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もふもふ騎士さんにお姫様だっこされること十数分。その間、ガッツリ人目に晒されていたわけで。
『穴があったら入りたい』とはこういうことを言うんだな、と体感していた私。
「ここが俺の所属する騎士団の宿舎だ」
ようやく到着した目的地に目を向ければ二メートルほどの高さの塀が続いており、門の前には二人のもふもふ騎士さんが立っている。
一人は耳が丸い形をしていて、熊の獣人さんだろうか?
もう一人は尻尾の形からいって狐の獣人さんっぽい?
熊のもふもふ騎士さんがこちらに気が付き、驚いたように声を掛けてくる。
「おいおい、マジかよ。ロイが女持ち帰ってくるとか、槍が降るんじゃねぇか?」
そうかと思えば狐のもふもふ騎士さんはこちらを見て、
「ロイ、もとの場所に返してくるんだ」
何とも失礼な言葉を真顔で言ってくる。
少しイラッとして言い返そうと思ったのだけど、私をお姫様だっこしているもふもふ騎士さんのロイさん? が話し出したので、大人しく口をつぐむ。
「追跡中に巻き込んで怪我を負わせてしまった。ケインに診てもらうために連れてきた」
淡々と答えて、スタスタと門の中へと入って行く。
「あの……とっても今更ですけど、(宿舎に)部外者を連れ込んだりして、大丈夫なんですか?」
「ん? 大丈夫だろ?」
……それ、絶対に大丈夫じゃなさそうなんですけどっ。
面倒ごとに巻き込まれるのはごめんですよ!?
なんて私が思っていることなど、きっと考えてもいないんだろうなぁ。
小さくため息をついて、大人しくすることにした。
だって、何を言っても無駄になりそうなんだもの。
改めて周りを見てみれば、宿舎は平屋の長い建物に扉が幾つもついているものが何棟もあった。
きっと扉の中はワンルームの部屋にでもなっているのだろう。
そして中央に少し大きめの戸建てが二つあり、その左側の扉を開け、中に入っていく。
「ケイン、捻挫だ。診てやってくれ」
そう言いながら、診察台の上にゆっくりと私を下ろす。
その診察台の横にはシマシマの尻尾の白衣を羽織ったもふもふさんが、何ともダルそうに椅子に座っている。アライグマ?
細面でひょろ長な、騎士とは無縁そうな男性。
「いつも言っていますが、捻挫かどうかは私が診て判断することで、あなたがすることではありません。勝手な判断はしないようにと……」
「ご託はいいから、さっさと診ろ」
「……」
え~っと、私、帰ってもいいですか?
このケインさん? 言ってることは正しいと思うのだけど、眉間に皺を寄せてバッチイものでも見るような目線で言うのはどうかと思うし、ロイさんも診てもらう立場なのに上から目線はどうかと思うの。
そんなわけで、今までの二人の関係性を知らない私からしてみれば、どっちもどっちとしか言えない状況ではあるのだけど。
ケインさん? がわざと煽るように大きなため息をつくと、仕方ないといった風に私に目を向ける。
「痛いのはどっちだ?」
「え? あの、右足、です」
いきなり言われて、ちょっとだけ焦ってしまった。
態度や言い方には問題がありそうだけど、診察は丁寧で結果はやはり捻挫とのことだったけれど、薬を塗って包帯をしっかりと巻いてもらった。
「しばらくの間は安静にしておけ。少し良くなったからといって無理をすると長引くからな」
「はい、ありがとうございました」
ニッコリと笑顔でお礼を言えば、ケインさんは、
「分かったのならそれでいい。治療は終わったのだから、サッサと出ていけ」
と机に向かって背中を向けてしまったが、白衣から覗くうなじがうっすらと赤くなっているのが見えた。
言葉はキツイけれど、それは彼の照れ隠しなのかもしれないと思うと、この人何だか可愛いな、と。
ロイさんはまた、私をお姫様だっこして何も言わずに部屋を後にする。
しばらくの間無言で歩いていた彼が「あんなんでも、腕はいいからな」とポツリと語るのを聞いて、きっと二人は仲が悪いわけではないんだろうな、と思うのだった。




