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「こんなに書いてもインクが切れないとは……いったいどうなっているんだ?」
ロイさんは今にもボールペンを分解しそうな勢いで凝視している。
「逆にこの世界ではどうやって文字を書いているの?」
「ん~? 普通にペン先をインク壺につけて書いているぞ。字が掠れてきたら再度インク壺につけて、それの繰り返しだが」
一応キチンと答えてはくれるが、視線はボールペンから離れることはない。
ロイさんが言っているのは、羽根ペン的なやつだろうか?
羽根ペンは使ったことはないけれど、インクを足すイメージだと習字を書く時みたいな感じかな?
そういえば昔、墨をつけすぎて紙に穴があいて、先生に怒られたことがあったっけ。
「ちょっと貸して」
ロイさんからボールペンを取り上げると「ああ~」と言いたげな視線をボールペンに向けており、そんな切な気な視線を向けるのが美女とか庇護欲をそそる美少女なんかではない所がロイさんらしいというか、何とも残念というか。
とりあえずボールペンの上下を回し、中の芯を取り出す。
「これがインクね。この黒いのがなくなるまでは文字が書けるの」
取り出した芯を掌に乗せ、ズイッと見せつけるようにロイさんの目の前に差し出した。
穴があきそうなほどにガン見しているロイさんに、ちょっとしたイタズラ心が顔を覗かせて、思わずゆっくり左右に掌を動かしてみる。
右に動かせばロイさんも右に、左に動かせばロイさんも左に。
何だか光を追いかけるペンギンみたいだなぁ、と。
思わずクスクスと笑ってしまい、正気にかえったロイさんに睨まれてしまった。
ばつが悪くなって慌ててボールペンの芯を元に戻し、ロイさんに押し付ける。
「そう言うわけで、ここに何か文字を書いて」
どういうわけだよって自分自身に心の中で激しいツッコミを入れながらも、トントンと指で紙を指す。
「何かと言われてもなぁ」
ブツブツ言いながらもサラサラと何かを書き出したロイさん。
「これでいいか?」
書き上げた紙とボールペンを「ほら」と言いたげな顔付きで渡される。
視線を文字へと向ければ。
そこには『ロイ・モルビス』と『だいにきしだん』と書かれていた。
……どう見ても平仮名とカタカナだよね?
「ロイ・モルビス、第二騎士団……で合ってる?」
「ああ、読めるのか?」
「多分だけど、読めるし書けると思う」
先ほどロイさんが書いた名前と所属の下に、平仮名のあ~んまでと、カタカナのア~ンまでを書いて、見せる。
「これで合ってるよね?」
「ああ、合っているな」
「同じだわ。これが平仮名、これがカタカナ。私がいた世界にはもう一つ、漢字もあったけど」
「かんじ?」
「ええ。例えば、ロイさんが書いた『だいにきしだん』は『第二騎士団』と書くの。これが漢字ね」
「随分とまた複雑な文字だな」
「そうね、もっと画数の多い漢字もたくさんあったけど、慣れてしまえば漢字があった方が読みやすいわね」
「そうか」
会話が止まってしまった。
そんなことより、この世界の文字が読めるし書けるということは、書籍などから色々な情報を収集出来るということだ。
まぁ、平仮名とカタカナだけというのは若干読みにくそうではあるけれど。
それでも、読み書き出来るのは有り難い。
「君は……ええと」
「ん? 何です?」
「いや、済まん。今更ながら君の名前を聞いていなかったなと思ってな」
「あれ? 言ってませんでしたっけ? ごめんなさい。改めまして、リオナ・サワタリです」
いやいや、何やってるんだ、私。
あれだけお世話になっておきながら、自己紹介もまだとか。
大いに反省、である。