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【電子書籍化】異世界もふもふ幼稚園(無認可)  作者: 翡翠
第一章 玄関が異世界に繋がっていました
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 私、佐渡 里緒菜、もうすぐ二十歳。

 昨年事故で両親を一遍に亡くし、天涯孤独となって遺された3LDKのマンションに独り暮らし中である。

 特別美人でもなく、極々平凡なあっさり顔に肩より少し長めの黒髪を、邪魔にならないように後ろで一つに結ぶ。

 現在朝7:30。いつものようにオフィスカジュアルな服装で身を包み、会社へと向かうために玄関でパンプスを履くと、ドアノブに手を掛ける。

 ノブを下に押し下げて扉を開けた私の顔は、次の瞬間。

 鳩が豆鉄砲を食らうとはこのことだろうと思えるような顔をしていたと思う。

 思う、というのは自分からは見えないからであって……って、そんなことはどうでもいい。

 本来扉を開ければマンションの三階にある私の部屋の前には、通路(・・)があるはずなのだ。

 けれども今、目の前に広がるのは通路ではなく、五メートルほどの幅の赤茶色の土の道路(・・)が左右にのびており、異国の街並みのような白い壁にオレンジの屋根をした、とても可愛らしい家が並んでいる。

 旅行で来たのならば、可愛らしい街並みに手を叩いて喜んでいただろう。

 でも、ちょっと待って。

 私が住んでいたのはマンションの三階(・・)だったはずなのに、なぜ目の前に土の地面が広がっているの?

 マンションの目の前には、築三十年ほど経つであろうオンボロアパートが建っていたはずで、決してこんな可愛らしい建物ではなかった。

 でも、そんなことよりも何よりも!

 前の道路を歩く人たちのバラエティーに富んだ耳と尻尾(・・・・)

 これは全員がコスプレをしているのか……?

 いやいや、でもあんなに自然に動くものなの?

 パタンと一度ゆっくりと扉を閉めて、フゥと一つ息を吐いてからまた扉を開けた。



 あの後何度も扉を開け閉めしてみたけれど、何度やっても目の前に広がるのは獣耳なコスプレ集団が行き来する、可愛らしい街並みだったのだ。

 会社へ向かうのを諦め、しっかりと施錠をしてからフラフラとソファーまで歩き、力尽きたように勢いよくドサッとソファーに座り込む。

 その際持っていたバッグが床にバサッと落ちて、中身が盛大に散らばってしまった。

 ぼんやりとそれを眺めていていれば、その散らばったものの中に携帯があったのだ。

 勢いよくそれに手を伸ばし、画面を見ればWi-Fiがしっかりと繋がっている!?

 それを見て『これで助かる!』と思った。

 助けを求めて掛けた先は、高校の時からの親友の明美。

 昨日も長電話したばかりで、履歴の一番上に彼女の番号がある。

 タップして直ぐさま耳に携帯を押し当てるも、携帯から聞こえる音は無情にも通話中のツーツーという音のみ。

 再度かけ直しても同様で、ならばと会社で仲の良い早織を連絡先から選んでタップしてもツーツーという音が。

 会社の私が所属する企画部へと掛けても通話中。

 代表電話に掛けても通話中。

 ムキになって連絡先の一番上から順番に掛けていったけれど、その全てが通話中だった。

 力尽きたように携帯を持つ手がダランと下に下りる。

 そしてスルリと手から抜けた携帯が床にゴトンと落ちた。


 ◇◇◇


 どれくらいそうしていたのか。

 窓から差し込む日差しは既に傾いており、どうやら夕方のようだ。

 ぐうぅぅぅ~と緊張感のない音が部屋の中に響く。

 朝食べたきりなのだから、仕方のないことだと誰でもない自分に言い訳してみる。

 冷蔵庫の中、そのまま食べられるもの、あったっけ?

 それより、冷凍食品と魚と肉はもう駄目だよね。

 折角奮発して買った牛肉、勿体なかったなぁ……。

 なんて思いながら冷蔵庫を開けてみれば。


「え? 冷えてる?」


 一度パタンと閉めて、今度は冷凍庫を開けてみる。

 お風呂上がり用にストックしてあるアイスは溶けずにちゃんと冷えている。

 電気が通ってる?

 恐る恐るシンクの蛇口を捻れば、ちゃんと水が出た。

 ガスコンロも火がついた。


「え~っと、家の中は今まで通りってこと?」


 ホッとしたせいかまた、ぐうぅぅぅ~と緊張感のない音が響く。

 とりあえず、腹が減っては戦は出来ぬってね。

 先ずはお腹を満たしてから考えよう、うん。

 冷蔵庫から奮発して買った牛肉を取り出す。

 それに焼き豆腐と白滝と、白菜と葱とえのきも。

 そう、今日の晩御飯はすき焼き。

 本当は今日の夜に明美が泊まりに来るはずだったんだよね。

 思わず手が止まってしまって、慌てて頭を振る。

 しんみりしたところで、何が解決するわけじゃなし。

 ちゃちゃっと準備を済ませ、テーブルに電気グリル鍋をセット。

 まず牛脂を溶かし牛肉を焼き砂糖をかけ、醤油と酒を入れて。

 そして準備していた野菜や豆腐たちを綺麗に並べて入れていく。

 白滝は肉のそばに入れると肉が固くなってしまうから、離れた位置に入れる。

 煮ている間に、冷蔵庫に入っていた明美と飲もうと思っていたビールを出し、プシュッと音を立ててプルトップを開け、ゴクゴクと勢いよく飲む。


「う~ん、すき焼きとビール、最高!」


 な~んて、すき焼きじゃなくてもビール最高なんだけどね。

(お酒は二十歳を過ぎてから。良い子は真似しないで下さい!)

 やっぱり奮発した牛肉は最高だった。

 〆にうどんを入れて、最後まで美味しく頂きました。

 気分をさっぱりさせるために風呂にも入り、アルコールも入ってしまったことで、今後のことを何も考えることなく、就寝。

 何も解決することなく、ただ家の中で過ごし、異世界の1日目を終えたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 他の方もおっしゃっているように、主人公の年齢が気になりました。冒頭でもうすぐ二十歳とあるのに、ビール最高!と言っているのは、会社勤めされている主人公の印象がちょっと良くないかな……。注…
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