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安静の意味を知らないのかと思うほどに、あれこれ動こうとする彼女をソファーへ座らせ、代わりに俺が洗濯や掃除をしている。
とはいえ、『洗濯機』や『掃除機』なるものを使えばあっという間に終わってしまうのだが。
彼女がいた世界には美味い料理だけではなく、こんな便利なものが溢れかえっているのか。
これらの機械達がどういう仕掛けになっているのか、興味は尽きない。
それにしても、この家は俺が知っているどの家屋敷よりも綺麗だと断言出来るが、彼女はきっと毎日掃除をしなければ落ち着かない人なのだろう。
ここで俺が掃除をしなければ、彼女は絶対に俺の目を盗んで掃除を始めるのが目に見えている。
俺が一通り掃除機をかけ終えると、彼女は立ち上がってキッチンへと移動したため、その後ろをついていく。
「えっと、簡単なモノを作るだけなので、座って待っていてもらえます?」
なんて、俺が言った『最低でも今日一日は大人しくじっとしていてもらう』という言葉をすっかり忘れているだろう彼女。
「遠慮はいらない。俺は何をすればいい?」
と言えば困ったように眉尻を下げて、何も言わずに冷蔵庫から食材を出していく。
調理台に並べられた様々な食材と調味料。
昨日と同じように野菜などを切るように言われ、それに従う。
今回彼女が作るのは『キムチ炒飯』と『たまごのスープ』らしい。
あっという間に作り終え、綺麗な器に美しく盛り付けられたそれらをダイニングテーブルまで運ぶ。
「「いただきます」」
昨日に引き続き、彼女と一緒にいただきますをした。
素直にいい言葉だと思う。
スプーンを手に取り、炒飯なるものを一口。
これも初めて口にしたが、少しピリピリと舌にくる辛さが何とも癖になりそうというか、もう一言で美味いとしか言えないほどに美味い。
余りの美味さにスプーンを持つ手が止められない。
無意識に何度も「美味い」と呟いていた。
食後のデザートとして、彼女が先ほど口にしていた『フルーツポンチ』なるものが出された。
見覚えのある果物を器にし、中には透明な液体と様々な果物が入っていて、これは昨日俺が帰った後に作ったものだということがバレバレである。あれだけ『安静に』と言ったにもかかわらず、だ。
ジト目で見れば、彼女はバツが悪そうにツイと視線をそらした。
とはいえ、果物の皮部分を器に使うなど聞いたことがない。こんな使い方もあるのだと驚いた。
取り分けられたフルーツポンチを口にすれば、サッパリとした甘さが口内に広がる。
果物もこんな風に使えば、また違った美味さを楽しむことができるのだなと思った。
あっという間に食べきってしまうと彼女は何だか嬉しそうに、
「全部食べちゃってもいいですよ」
そう言って果物の器ごと俺の前に差し出した。
その頃にはもう俺の中に『遠慮』という言葉は残っていなかった。礼を言って再びフルーツポンチを口にする。
ニコニコと嬉しそうにこちらを見ている彼女になぜだか少し顔が熱く感じて、誤魔化すように何度もスプーンを口に運んでいれば、気付けば器が残るだけとなっていた。
食事を終えてソファーへと席を移し、冷たい麦茶を飲みながら彼女の世界の話を聞いていると。
彼女のいた世界では獣人という存在は実在せず、お伽噺の中だけの存在だと聞いて驚いていると、彼女が突然怪しい言い回しで俺の名を呼んだ。
「ねえねえ、ロイさんや」
いきなりどうしたんだ? つい怪しいものを見る目で見てしまうが、彼女は全く気にした様子もなく続けて質問してきた。
「ロイさんて、文字の読み書き出来る?」
「騎士になるには学園(高等学校)卒業が必須だからな。だから読み書きは普通に出来るが、いきなりどうしたんだ?」
俺の言葉に彼女が勢いよく立ち上がったかと思うと、
「うぎゃあっ」
と女性らしからぬ悲鳴を上げた。
「何やってるんだ! あれだけ安静にって言っただろうがっ!」
つい怒鳴ってしまい、彼女がシュンと項垂れる。
「ごめんなさい」
「謝らなくていいから、頼むから大人しくしておいてくれ。こんなじゃ心配で一人に出来な……あ、いや。とにかく、君はここから一歩も動くな!」
怒られてビックリしたのか、彼女は頭をカクカク前後に揺らした。……これは多分、頷いているんだよな?
ていうか、何だ、さっきの台詞は。
心配で一人に出来ないとか、これじゃあまるで告白しているみたいじゃ……いやいやいや、会ったばかりの女性だぞ?
これは……そう、外の危険を知らない子猫を心配する飼い主の心情のようなものだ。放っておくと何をしでかすか分からない怖さに心配せずにはいられない、それだ。
動揺を悟られぬよう彼女の足首の状態を確かめる。
とりあえず酷くはなっていないようだ。
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翡翠




