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……どうしてこうなった?
晩御飯の支度をする私の横には、もふもふ騎士のロイさんが、騎士服の上からエプロンを着けて立っている。
エプロンは極々普通のデニム地のもので、決して真っ白なフリフリなエプロンとかではない。って、当たり前か。……なんてことはどうでもいい。
どうしてそんな状況になったかと言えば。
騎士団宿舎で手当てをしてもらった後、ロイさんにお姫様だっこで家まで送ってもらった。
ずっと重たいもの(私だけど)を運んでもらって「はい、さようなら」するのもなぁ、と冷えた麦茶をグラスに注いで「どうぞ」した後に、フルーツポンチを作ろうと再度キッチンに向かう私を見て。
「君は止まると死んでしまう魚なのか? 先ほど安静にと言われたばかりだろう? 何故大人しく座っていられないのか」
呆れたようにそう言われたのだ。
そうは言っても傷んだ果物は早く使わないと食べられなくなっちゃうし。
せっかくお店のおばちゃんオススメの果物、勿体ないじゃないか。
それに独り暮らしで自分のことは自分でしなきゃいけないし、なるべく気を付けて動けば大丈夫でしょ? なんて思っていたのが思いっきり顔に出ていたらしい。
「その様子だと大人しく座っているのは無理そうだな」
そう言いながら、ソファーから立ち上がるとキッチンにいる私の横までやって来て、見下ろすようにジッと私を見ている。
いや、あんまり見つめられると恥ずかしいんだけど。
ただでさえ彼は私の好みど真ん中な容姿と声の持ち主なわけですよ。
ロイさんは平々凡々な薄いアッサリ顔の私なんか見ても、何も感じないんだろうけどさ。
「今日やらなければいけないことは何だ?」
いきなりそんな風に言われ、思わず真面目に答えたのがまずかった。
「え? やらなきゃいけないこと? えっと、傷んだ果物をフルーツポンチにして、それが終わったら晩御飯の支度して、洗濯物畳んで、シャワー浴びて、寝る?」
もっと適当に『今日は大人しくしときます』とか、何故言えなかった、私。
激しい後悔に襲われても、後の祭り。
ロイさんの眉間の皺が深くなって、盛大なため息をつかれる。
そして彼の口から発せられた言葉が、
「手伝おう」
というものだった。
いや、意味が分かりません。
「いや、あの、私が捻挫したのはあなたのせいではないので、そこまで……」
そこまでして頂くわけにはいかないので、お帰り頂いて大丈夫ですよ、と続けようとしたのだけれど。
「気にするな。俺がしたくてしているだけだ」
いやいやいや、気にしますよ、普通気にするでしょ!?
一人の方が気楽に作れていいんだけど……って、ロイさんの目が『まさか断るなんて言わないだろうな?』って言ってる気がする。
彼からの威圧感? 的なものを受け、思わず「はい」と言ってしまった私は悪くないと思う。
か弱い女性に威圧感を出す目の前のもふもふ騎士のロイさんが悪いんだ。
そういうことにしておこう、うん。
そしてフルーツポンチを作るために引き出しからエプロンを出して着ける。
一応手伝うと言ってくれているロイさんにも、エプロンを着けてもらった。
それにしても騎士服にエプロン、合わないわぁ。
いや、もともと合わせるように出来てないんだろうけどさ。