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夢中でケンケンパをする子ども達のバラエティーに富んだ耳と揺れる尻尾に、思わず手がワキワキしてしまいそうになるのを堪えるのが辛い……。
しばらくの間夢中になってケンケンパをしていた子ども達だったが、次第に飽きてきたようで。
「ね〜ね〜、他の遊びはないの?」
と聞かれた里緒菜が次に選んだ遊びは、『だるまさんがころんだ』だった。
この遊びは誰でも必ず一度は遊んだことがある遊びだと思う。
名前は異なるが、日本だけでなく世界中の色々な国で遊ばれている。
ただ、異世界には里緒菜が知っているような遊びの文化はないらしい。
走り回ったり、落ちている枝などで地面に落書きをするなどして遊んでいるのだとか。
それならどんな遊びでも楽しんでくれそうだな、と思う。
「じゃあ、これから遊び方の説明をするね。『だるまさんがころんだ』は、まず鬼役を一人決めるの。それ以外の人は離れた所まで下がって、鬼が『初めの一歩』と言ったらこの遊びのスタートよ。鬼は後ろを向いて『だるまさんがころんだ』を大きな声で唱えるんだけど、唱え終わるまで鬼は振り向いてはダメね。鬼以外の人は、鬼が『だるまさんがころんだ』を唱えている間だけ動けるわ。鬼が唱え終わって振り向いた時に少しでも動いていたら、アウト。捕虜として鬼に捕まるから、鬼の横で大人しく待って見ていてね。でも鬼以外の人がどんどん鬼に近付いて、鬼にタッチしたら捕虜は逃げられるわ。鬼以外の人が全員捕虜になったら、一番最初に捕虜になった人が今度は鬼になるのよ。どう? 分かったかなぁ?」
「う〜んと、多分?」
何となく分かったらしい子ども達。
まあ、子どもは順応性が高いので、何度か遊ぶうちに分かるようになるだろう。
「じゃあ、とりあえず遊んでみようか」
里緒菜がそう言えば、子ども達は皆楽しそうに「うん」と頷いた。
「じゃあまず最初に私が鬼になるから、皆はこの線から向こう側に立ってね」
里緒菜は落ちていた枝を拾うと、ランチの木陰に選んだ大きな木から少し離れた場所にラインを引いていく。
「私が向こうで『はじめの一歩』と言ったら、こんな感じで一歩前に出るの。それで私が『だるまさんがころんだ』と言っている間に……」
「鬼に近付くんだろ?」
「そう、正解! 『だるまさんがころんだ』を言い終わったら……」
「「「動かない!」」」
「大正解〜!!」
子ども達が皆、『どうだ』とばかりに胸を張っている。
里緒菜はそれを見て満足気に頷きながら大きな木に向かって歩いていく。そして、
「初めのい〜っぽ!」
と大きな声で言うと、子ども達は緊張したように一歩を踏み出した。
子ども達がある程度慣れるまでは、ゆっくりと唱えていくとしよう。
「だ〜るまさんが〜こ〜ろん、だっ」
ガバッと大袈裟な感じに振り向いて見れば、子ども達はなぜか不自然な動きで止まっている。
里緒菜は苦笑を浮かべながら子ども達に背中を向けると、再度ゆっくりと唱えていく。
「だ〜るまさんが〜こ〜ろん、だっ」
勢いよく動いてしまったのだろう。急に止まれずにバランスを崩した子どもを里緒菜は指差した。
「お、動いたねぇ。初めての捕虜さん、こっちにいらっしゃ〜い」
手招きすると、子どもは悔しそうな顔をしながらトボトボと歩いてくる。
子どもが里緒菜の横に来ると、頭をワシャワシャと撫で回す。
「まだ最初で勝手が分からないからね。ここで皆がどういう風に動いているのか、よ〜く観察しててごらん。上手に動いている子を参考に動けば、次はきっと上手に動けるようになっているはずだよ?」
キョトンとした顔をした後に、素直に「うん」と言って皆の方をジッと見つめる姿に再度ワシャワシャと撫で回し、遊びを再開する。
「だ〜るまさんが〜……」
「リオナ?」
名前を呼ばれた気がして振り向けば、公園の入口に驚いたような顔をしたロイさんが立っていた。
「あ、ロイさん!」
七日ぶりのロイさんだが、相変わらずのイケメンぶりに騎士服がとっても似合っていて、眼福眼福。ご馳走様です。
心の中でお礼を言いつつ笑顔で手を振れば、困惑気味にこちらに歩いてくる。
「これは一体、何をしていたんだ?」
「ん? みんなで『だるまさんがころんだ』で遊んでいたのよ」
子ども達に向かって笑顔で「ね〜」と言えば、皆嬉しそうにウンウンと頷いてくれる。
「ダルマサンガゴ?」
聞いたこともない遊びの名前に首を傾げるロイさんの周りに子ども達が集まり、
「違うよ、『だるまさんがころんだ』だよ」
とドヤ顔で教えている。
子どもって、相手が知らないことを自分が知っていると、こうして自慢気に教えようとするよね。
きっと今日の夜は、ご両親にこんな風に嬉々として教えてあげるんだろうな〜なんて想像して。
可愛らしいなぁ、うふふ。




