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【電子書籍化】異世界もふもふ幼稚園(無認可)  作者: 翡翠
第一章 玄関が異世界に繋がっていました
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2

 異世界二日目。

 カーテンの隙間から入り込む日差しは明るく、今日も良い天気のようだ。

 一応の確認に玄関のドアスコープから外を見てみたが、やはりそこは異世界のままだった。

 顔を洗って軽く歯磨きをして、パジャマから楽な部屋着へと着替える。

 朝食はあまり作る時間をかけたくないので、トーストに目玉焼きとソーセージか、ピザトーストか、フレンチトーストのどれかになってしまう。

 まあ、どれも好きで飽きないから良いのだ。


「今日はピザトーストの気分かな」


 冷蔵庫からケチャップとミックスチーズとベーコンとピーマンを取り出す。

 ベーコンを一センチ幅くらいに切って、ピーマンを細切りに、玉ねぎを薄切りにする。

 食パンにマヨネーズを塗り、その上にケチャップを塗る。

 玉ねぎの薄切りを乗せ、ピーマンの細切りを乗せ、ベーコンを乗せる。

 チーズをたっぷりと乗せたらば、トースターでこんがり焼いて出来上がり。


「いただきます」


 うん、美味しい。

 あっという間にペロリといただきました。

 食後のコーヒー、ではなく常に冷蔵庫で冷やしてある麦茶。

 コーヒーは苦くて飲めないのだ。

 出された場合はそこにあるミルクと砂糖を総動員して、もはやコーヒーとは別もの? と呼べるような飲みものにして飲む。

 せっかく出して頂いたのに、口をつけないのは何となく悪い気がして頑張って飲んでしまうのだ。

 フゥと一息ついて、今日の予定について考える。

 今日は外の情報をもう少しだけ集めてみようと思う。

 家の中は安全かもしれないけど、いつまでも籠っているわけにはいかない。

 食材や消耗品をどこかで買って来ないとならないし、そもそもこの世界の通貨は私が持っているものとは違うだろう。

 どんな世界にも通貨はあるはず。

 買い物をするにはお金がないといけないけれど、じゃあそのお金はどうするの? ってことなのよね。

 働くにしても、どんな仕事があるかも分からないし。

 何をするにもまずは情報収集だ。

 とりあえず、この世界の人たちが着ている服装をドアスコープから覗いてチェックしてみる。

 私が着ているものと余りにも違ったりしたら、悪目立ちしてしまう。

 それは悪手でしかないだろう。

 ……先ほどから見た限りは、女性はスカートのみ? で、パンツスタイルの人は一人も見ていない。何とも地味な服装と色ばかり。

 地味なワンピースでも着てれば目立たないかな?

 クローゼットを漁って、グレーのノースリーブな地味ワンピースと白のカーディガンの組み合わせに決めて、早速着替える。

 軽くメイクをし、髪はハーフアップにして、準備OK。

 少しだけ緊張しながら、異世界へと繋がる扉に手をかけた。

 扉を開けて外へ出る。異世界への第一歩だ。

 きちんと施錠して、家の外観を観察する。

 街の風景に溶け込むように、白い壁にオレンジの屋根だ。

 これ、目印ないと分からなくなりそうじゃない?

 家の前でウンウン唸っていると、恐る恐るという感じで声を掛けられた。


「ねえ、あんた。あんたは『渡り人』かい?」

 

 振り返ると、そこにいたのは濃い顔をしたエプロン姿の『THE オカン』て感じのおばちゃんだった。


「渡り人? って、何ですか?」

「ん? 渡り人ってのは、この世界とは違う世界から渡ってきた人のことさね。耳と尻尾がないのが特徴さ」


 そう言うおばちゃんの頭には耳が、お尻にはふさふさの尻尾がついている。


「多分、そうだと思います」

「やっぱりそうかい。いやぁ、話に聞いたことはあったけど、実物を目にしたのは初めてだよ。あたしゃリンデルって隣に住んでる(モン)だ。よろしく」

「お隣さんでしたか。私は佐渡(さわたり) 里緒菜(りおな)です。よろしくお願いします。それで、早速リンデルさんにお伺いしたいのですが……」

「何だい? 何でも聞いとくれ」

「あの、同じような建物ばかりで、皆さんどうやって見分けてるんでしょう?」


 リンデルさんはキョトンとした顔をした後、とても楽しそうに笑い出した。


「あはは、そりゃそうだね。初めて見た人には見分けがつかないだろうさ。ちょっとついてきてごらん」


 リンデルさんについて扉を背にして右側に進んでいく。

 五十メートルほど進むと交差点になっていて、その四つ隅には真っ赤な花が植えられている。


「すべての交差点には花が植えられているんだ。交差点によって種類や色が違う。そこから何軒めって数えてるのさ。ちなみにこの交差点からうちは十軒目、リオナの家は十一軒目さ」


 え~っと、数えるのが(すこぶ)る面倒臭いので、目印とか付けたらダメなのかなぁ?


「何か目印とかは……」

「そんなんしたら、自分の家はここですって皆にアピールしているようなもんじゃないか。特に若い女の子の独り暮らしは危ないんだよ」

「そうなんですね。気を付けます」


 面倒臭いとか言ってる場合じゃなかった。

 ここは元の世界よりも治安が悪そう。

 

「あの、リンデルさんは買い物とかはどこでされてるんですか?」

「買い物はこの先をずっと真っ直ぐ行って、黄色い拳大の大きな花が咲いてる交差点を右に曲がった先にある市場が安くて新鮮だよ」


 リンデルさんに色々と教えてもらって、最後に最も気になっていたことを聞いてみた。


「あの、渡り人が元の世界へ帰る方法とかって、ご存知ではないですかね?」


 リンデルさんは少しだけ困ったような顔をした。


「そういった話は聞いたことないねぇ。力になれなくて悪いね」

「いえいえ、色々と教えて頂いて助かりました。ありがとうございました」


 お礼を言って、鍵を開けて家の中に入り、一つ大きく息を吐き出した。

 知らない場所って、とても緊張する。

 家に入って、ようやく肩の力が抜けたような感じだ。


「色々教えてもらえて良かった。お礼にクッキーでも焼こうかな」


 実は料理やお菓子作りが趣味な里緒菜。

 休みの日にはよく気分転換にと、手の込んだ料理やお菓子を作っていた。

 今日の情報収集は終えたとばかりに、手を洗い早速クッキー作りに取りかかる。

 小麦粉はこの前大量に買い置きしたばかりだ。

 お菓子は分量を量るのが大切。

 量ったものをボウルに入れて、コネコネ。

 バターはお菓子作りのために、いつも冷蔵庫の中に大量に入っている。

 今回は色々な種類のクッキーを作っちゃおう。

 ふつうの生地とココアの生地で作る定番市松模様のアイスボックスクッキーと、チョコチップクッキーと、ナッツを乗せたクッキーと、絞りだしクッキー。

 味もだけど、見た目も大事。

 余熱したオーブンの天板にクッキーたちを乗せて、焼くこと十五分。


「うん、きれいに出来た」

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