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「これも美味しい……」
玉子焼きをモグモグした後、小さな声でそう言ってニッコリ笑顔を向けたリリちゃんの可愛さにズキュンされて、もう瀕死状態な私。
「リリちゃんもナギくんも、遠慮せずにいっぱい食べてね」
もう何回目かも分からない『いっぱい食べて』のセリフだけど、二人とも嬉しそうに「「うん!」」と言って頷く姿に癒されながら、自分もお弁当に箸を伸ばす。
やっぱり一人で食べるご飯より誰かと一緒に食べるご飯だよね。
それがこんなに可愛いもふもふちゃん達となら、尚良し!
紙コップに水筒から冷えた麦茶を入れて、まずはナギくんに渡す。
「このコップは紙で出来てるの。力いっぱい持つと潰れちゃうから、零さないように気を付けてね」
そう言えばナギくんはまたまた驚いたように目を丸くして、恐る恐るそれを受け取った。
「紙のコップなんて、初めて見たぁ。……紙なのに、思ったより固いね?」
不思議そうに持ち上げたりして、色々な角度から見ている。
「ほらほら、零れちゃうから見るのはそれを飲んじゃってからにしようね」
初めて目にするものを観察する姿って、どの世界も同じなんだなぁなんて、思わずクスリと笑ってしまう。
「はい、リリちゃんも零さないように気を付けてね」
「ありがとう」
紙コップの麦茶を受け取ったリリちゃんも、控えめに観察している。
本当にこの兄妹は最強に可愛いなぁ。
いっぱい食べて、飲んで、ナギくんとリリちゃんは満足したらしい。
「リオ姉、ありがとう」
「……ありがとう」
と言ってくれた。
「リオ姉?」
聞きなれない呼び方に首を傾げれば、
「リオナって名前のお姉さんだから、リオ姉。……ダメ?」
なんて言われて、これをお断り出来る人がいますか?
いないでしょ!?
「ダメじゃないよ! それじゃ、今日から私のことはリオ姉って呼んでね」
リオ姉……。素敵な響き(ウットリ)。
本当に、これは何のご褒美ですか? ってくらいに癒されまくっているなぁ。
空になったお弁当箱をしまったら、少しだけ寂しそうな顔をしたリリちゃんが、「もう帰る?」なんてワンピースの裾をクイクイって引っ張って言うものだから。
思わず、
「よし、遊ぼう!」
って言っちゃったのよね。
遊ぶって言っても、ここには遊具なんてものは何もない。
とりあえず落ちている枝を拾って、地面に丸を描いていく。
「リオ姉、何してるの?」
ナギくんとリリちゃんが不思議そうな顔で聞いてくるので、
「これはね、ケンケンパって言うんだよ」
と教えてあげる。
百聞は一見にしかずってことで、実践してみせた。
「ケンパ、ケンパ、ケンケンパ」
何もないところでの少人数の遊びっていったら、ケンケンパしか思い浮かばなかったんだよね。
もう少し人数がいれば、『鬼ごっこ』とか『だるまさんがころんだ』とか『おしくらまんじゅう』なんかが出来るんだけどな〜、なんて。
いい歳した大人がケンケンパって、少しばかり恥ずかしく感じてアレコレ考えていれば、ナギくんが後ろから付いて私の真似をするようにケンケンパを始めた。
「これでいいのかな?」
恐る恐るといった感じだけど、
「うん、上手上手〜!」
大袈裟なくらいに褒めたらエヘヘッて恥ずかしそうに笑いながら、また最初の位置に戻ってケンケンパを始める。
大人しく見ていたリリちゃんも、うずうずし始めて。
ナギくんが何回目かのケンケンパを始めたところで、続くようにして恐る恐るケンケンパを始めた。
いやぁぁぁぁああん、めっちゃ可愛いぃぃぃぃいい!!
「リリちゃんも上手〜!」
思わず拍手しながら見ていれば、二人揃って楽しそうにケンケンパを続けている。
大分慣れてきたみたいなので、少〜しだけ難易度を上げてしまおう。
私はニヤリと口の端を上げると、先ほど描いたケンケンパの丸の先に、少し小さな丸と少し離れた位置の丸を付け足していく。
「リオ姉、何してるの?」
「ん? これはね、少ぉしだけ難易度をあげてるんだよ〜」
ご機嫌に答える私。
「ちょ〜っとだけ難しくなっちゃうけど、出来るかなぁ〜?」
なんて、ちょっと意地悪な言い方だけど、子どもってこういう言い方されるとムキになって張り切っちゃったりするんだよね。
思った通りにナギくんが少し頬を膨らましつつ、
「これくらい簡単に出来る!」
って、少し難易度の上がったケンケンパを始める。
そして最後の小さい丸に足をついて。
「ほら、出来たよ!」
ナギくんのドヤ顔頂きました!
「ナギくん凄いね〜。難しくしたのに、簡単にクリアされちゃったよ。悔しいなぁ」
なんて、全く悔しくないけどね。
そう言うとナギくんは嬉しそうに破顔した。
そんな感じでゆる〜く遊んでいれば、お昼ご飯を食べ終えたらしい子ども達が公園に戻ってきたようだ。
「ね〜ね〜。それ、何してるの?」
と聞かれ、ナギくんが自慢気に「これはケンケンパって言うんだよ」と説明を始める姿が可愛くて、思わず孫を見守るお婆さんのように眺める私。