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「ロイさんはロイ・モルビスさんてお名前なのね」
「ああ、第二騎士団で副隊長をしている」
おっとぉ、まさかの副隊長さんでした。
「若いのに副隊長さんてことは、ロイさんとっても強いのね」
ほんと、この若さで役職つきとか、いわゆるエリートってやつですな。
それにイケメンとくれば、ロイさんめちゃくちゃモテるんだろうなぁ。
なんて見ていれば、ロイさんは恥ずかしそうに視線を反らせて「いや、そんなことは……」と頬をかいている。
そんな漫画みたいな仕草が許されるのは、イケメンだからですね、うん。
耳が若干赤くなっている姿も可愛いですな。
まぁ、大の男が可愛いなんて言われても喜ばないだろうけど。
いやぁ、良いものを見せてもらいましたよ。ごちそうさまです。
そんなニヤニヤした私を、眉間にシワを寄せて訝しげに見るロイさん。
コホンと一つ咳払いをして、話題を変えてみた。
「ロイさんて、もしかしてお貴族様なの?」
お隣のリンデルさんも、ナギくんもリリちゃんも家名を名乗ってなかった。
だから平民は家名がなくて、あるのは爵位を持つ貴族なんじゃないかなって思ったんだけど。
「ああ、一応な。モルビス男爵家の次男だ」
当たりだったらしい。
「リオナ嬢は……」
「リオナでいいよ。嬢はいらない」
「リオナも家名があるということは、貴族だったのでは?」
「ああ、違う違う。私がいたところは平民とか貴族とかなくて、誰でも家名があるの。まぁ、昔は身分差があったみたいだけど、今はそういったのは廃止されてるわ」
皇室なんかの説明は面倒だから、はしょってもいいよね。
「身分差がない?」
「うん。百数十年前まではあったみたいだけどね。まぁ、身分差はないけど貧富の差はあるよ」
「……なかなか想像が出来ないが、身分差はなくなっても貧富の差は残るのだな。だが貴族がいないのなら、政治はどうしているんだ?」
「そうねぇ。まず、各地域から数人ずつ『代表者』を選んで、その代表者たちが国に纏わる重要なことを決めていくんだけど、その代表者たちの中から更に代表を一人選んで、その人が国の代表となるのよ」
「ほう、興味深いな」
「そう? 本当に国や国民のためを思って働いている人が何割いるのかしらって感じだけどね」
「……そうか。ところでリオナ自身はどんな仕事をしていたんだ?」
楽しそうに見えなかっただろう政治家の話に、ロイさんは多分気を使ったのだろう。
ちょっと強引に話題を変えてきた。
「私は企画部……て言っても分からないか。補佐的な仕事をしてたの」
企画部の事務というか、雑用というか。
補佐でも間違いはないはず。大まか過ぎるにもほどがある言い方だけど、説明が面倒くさいんだもの。
って、こういうところがダメだって、いつも明美に言われてきたんだけどね。
「リオナはその、これから仕事はどうするつもりでいるんだ?」
「それなんだよね~。出来れば、『幼稚園』を開きたいと思うんだけどね」
「幼稚園? 何だ、それは。聞いたことのない仕事だが」
「一言で言ってしまえば、両親が働いている間に小さな子どもを預かって面倒みる所よ?」