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何回かに別けて焼き上げたクッキーを少し冷ましてから可愛らしくラッピングをして、隣のリンデルさんのお家に渡しに行こうと扉を開けてギョッとする。
家の前にバラエティーに富んだ可愛らしい獣耳と尻尾を持った子どもたちがわらわらと居たのだ。
「え? 何なに?」
驚いていると、その中の一人の男の子が、
「お姉ちゃんの家から甘い匂いがする~」
と言ってきた。クッキーの匂いだろう。
結構な量を作ったので、まだまだ部屋の中には大量にある。
「ちょっと待っててくれる?」
と言えば、ニッコリと笑顔で「うん!」と良いお返事。
めっちゃ可愛ええ!!
いそいそと部屋へと戻り、クッキングペーパーにクッキーを包んだものを幾つも作り、再度扉を開ければ。
「増えてる……」
明らかに先ほどよりも子ともたちの数が増えている。
とりあえず包んだクッキーを子どもたちに配っていく。
みんな嬉しそうな顔をして、
「お姉ちゃん、ありがとう」
と言ってくれる。本当にめっちゃ可愛ええ!
今いる子どもたちにギリギリで足りたようでホッと一息つく。
その中の一人が包みを開いて中のクッキーを指でつまみ、匂いを嗅いでパクっと食べた瞬間。
「うめぇぇぇぇええ!」
近所中に響き渡るような大声で叫んだ。
包みを渡された子どもたちはゴクッと唾を飲み込んで、包みを開いてクッキーを可愛い口に運んでいく。
「美味しい!」
「甘い」
「こんなに美味しいお菓子、初めて食べた!」
みんな大喜びで、顔には笑顔が浮かんでいる。
子どもたちが大量に集まって騒いでいるのを見て、大人も何事かと集まって来たようだ。
その中にリンデルさんがおり、声を掛けられた。
「リオナ、こんなに子どもを集めて何してるんだい?」
呆れたような顔で子どもたちを避けながらこちらに来るけれど、別に私が集めたわけじゃないんだけどなぁ。
「リンデルさん、ちょっと待っててもらえますか?」
「ん? ああ」
ちょっとだけ待っててもらって、先ほどリンデルさんに渡そうとしていたラッピング済みのクッキーを持ってくる。
「色々教えて頂いたお礼にクッキー焼いたんです。何だかその匂いにつられて集まって来ちゃったみたいで」
「それで子どもたちに配ったってのかい?」
「ええ。沢山焼いて余っていたので」
そんな話をしていれば、子どもたちが目をキラキラさせている。
「このお菓子、めちゃくちゃ美味しいんだよ!」
リンデルさんに、いかにそのクッキーが美味しいかを説明している。
「それじゃあ、私も一つ頂こうかね」
リンデルさんがラッピングを解き、クッキーを一つ口の中に放り込んだ。
サクサクと味わってから、なぜだか微妙な顔をして質問された。
「リオナ。この甘いのは、もしかして砂糖じゃないのかい?」
「ええ、砂糖ですよ」
「何だってぇ!?」
リンデルさんがクワッと私の方へと向き直り、ラッピングのクッキーを持っていない方の手で肩をガシッと掴む。
「あんたっ! 砂糖なんて高価なもんをお菓子に使ったのかい!?」
「え、ええ。使いましたけど、こちらの世界では砂糖は高価なものなんですか?」
「砂糖や胡椒なんかの調味料は、あたしら庶民の手にはなかなか入らない高級品さね。あんたの世界では違うのかい?」
「ええ、普通に皆さん使ってましたけど……」
リンデルさんと話をしているとそろそろお昼の時間になり、子どもたちは口々にお礼を言うと帰って行った。
とりあえず色々と聞きたいことがあったので、リンデルさんをお昼ご飯に誘ってみた。
「いいのかい?」
「ええ、どうぞどうぞ」
玄関でスリッパに履き替え、廊下を歩きながら後ろを見ると、リンデルさんが玄関で身動きせずに固まっている。
「リンデルさん?」
声を掛けるとハッとしたように慌てだした。
「こここ、この部屋は一体……」
「独り暮らしには広すぎるんですけど、両親が遺してくれた家なので……」
「ご両親は亡くなったのかい? 悪いこと聞いちまったね」
「いいえ、気にしないでくださいね。こちらにどうぞ」
リンデルさんをリビングへと誘導する。
彼女は物珍しそうに、感心したようにあちこちを見ている。
この世界には電気がないようで、主に電化製品に興味津々のようだ。
それからは大変だった。
蛇口を捻って水を出せば驚かれ、電子レンジを使えば驚かれ、コンロに火をつければ驚かれ。
水は裏にある井戸から汲んで使っているそうで、コンロは火打石? でつけているそうだ。
当たり前だが、ツマミで火力の調整なんて出来ないとのこと。
見ていないので分からないけど、多分かまどに近いんではないかと思う。
あまりリンデルさんを待たせるのもどうかと思い、時間の掛からないものをチャチャッと作ってしまおう。
まず豆腐とワカメの味噌汁と、昨日の牛肉が余っているので、それを使って贅沢にしぐれ煮を作ってしまおう。
冷蔵庫を開け、チルド室から牛肉を取り出したのだが。
「え? 何で?」
昨日のすき焼きで半分ほど使った牛肉だったが、なぜか使ったはずの牛肉がある。
購入した時の状態の牛肉と言えばいいのか。
ハッとして見てみれば、昨日使ったはずの焼き豆腐も、白滝も入っている。
野菜室を開けてみれば、白菜と葱が入っている。
「うそぉ……」