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【電子書籍化】異世界もふもふ幼稚園(無認可)  作者: 翡翠
第一章 玄関が異世界に繋がっていました
4/53

4

「どうかしたのかい?」


 リンデルさんが心配そうにこちらを覗いてきたが、気が付けば慌てて誤魔化していた。


「いやいや、何でもないです。ちょっと勘違いしてて」

「そうかい? 何か手伝えることがあったら言っとくれね」

「大丈夫です。すぐ作りますから、リンデルさんは座っててくださいね~」


 待っている間にと、氷入りの冷たい麦茶を入れたのだが、氷に吃驚(びっくり)されました。

 ここには冷蔵庫などというものはないので、全てが常温。

 肉は買ったら直ぐに使いきる。

 魚は港町でしか食べられないとのこと。

 うちの冷蔵庫は、ただの食べ物を入れておく大きな箱程度の認識だったみたい。

 

 先ほどリンデルさんに誤魔化したのは、別にリンデルさんを信用していないわけではないのだけれど、何となく食べ物が食べても減らないことは、私の胸だけに留めておいた方が良いように思ったのだ。

 このことは後でゆっくり検証すればいいと、頭の中から一度追いやる。

 切り替えるためにフゥと一息ついて、小鍋に水を入れて火をつける。

 どうせならサラダも欲しいと、キュウリを斜め切りにして、少しずつずらして並べて千切りにする。

 ハムを半分に切り、重ねて斜めにキュウリと同じくらいの太さで切る。

 ボウルにマヨネーズと胡麻ドレッシングを混ぜ、その中にカットしたキュウリとハムを入れてよく混ぜた。

 先ほどの小鍋に絹豆腐を手で千切って入れ、乾燥ワカメも入れる。

 味噌汁の豆腐は包丁でカットするよりも、手で千切る方が私は好きなのだ。

 牛肉を広げて1/4にカットする。

 別の鍋にカットした牛肉と水と酒と砂糖を入れ、五分ほど中火で煮たら、醤油と味醂を投入。

 汁気がなくなるまで煮たら出来上がりだ。

 しぐれ煮を煮ている間に小鍋の火を止めて味噌を溶き、冷凍してあるご飯をレンジで解凍する。

 丼にご飯を盛りしぐれ煮を乗せ、お椀に味噌汁をよそい、サラダボウルにハムキュウサラダを盛ったら完成!

 お盆に乗せてそれらをテーブルへと運ぶ。


「大したものじゃありませんけど、お召し上がりください」


 お箸を用意したけれど、多分こちらの世界では使わなそうなので、スプーンやフォークも用意した。

 

「いただきます」


 両手を合わせてそう言えば、不思議そうな顔をしたリンデルさんに質問された。


「それはどういう意味なんだい?」

「『いただきます』は『もらう』という意味で使いますが、食べものを食べる前には犠牲となった食物への感謝の言葉としても使われます。『命を頂いてありがとう』といったところでしょうか」


 多分間違ってはないと思うのですが……。

 リンデルさんは、ほお~と感心したように「いただきます」と言葉にし、ニッコリ笑う。


「いい言葉だね。うちも真似することにするよ」

「はい」


 リンデルさんは迷いなくフォークを手に取り、まずサラダから食べ出した。


「この茶色っぽいソースは何だい? 初めての味だけど、美味しいねぇ」

「それはマヨネーズというソースと、胡麻ドレッシングというソースを混ぜて作ったものです。マヨネーズは卵黄と酢とレモン汁と塩とマスタードと油を混ぜたもの。胡麻ドレッシングは胡麻と砂糖と酢と油と醤油と塩と水を混ぜたものです」

「何だかよく分からないのが色々入ってるんだねぇ。私が作るのは無理そうだよ」


 材料の多さに諦めたようだ。

 とはいえ、私も大抵市販のものを使っているから、自分で作ることはあまりないのだけど。

 次に味噌汁に挑戦したリンデルさんは、これまた驚いたように。


「このスープも美味しいねぇ。初めての味だよ。これもきっと色々な材料を使って作り出した味なんだろ?」

「ええ、これは味噌汁といって、味噌という調味料を使ったスープですね。味噌は大豆という豆を煮て潰して塩と麹を混ぜて熟成させた調味料なんです。この調味料は出来上がるまでに時間も手間も掛かりますから、大体の方がお店で買いますね」

「へぇ~、リオナの世界には色々な調味料があるんだねぇ」

「そうですね。調味料が多い分色々な料理がありましたけど、私はこの味噌や醤油という調味料を使った『和食』と言われる様々な料理が好きですね」


 リンデルさんは先ほどから感心しきりといった様子でウンウン頷きながら味噌汁を啜っている。

 そしてメインのしぐれ煮丼を一口、口の中に入れて再び固まる。

 何となくそのパターンに慣れつつあった私は、何事もないようにスルーして味噌汁を啜る。

 そしてしぐれ煮丼をいただきます。

 私の作るしぐれ煮は少し甘めである。

 辛いものはあまり得意ではなく、カレーも○ーモントカレーの甘口と○くまろの中辛を2:1の割合でブレンドして作っているくらいなのだ。

 

「うん、美味し」


 甘辛い味がご飯と絡んで絶妙。

 私のしぐれ煮丼が半分くらいまで減った所で、リンデルさんが復活。


「いやぁ、あんたの世界の食べ物は本当に美味しいねぇ。私が砂糖を使った料理を食べるのなんて、旦那と結婚したお祝いの席以来だよ」


 うっすらと目に涙を浮かべて、静かにしぐれ煮丼を食べ始める。

 一口一口、よく味わって食べているようだ。

 この世界に来るまで、調味料のありがたみなんて考えたこともなかったけれど。

 食に関しては、とても恵まれた世界で生きて来たんだなぁと思う。

 その他のことは、まだまだ知らないことが多すぎて分からないけれど。


 食事が終わった後は、この国について色々と質問した。

 まず、この世界の常識から。

 続いてお金の単位や物の値段。

 みんなは普段どんなものを食べているのか。

 この世界にはお風呂やシャワー、洋式トイレなどはなく、固く絞ったタオルでこまめに体を拭き、トイレは壺のようなものに貯めて専用の場所へ持って行って捨てるらしい。

 私の部屋が、部屋で良かった……。

 お風呂もシャワーもない、ましてやトイレがそんな状態なんて、とてもじゃないけど耐えられないわ。

 部屋のまま転移してくれて、ありがとう……。

 心の底から感謝した。

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