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……見られている。
ロイさんの方を見なくても、彼が私を穴があくほどに、ガン見しているのが分かる。
突き刺さるような視線を、ひしひしと肌に感じるのだ。
まったく、やりにくいことこの上ない。
予定としては最初にフルーツポンチを作って、冷やしている間に晩御飯を作り、今夜のデザートにしようと思っていたのだ。
さすがに晩御飯のお手伝いしてもらって、そのまま『はい、さようなら』とは言えないから『ご一緒にどうぞ』ってことになるんだろうけれど。
心配してくれているのは、正直とってもありがたいし、嬉しいのだ。
私には心配してくれる両親も、もういないから。
でも嬉しい反面、彼がいると自由に動けないのがツラい。
『そんなに動いたら治るものも治らない』とか『何のために俺がここにいると思っているんだ』とか、もっと手伝わせろとプッシュが強い。
私はどちらかといえば一人で作業する方が好きだし、その方が自分のペースで進められるから楽なのだ。
何というか、人を使うのが苦手だったりする。
本当に『その気持ちだけで』とお断り出来たのなら、どんなに良かったか。
でも無理そうなので、色々と考えた結果。
なるべく早くお帰り頂くには、フルーツポンチは後回しにして、サッサと晩御飯を作って食べてしまえばいいという結論に至る。
フルーツポンチは彼が帰ってからゆっくりと作って冷やし、明日のデザートにしてしまえばOK。
ということで、フルーツたちは一旦冷蔵庫に入れておく。
彼がフルーツたちの存在を忘れてくれますように。
さて、晩御飯は何にしよう?
う~ん、と唸りながら冷蔵庫の中身をチェック。
鳥もも肉があるから照り焼きにして、ひじきとミックスビーンズのサラダと野菜スープでいいか。
まず鶏肉の下処理をして、薄力粉をはたく。
砂糖・醤油・酒・味醂・すりおろし生姜・すりおろしニンニクを混ぜておく。
フライパンで鶏肉を皮目から焼いて、両面焼けたら合わせ調味料を入れて、汁気がなくなり照りが出てきたら出来上がり。
サラダは水で戻したひじきを絞り、ミックスビーンズもザルにあけて水気を切る。
ボウルにひじきとミックスビーンズとツナと塩コショウ、めんつゆとマヨネーズを入れてよく混ぜる。
スープは鍋に水を入れ火にかけ、玉ねぎとキャベツとニンジンとピーマンとえのきとベーコンを1センチ角にカットし、沸騰したらカットしたものを全て鍋に入れて十~二十分ほどコトコトと煮る。
塩コショウと鶏ガラスープで味付けして出来上がり。
ロイさんにはスープの具材のカットをお願いした。
騎士は遠征で野営することが多く、簡単な調理なら出来るようになるらしい。
だからか、包丁を持つ手も危なげなく安心して見ていられた。
けれどもやはりというか、ロイさんもリンデルさんのように、砂糖と胡椒を使用することに驚いてはいたけれど。
晩御飯を一緒にと申し出れば一度は遠慮されたけれど、こんなに沢山一人で食べられないからと言えば『では遠慮なく』と。
出来上がった料理をお皿に盛り付け、テーブルに運んでもらう。
キッチンからテーブルに移動する際、ロイさんが無茶をしないかジイッとこちらを見ているので、右足に負担のないようゆっくりと慎重に移動していく。
向かい合って席につき『いただきます』をすれば、リンデルさんのように『それは何だ?』と聞かれて説明した。
私が箸を使っているのを見て自分も使ってみたいというので、箸の使い方を教えたのだけれど、なかなか上手く使えずに真剣な顔で何度も何度も掴んでは落とし掴んでは落としを繰り返し、ようやく使えるようになった時の笑顔は少年のようでとても可愛いかった。
怒られそうだから言わないけど。
それから色々な話をしながらご飯を食べ、ふと、やっぱり一人で食べるより二人で食べる方がより美味しく感じるものだな、なんて思った。
ロイさんは初めて食べる『照り焼き』に感動し、何度も「美味い」と呟いて、それを耳にした私の口角が自然と上がる。
自分の作ったものを美味しいと言って残さず食べてもらえるのって、凄く嬉しい。
サラダやスープも気に入ってくれたようで、食べ終わった彼の顔はとても満足そうな顔をしていた。
「こんなに美味いものを食べたのは、初めてだ。ありがとう」
ちょっと誉めすぎなような気がするけれど、でもそう言ってもらえると作った甲斐があるというものだ。




