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予定通り公園で一時間ほど遊び、家に戻っておやつを食べ、その後は紙芝居や手遊び歌をして過ごし、そしてーー。
時計の短針が五、長針が十二を指した。
「これにて体験入園は終了となります。ありがとうございました」
笑顔でそう言えば、ナギくんとリリちゃんが、
「もう終わり?」
なんて寂しげに言うものだから、胸がギュンと締め付けられて苦しい! 思わず抱きしめたくなる衝動を必死に抑えながら、二人の頭をなでなでする。
「ナギ、リリ、あまり無理を言ったらダメだよ?」
フェンさんがしゃがんで二人に目線を合わせて注意すると、ナギくんとリリちゃんはシュンとして小さく「は〜い」と返事した。
その返事を聞いてから立ち上がり、里緒菜の方を向いて、
「大変楽しかったです。ナギ達もとても楽しそうで……。こちらこそ、本当にありがとうございました」
と頭を下げた。その後ろでララさんも頭を下げる。
「喜んで頂けて嬉しいです。何か分からないことや質問などはありますか?」
「あの……本当にこの内容で一人金貨一枚なんですか?」
「ええ。一月一人金貨一枚です。ただし騎士様などの高給の方は一人金貨二枚ですが、ご兄弟のいる場合は二人目からは金貨一枚と考えています」
里緒菜の言葉にフェンさんとララさんが顔を見合わせる。きっと『どうする?』と目で語っているのだろう。
「どうされますか?」
サクッと軽く尋ねる。体験入園をして、幼稚園がどういったものかを多少なりとも理解してくれたと思うし、後は「入園します」の言葉を期待して待つのみ。
フェンさんは再度しゃがんでナギくんとリリちゃんと目線を合わせた。
「ナギとリリは、幼稚園、楽しかったかい?」
「「うん、楽しかった」」
二人共にコクコクと頷きながら破顔した。
フェンさんはそんな子ども達に優しい笑みを見せるも、すぐにフゥと小さく息を吐いて真面目な顔で問う。
「二人はどうしたい? これからお休みの日以外に毎日幼稚園に通うか、今まで通り二人でお留守番するか」
「「幼稚園がいい!」」
迷いなく答えるナギくんとリリちゃんにフェンさんは大きく頷くと、「分かった」と二人の頭を撫でてからゆっくりと立ち上がり、里緒菜の方へ向き直る。
「見ての通り、子ども達は入園を望んでいます。……もちろん私達も」
そう言ってチラリとララさんに視線を向け、微笑みを交わした後。
「これからよろしくお願いします」
と頭を下げた。
「〜〜こ、こちらこそ、よろしくお願いします!」
里緒菜も慌てて頭を下げる。
「では、来月からお世話になります。時間は今日と同じくらいの時間にこちらに連れてくればいいですか? それと幼稚園の費用はいつお渡しすればいいですか?」
「はい。今日と同じくらいの時間で大丈夫です。費用は毎月の初日にお持ち頂きます。体調不良やどこかにお出掛けするなどでお休みしたい時は、当日の朝までにご連絡くださいね」
「はい、分かりました。それでは失礼します」
玄関でお見送りし、パタンと扉が閉まると里緒菜は壁に寄り掛かり、ズルズルと廊下にへたりこんだ。
「……決まった。入園決まった。ナギくんとリリちゃんの入園決まった! あははは、バンザーイ!」
きっと大丈夫だと思いながらも、やっぱりどこか不安だった。
フェンさんの口から「これからよろしくお願いします」の言葉を聞くことが出来た時、体がフッと軽くなったように感じたのは多分緊張が解れたからだろう。
「本当に良かったぁ……」
安堵の息を吐きながらそう呟くと、里緒菜の目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
何て表現したらいいのか分からないけれど、すごくホッとしたのだ。
突然の異世界転移によってここにいる自分は、この世界の獣人達から見れば異質な存在で。
運良くリンデルさんやロイさんに出会って親切にしてもらえて、ナギくんとリリちゃんに出会って寂しい気持ちを癒してもらって、そのお陰で普通に生活出来ているけれど。
心のどこかでずっと、自分の居場所を探していた気がする。
家はここにあるけれど、ここで生活していく基盤というか、仕事を持つことで初めて居場所として定着出来たような気がしたのだ。
ここにいていいんだよって、言われた気がした。