチャンスを逃がすわけには行かない。


 「こんなスキルがあったとしても、僕は世界でただ1人、君だけを選ぶ。 君を裏切るような事は絶対にしない!」

 「あの! そのっ!」

 

 動揺で視線が泳ぎ始めた。

 これなら・・・行ける!!

 僕はここで由紀の計画を阻止するべく最後に畳みかけに出た。


 「それに僕のアレを取ってしまったら、今後の事を考えたら大事にしたいんだッ! 君と僕の未来の為にもッ!!」

 「私と・・正樹君の・・未来ッ!!」


 由紀は目を見開き、驚きと幸福に満ち溢れポロポロと涙を流す。

 

 「そっか。 君は私との事をそこまで考えてくれているんだね」

 「もちろんだッ! だから、アレを取る事だけはやめてくれないか?」

 「 ? あれって・・何?」


 こぼれた涙を拭いながら聞きなおす由紀になんと言えば良いのかと悩んでいると、思わずポケットにしまった由紀に計画が書かれた紙が床に落ちる。

 それを拾い上げて見た由紀は、すべてを察したように先ほどとは別の意味で顔を真っ赤にした。


 「ち、違うの! これはそういう意味じゃないよ!!」

 「・・・へ? 違うの?」

 「当たり前だよ! これはただ単に君を女の子の服を着せて女装させれば街の女性達も男だと気が付かずにスキルも発動しないんじゃないかと思っただけ!」

 「それじゃあ・・その包丁は?」

 「これは君の服が思った以上に(しわ)になっていたから、アイロンをかけている間に残った食材を切ってもらっておこうとお願いしただけだよ!」


 すべて自分の誤解だと認識した僕は腰が抜けたように床に座り込む。

 よかった。 

 本当に良かった!!

 17年間生きてきた中で1番危機感を感じたけど、本当に誤解でよかった!

 

 「まったく。 ・・・それに街へ降りた際に正樹君のスキル対策は別の方法をちゃんと考えているわよ」

 「へっ? 対策?」


 由紀は台所まで戻り包丁を1度置くとまた振り向きながらウインクする。


 「それはね? ――――」


 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 そうして今に当たる。

 由紀の言う対策と言うのは僕の両腕にしがみつき近づいてくる街の女性達を片っ端から追い返すというシンプルなものだった。

 ただ

 この計画にアンナ恥ずかしくて嫌がっていたようだったが、由紀のスキルである神の権限により強制的にやらされる羽目になった。

 鬼か。


 「うぅ~恥ずかしいよ~。 男の人に密着するなんて弟君以外にしたことないのに~!」

 「しっかりしてアンちゃん! 正樹君を守る為に!」

 「でも~! 奥様は良いんですか?! 私が正樹様にくっついちゃって!」

 「え? 何? アンちゃんまさか正樹君を誘惑するの?」

 

 真顔で僕越しに睨む由紀に、アンナは「ピィッ!」と怯えながらまた僕に近寄ってくる女性に噛み噛みながらも追い返す。


 「でも由紀ちゃん。 僕はいいの? アンナとくっつく形になってるけど」


 元の世界でもこの異世界でも、由紀は他の女性と会話をするだけで不穏なオーラを放つ。

 そんな由紀が仲がいいとは言えアンナが僕と密着する形になればヤンデレ属性が発動すると思っていたのだが、由紀は周りの女性達を追い返しながら、更に僕にしがみつく。


 「平気だよ。 アンちゃんはお友達だから。 ・・それに」


 周りの女性と隣にいるアンナには聞こえないように僕の耳元まで足伸ばす由紀は小さい声で呟いた。


 「私は、君の事を信頼してるからね」


 その言葉に僕は思わず顔を頬を赤く染めて由紀には見られないように顔を逸らす。

 それを見る由紀は嬉しそうに微笑むのだった。




 「まぁ、この方法を思いつかなかったら取るつもりだったけど」

 

 「え?」

 「え?」


 街の女性達を追い払いながら正樹にも聞こえない声量で何か恐ろしい事を呟いた由紀に、2人は同時に由紀を見る。


 「 ? どうかした? 2人共?」

 「・・・いえ、なにも」

 「ないです」


 何も聞こえなかった。

 そういう事にしようとアンナと正樹は記憶から消す事にした。

 最初に用意していたワンピースの服は、元々は由紀がアンナに着せるつもりで購入。


 しかし、恥ずかしがって着なかったアンナであったが、正樹に余計な事(守る計画書類の事)を言った為、神の権限で無理矢理着させて街へ出かけたらしいです。

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