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 ウロウロウロ……。

 落ち着きなくリビングを歩き回る里緒菜の姿は、はっきり言って怪しさ百パーセントである。

 お隣さんを体験入園に誘って、了承を得たのが二日前。

 つまり、今日がその体験入園の日なのだ。

 今朝は太陽が昇る少し前に目覚め、二度寝しようとするも全く眠れる気がせずに諦めて起きて、拭き掃除を始めて。

 昨日のうちに下ごしらえしておいたランチ用のおかずを調理し、麦茶を沸かして冷蔵庫で冷やす。

 昨日のうちにお菓子は作ってあるし、絵本もスゴロクも、文字や数字を覚えるための教材も準備した。

 とりあえず今出来ることは全てやったはず。

 いざ始めてみれば何か足りないものも出てくるかもしれないが、それらはその都度追加していけばいいだろう。

 あとはフェンさん一家が来るのを待つだけ……なのだが。

 先ほどまではソファーに腰掛けていたが、どうしても落ち着けず、立ち上がってはリビングをウロウロしているのだ。

 どれくらいの時間、そうしていたのか。扉をノックする音にドキーンと心臓が波打つ。

 里緒菜は大きな声で「は~い!」と言いながら急いで玄関へ向かった。

 扉の前で胸に手を当てて深呼吸を繰り返し、ノブに手をかける。

 ガチャリと音を立てて扉を開けると、そこにはに少し緊張した面持ちのフェンさんとララさんと、元気いっぱいな笑顔のナギくんと、少しだけ恥ずかしそうに俯くリリちゃんの姿があった。


「おはようございます」


 満面の笑みを浮かべて挨拶すれば、

 

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」


 とフェンさんとララさんがホッとしたように笑顔で挨拶を返してくれた。


「リオ姉、おはよう」

「……お、おはよう」


 元気に挨拶するナギくんと、はにかみながらも挨拶するリリちゃんの姿を、嬉しそうに目を細めてフェンさんとララさんが見ている。

 里緒菜も二人の余りの可愛さに目尻が下がっているだろう顔をしながら「中へどうぞ」とフェンさんとララさんにスリッパをすすめて、ナギくんとリリちゃんはスリッパだと歩きづらいだろうから、裸足であがってもらった。

 初めて家の中に入るナギくんとリリちゃんは、不思議そうな顔で右へ左へと視線を忙しく動かしている。

 リビングへと案内すれば、一度ここに来たことのあるご両親は落ち着いていたけれど、ナギくんとリリちゃんは先ほどとは比べものにならないくらいにキョロキョロと大きな瞳を更に大きく見開いて見ていた。


「改めまして、ここ幼稚園で担任をさせて頂きます里緒菜です。よろしくお願いします。早速ですが、幼稚園内で注意することや約束ごとの説明をさせて頂きますね。ではまずこちらについてきて来てください」


 立ち上がりキッチンへ向かう里緒菜の後を皆がついてくる。

 里緒菜はしゃがみこんでナギくんとリリちゃんに目線を合わせ、説明を始める。


「ここキッチンには、火や包丁などの危ないものがたくさんあります。怪我をしないように、ここから中へは入らないようにしてね」


 頷く二人に、


「元気に『はい』ってお返事してみようか」


 と言えば、二人とも素直に「はい」と返事をしてくれた。


「うん、いいお返事!」


 いい子いい子と両手で二人の頭を撫でると、嬉しそうに笑顔を見せる。そしてそんな二人を嬉しそうに見ているフェンさんとララさん。

 里緒菜は「よいしょ」と立ち上がると、次に和室へと向かう。


「この棚の中には絵本が入っているの。字は読めなくても絵を見るだけでも楽しめると思うわ。他にも遊び道具があるから、この部屋のものは好きに使って構わないわ。ちなみにこの部屋の床は畳だから、ゴロンと寝っ転がることも出来るのよ」


 次はトイレの説明に向かう。


「これはトイレです。こうやってトイレの前に立つとフタが勝手に開くので…………で、最後にレバーを上げれば水が流れます」


 家族四人そろって、ものすごく驚いた顔でトイレを見ている。

 リンデルさんの時もそうだったな~、なんて。

 スイッチ一つで電気がつくことや、コンロのツマミをひねれば火がつくことや、レバーを上げれば水やお湯が出ることにものすごく驚いていたけれど、一番驚いていたのがトイレだった。

 一度に全部説明しても混乱するだろうと、ウォシュレットの説明はしていない。


「使い方は分かったかな?」


 と聞けば、ナギくんとリリちゃんが元気よく「はい!」と返事する。それに笑顔で「いいお返事!」とまた頭をなでなで。


「リリちゃんとナギくんにはちょっとトイレのサイズが大きくて使いにくいだろうから、私が一緒についていくね。フェンさんとララさんも使い方は大丈夫そうですか?」


 呆然とトイレを見ていたフェンさんとララさんはハッとしたように慌てて頷いた。


「……それにしても、すごいの一言しか出てきませんね。色々とすごいことだらけですが、中でもこのトイレが一番羨ましいです!」


 ララさんが瞳をキラキラさせてトイレを見ている。

 そりゃそうだよね、壺に溜めて捨てにいかなきゃいけないとか……。家族の人数が多ければ一日に一回じゃ済まないだろうし、この世界の人達は本当に大変だと思う。

 洗面所の使い方の説明もして、リビングへと戻る。


「ざっと説明しましたが、分からなかったら気軽に聞いてくださいね。ナギくん達も、遠慮しないで何でも聞いてね」

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