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6

「うまいな」


 中でもロイさんはさきいかを大層気に入ったらしい。他のつまみに比べて減り方が異常に早い。


「それにしても、リオナの世界には随分と面白い遊びがあるんだな」


 さきいかを両手に持って話し掛けてくるロイさんに、思わず噴き出しそうになるのを我慢する。


「そうね、さっきのだるまさんがころんだみたいな道具を使わない遊びもあるけど、道具を使った遊びは数えきれないくらいあったわ。でも、この世界にはその道具がないのよね」


 それっぽく作れるものもあるけどさ。そういうのって売ったりとか出来るのかしら?

 なんて思っていると、玄関をノックする音が聞こえる。


「あれ? 誰か来た?」


 立ち上がり玄関へ向かう里緒菜の後をロイさんがついてくる。


「ロイさん? ついてこなくても、座って待っていてくれていいのに」

「きみは一人暮らしの女性なのだから、警戒しすぎるくらいに警戒しなければダメだ。だから俺もいく」


 え~、それって過保護過ぎじゃない? とは思うものの。心配してくれているのが分かっているのでありがたく受け取ることにした。

 ……決して面倒だからなんて理由ではない。

 念のためドアガードを掛けて扉を開いた。


「どちら様ですか?」


 外には里緒菜より少し年上だろう二人の男女が立っている。男性が一歩前に出て、


「隣の者です。ナギとリリがお世話になったようで……」


 そう言って二人がお礼の言葉を言いつつ頭を下げる。

 里緒菜はロイさんに軽く目配せして、


「今開けますから、ちょっとお待ちください」


 一旦扉を閉じてドアガードを急いで外し、再び扉を開ける。


「あの、ここで立ち話も何ですから、よろしかったら中にどうぞ」


 扉をいっぱいに開くと、里緒菜の後ろに立つロイさんの姿が見えたようで、ナギくんの父親が「騎士隊の……」と呟く。


「ええ、私の友人で騎士隊所属のロイさんです」


 里緒菜が紹介すると同時にロイさんが会釈し、つられるようにナギくんのご両親も会釈を返す。見知った顔の騎士の存在に安心したのか、ご両親はおずおずとしながらも玄関の中に入ってきた。


「改めまして、ナギとリリの父親のフェンと言います。隣は妻のララです」

「私はリオナと申します。さあ、中へどうぞ」


 スリッパを二人分出して、中へと案内する。

 ダイニングテーブルにはロイさんと飲食していた麦茶とお菓子があるため、ご両親にはソファーへ座ってもらった。ロイさんはダイニングテーブルに座って空気になっている。

 見たこともないような部屋の内装などに目を丸くしている二人の前に冷えた麦茶を出した。


「ありがとうございます」


 と言ってコップに手を伸ばし、その冷たさに更に目を丸くする二人。


「冷たい……?」


 冷蔵庫なんて便利なものはないこの世界で、冷えた飲み物なんて出されたらそりゃビックリするよね~、なんて思いながら困惑気味の二人にネタ晴らし。


「実は私、渡り人なんです。私の住んでいた家の扉とこの世界の家の扉が繋がってしまったらしくて」


 肩をすくめてそう言った里緒菜の頭上に耳がないことを確認し、二人は「なるほど」と納得したように頷いている。


あなた達(渡り人)の世界は、こちらの世界よりも遥かに進んだ技術を持っているようですね」

「そうですね。スイッチ一つで部屋を明るくしたり、つまみを回すだけで火がついたり、水栓レバーを上げれば水やお湯が出たり。とても便利ではありますね」


 ナギくん達のご両親は初めて目にする渡り人に興味津々といった感じで、あれこれと色々質問されつつ会話を続けていれば、フェンさんがハッとした顔をして居住まいを正す。


「すみません、話が脱線してしまいました。先ほどナギとリリからお昼ご飯をご馳走になったことと、一緒に遊んでもらった話を聞きまして。ありがとうございました。あの子達があんなに楽しそうに話すのを、久しぶりに目にしました。本当に、何とお礼を言ったらいいか……」

「いえ、そこまでお礼を言って頂けるほどのことはしていませんので……。それに、私の方こそお礼を言いたいくらいです。いきなり知らない世界に放り出されて、少なからず不安な気持ちがあって。でもそんな不安も、ナギくんとリリちゃんが癒してくれました。今日は私もとっても楽しかったんです。こちらこそ、ありがとうございました」

「いえいえ、それこそお礼を言われるほどのことは」

「いえいえ、私の方こそ」


 フェンさんと里緒菜のそんなやり取りに、ララさんが耐えられないとばかりにクスクスと笑い、つられてフェンさんと里緒菜も笑い出す。

 ひとしきり笑って落ち着くと、ララさんがポツリと話し出した。


「ナギとリリが、少しでもリオナさんの癒しになって良かったわ。あの子達もとっても楽しかったみたいで、新しい遊びを教えてもらったんだって一生懸命に説明してくれるんですけど、イマイチ理解出来なかった私達に何度でも説明しようとして。うふふ。……大人しいリリまで一緒になってはしゃいでいる姿に、こう、上手く言えないんですけど、驚いたのと同時に嬉しかったんです。ナギは自分がリリを守らなきゃって思ってか、気が付けば全く甘えない子になっていて、いつからかリリはナギの後ろに隠れてしまうようになって。あの子達の子どもらしい姿を見ることが出来たのは、リオナさんのお陰です。だから、本当にありがとうございました」

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