表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏に、咲け  作者: 灰原零二
7/8

君と時計と片想い

3:2

「で、先輩は連れてきてもいいのか?」

「え? どんな人なんだよ・・・・・・もしかして美人だったり?」

「まあ、世間一般的には美人なあつかいなんじゃねーか? 俺はタイプでもなんでもねーけど」

「おお! それはいいな! 夏祭りで美女に囲まれ、ぐふふふh・・・・・・」

「いや、キモいわお前」

先輩を連れて行く気がなくなるようなこと言うなよ。

まあこんな田舎には勿体ない美人ってわけだが、問題は他の女子だ。

俺もおそらく丸藤はすぐにOKを出すとは踏んでいたが、女子の返事は全く予想がつかない。

いや、おそらく嫌がるだろうと思う。

少なくとも、櫻井はどういう風の吹き回しか知らんが丸藤のことを狙っているわけだし、もう一人と言ったら・・・・・・結局、鷺香になったわけなので、正直よくわからん。

鷺香一人なら嫌がらなさそうなものだが、櫻井に気を使って、嫌だと言いかねない気もする。

まあ、常識的に考えて、バイト先の先輩と一緒に自分の幼馴染を夏祭りに連れていくというのも、先述した通り、気が引けるものだ。

「ま、女子が嫌がるんじゃねーのか?」

「やっぱお前もそう思うよな」

「悪いけど今回は別々で行かせてもらいますって、もう言っておいたらどうだ?」

「いや、さすがに、一応一回くらいは聞くつもりなんだが・・・・・・」

「余計なこと言うと、「あ、そういう人なんだって」思われるぞ」

確かに、俺が訊くというのも、それすなわち俺が容認しているってことの証明にもなるしな。

先輩を不憫に思う気持ちに揺らぎはないが、ここは折れてもらうしかなさそう・・・・・・

「優斗の先輩も一緒に来るの~?」

しまったぁぁぁ。大きな声で話しすぎた。

「え、あ、うん」

「いいよ! 面白そうじゃん先輩」

「は? 今なんて・・・・・・」

「だから、その先輩も一緒に行こ!」

案外、俺が思っているほど、俺の幼馴染という奴はコミュ力が低くないのかもしれない。

「へぇ~・・・・・・」

鷺香は電話越しに、何処か含みのある声色で答えた。

「じゃあ、なかなかライバル多そうだ・・・・・・」

「は?」

「ん? あ、いやいや何でもないよ、何でも・・・・・・」

何のことを言っているのかさっぱりだが、最近よくあることなので、大して気にもしなかった。

「で、なんでお前が櫻井に誘われるんだよ。丸藤の奴を誘ってることも驚いたけど、お前が誘われてんのも意外なんだよな」

「え、そう? 今年から美術部に入ったから仲良くなったんだよ」

「いや、まあ知ってるけど・・・・・・」

「別にそれ以外に理由必要なないでしょっと」

そういって鷺香は何かを手に取る。

そう言って、私は、腕時計を手に取る。

お母さんに小さいころ買ってもらった、大切な時計。

ヘッドホン、眼鏡、次はこの時計か・・・・・・

私は、自分がしていることのうやむやさに嫌気がさす。

なんで、どうして私はいつまでも、いつまでも普通に言えないんだろう。

「好き」って、たった二文字なのに。

あのタイミングでしか、この言葉は紡げない。まるで病気にでもかかってしまったように、まるで何かにとり憑かれたように。

(あぁ~~‼ 猫の手も借りたいとは、まさにこのこと‼)

「ねぇ、優斗。急なんだけどさ・・・・・・」

「うん?」

今回は明るく。もっとはっきりと。

「恋愛、相談・・・・・・のって、くれ、ないかな?」

「はぁ? 恋愛相談だぁ?」

「へ? あ、うん」

「なんで俺にそんなこと相談するんだよ?」

それは・・・・・・それは、君が好きだから・・・・・・

「そ、それは、それは・・・・・・は、話せる男子が君くらいしかいないからだよ」

(ば、ばかぁぁぁ‼)

「なんだそれ。ったく、乗ってやるよ。聞きゃあいいんだろ?」

「あ、ありがと」

「実は、ね。好きな人ができたんだ私・・・・・・」

これでもう三度目だ。この台詞を言うのも三度目。

三度目の正直、ってよく言うけれど、私はたった三度なんかでは到底成長できそうにもない。

「おん。どんな奴なんだ?」

「えーっと、本当はすっごく優しいんだけど、私にはそれを悟られないようにしてるところが可愛くて・・・・・・」

「どんなとこが好きかなんて聞いてねーよ」

「あ、ごめん・・・・・・つい高ぶっちゃって、へへ」

まったく、私ったらろくにコミュニケーションも図れないんだから・・・・・・

まったく、ほんと、こういう話になるといつもこいつは一人高ぶって、ろくにコミュニケーションも図れなくなる。

そもそも、好きな人ができたなんて俺に行ってくる時点で、もうすでに普通ではないけれど、こんな奴に好かれるなんて、ほんと災難だろうなと思いわせる。

幼馴染ってのをいいことに、俺を何かの御用聞きと間違えてるんじゃないかと思う。御用聞きは三河屋さんだけで十分だ。サ〇ちゃ~ん!

「で、どんな奴なんだよ」

「うーん・・・・・・一言で表すのは正直難しいけれど、基本的に優しい人だよ」

「へぇ~意外だったなー」

あえてポテトチップスのうすしお味のような返事をする。

「なんで? 意外?」

「いやぁ、お前はもっとなんかこう」

「優しい奴より、硬派でカッコいい奴が好きだと思ってた」と、そう言おうとして、本当は自分がそうなろうと努力していることに気がつきやめた。

「やっぱ、なんでもない・・・・・・」

「ええ!? うそ、ヒドくないそれぇ?」

まあ、いいけど。

鷺香はそう続けた。

その後も、どうやら鷺香は俺に好きな人の名前を教えるつもりは全くないらしく、鼬ごっこのような展開が数十分にわたって続いた。

直接本人の口から実名を吐かせることは、おそらくこれ以降も不可能だと踏んだ俺は、鷺香の話を聞いて、好きな人を推測するようにした。

ある意味、負けたのかもしれない。

「わかったわかった。もう名前は聞かねぇよ」

「う、うん。ありがと」

「でも、そんなに優しくてカッコいい男子うちのクラスにいるのか?」

「え? いるよ、いるいる」

「はぁー。いろんな感性してるやつがいるもんだな」

「んー。まあ、ね。確かに、その子がほかの子に好きって言われてるのは見たことないかな・・・・・・私としては好都合なんだけど」

「そうか・・・・・・同じ告られたことないんでも、理由が違うんだろうな」

「でも、優斗ってなんでそんなに自己評価低くて鈍感なの?」

「へ?」

「いやぁ、特に意味はないけどさ。優斗って勉強も運動も人よりできるし、友達も少ないわけでもないのに、なんでそんなに自分に自信がないのかなって思って・・・・・・」

たしかに、と自分で言うのは些かおこがましいが、他人に劣る面というのもあまり思いつかない。おそらく、自分の意志とは裏腹に自意識が過剰なのだけれど、特にこれといって苦手なものも見当たらないなと思う。

そんなことを言いながら、本当は探せばいくらでも短所なんて出てくるだろうが。

すでに、自分のことを過大評価し過小評価している時点で、その乖離具合が短所に該当するだろう。

しかし、褒められたのに、謙遜するような仲ではないので、ここは敢えてウザくいこう。

「まあ、たしかに、俺が他人よりできないことってそうそうないな。うん」

「え、謙遜しないんだ・・・・・・」

「ひくなら言うなよ!」

「冗談冗談、ほんとその通りだと思うよ」

「あ、そういや、さっきお前の好きな人もなかなかオールマイティって言ってたな」

「あ、うん。やっぱさっきの台詞撤回するよ」

「なんで?」

「世紀末してるレベルで鈍感だから・・・・・・」

「?」

いまいち言ってることができないというのが正直なところだが、まあ、特に何でもできる奴だと思われたい欲求もないので、追及はしなかった。

灯台下暗し。まさにこの言葉がぴったりとあてはまる時間を、俺は過ごしているとも知らずに。

そして、諺関連で話を進めるならもう一つ。

知らぬが仏、という言葉があるけれど、今回の話に関してはどうやらそれが該当しないらしいことも、この頃の俺は知る由もないのだが。

当然、そんなことを考えながらこの話を聞いていたわけではないし、そんなこと、タイムリープでもしていない限り不可能なことなんだが、俺は別に時をかける少年でも何でもないので、あいにくそんな器用なことは実現できていなかった。

できるのなら、この上ない便利な力だけれど、過去をどれだけ変えようと足搔いたところで、一人じゃ結局なんにもできないような気がした。

「なるようになる。」ように創られたこの世界で、神視点からすれば猫や他の動物となんら変わらない人間が一人時間をいじった、いじろうとしたところで、何の支障もないんだろう。というか、むしろ、何かの支障をきたすようであれば、本当に存在するのかどうかは知らないけれど、神様が黙っていないだろう。

「まあ、いいや。謎が多い方が面白いでしょ?」

「は? なんだよそれ」

「気になるんだったら、その頭で推理してみなよ」

「それが出来ねーから聞いてんだよ」

「できないってわかってるから、やってみろって言ってるんだけどね!」

「ウザ!」

素直にウザい。

こいつまじ、性格ひねくれてんじゃねーの。

「君のその鈍感さでどれがけの人が被害を被っているのか調査したいな、ほんとに」

「勝手にしとけ・・・・・・って、え?」

「あ・・・・・・」

「は、お前もしかして・・・・・・」

「い、いやいやいや」

「丸藤・・・・・・なのか?」

「・・・・・・え?」

きっとそうだ。間違いない。そこそこ勉強も運動もできて、女子には優しい。そのうえ鈍感な奴だから。

今回の夏祭りの話だって、もしかすると櫻井が丸藤を狙っているのではなくて鷺香からお願いされて、櫻井が丸藤のことを誘ったのかもしれない。

そのくせ、鷺香があまりにも奥手だから、丸藤に寄せている好意に気付いてもらえなくて、俺に相談しに来たのだろう。

きっとそうだ。

肝心の丸藤といえば、鷺香のことなんか眼中にない様子で手っきり櫻井に狙われてると勘違いしてテンションあげちゃってるからこまったものだ。

「鷺香も鷺香だけれど丸藤もちょっとは気づいてやれよ。というかまずは恋愛対象として選択肢に入れてやれよ」というのが思うところだ。

「そういうことだろ?」

「はぁ・・・・・・」

「何のため息だよ。当てられないと思ってたのに案外すんなりいかれたから悔しいのか?」

「優斗、それ本気で言ってるの?」

「本気じゃなかったらなんなんだよ。この理論で全部筋が通るじゃねーか」

「そうだね。筋が通るね。すごーい、すごーい。理論成立しちゃった。やっぱり優斗天才だ。ほんと・・・・・・ほんと、よくもそんな訳の分からないことを言えるよね!」

「は?」

泣いているのか?

「なんで、なんでよ。なんで気づいてくれないの? 私、言えないからずっと、ずっと君に、君が気づいてくれるようにって、頑張ってるのに・・・・・・」

「なんで、言えないんだよ」

「それも言えない。というか、言ってはいけない。言ったら取り返しつかなくなっちゃうから」

「なにも、死ぬわけじゃ・・・・・・」

「死ぬよ」

「死ぬ?」

「うん。死ぬ。消えちゃう。言ったら、消えちゃう」

君の方から当ててくれないと、消えちゃう。鷺香のその声色は決して冗談を言っている人間の其れではなかった。

「死ぬって、どういうことだよ?」

「どういうって・・・・・・確かに私が言った瞬間口から血を吐いて死ぬとか、爆発するとか、そういうんじゃないけれど、でも、表現的には死ぬっていうのが多分一番近い状況にはなると思うよ」

「いや、言ってる意味が全然わかんねーよ・・・・・・お前、恥ずかしいから自殺するとか言わねーよな?」

「うん、さすがに、そんな理由じゃないよ。もっと、深い、固く縛られた理由」

 固く縛られた理由。

その言葉にどれほどの比喩や意味が込められているのか、俺には到底理解できないけれど、鷺香の口から真相を聞くことができない以上、俺にこの件の打開策と呼べるものを考え出すことなんて、可能なのだろうか。

「じゃあ、俺がお前の好きな人を当てれば、死なずに済むんだな?」

「当てれればだけどね・・・・・・」

正直、この状況では鷺香の発言が冗談だとは言えないだろう。

好きな人を言ったら死んでしまう、そんな訳の分からない話があるなんてにわかに信じがたいが信じるということの他に、特に疑うなんて選択肢は存在しえなかった。

「まあ、いいよ。私待ってるから、君が私の好きな人を言い当ててくれる時を」

「うん・・・・・・」

今から振り返って考えてみれば、おかしな話だ。

その、「好きな人」でもない人間にどうしてここまで話すのか(肝心なことは話していないけれど)もっとそこについて考えるべきだったのかもしれない。というか、考えるべきだったのだ。「好きな人」でもない人間にここまで話すということに対しての違和感について。「好きな人」でもない人間には、こんな話をしないというところに行きつくまで。そう道のりは遠くなかったはずだ。

「ごめん。こんな空気になっちゃったの、私のせいだよね・・・・・・」

「謝るなよ、簡単に。軽くなるだろ・・・・・・」

「君はあまりにも謝らなさすぎだけどね」

「嫌味? なぁお前それ嫌味だよな?」

「さぁ? どうだろね。これが嫌味だと感じるってことは、普段の行いに多少の負い目は感じてるんだね」

「うっ・・・・・・」

「あれ~? 都合が悪くなったらだんまり?」

「あーはいはい。悪かった悪かった」

「そんなのじゃ、全然響かないけどね?」

こいつ、完全に調子乗りやがった。

俺がちょっと優しくしたらすぐこうなる。

全く。可愛い奴め。

鷺香が調子に乗り出したので、話をまとめてそそくさと電話を切った俺だが、内心、問題が全く解決できていないことを忘れられずにいた。

そもそも、なぜ「好きな人」を言ったら消えてしまうのか、どのように消えてしまうのか、いつからそんな状況なのか、なんで自分で消えるのがわかるのか、誰かに教えてもらったのか、悟ったのか・・・・・・など疑問点は置き去りのままだし、それを答えてくれそうにもない以上このままずっと迷走していないといけないのかと思うと憂鬱になるばかりだ。

いっそのこと、好きな人なんて気にしないで、ちょっと前までみたいに、自然に柔軟に単なる幼馴染として関わることができたら良いのになと思う。

でも、「俺が当てればいいんだろ?」みたいなこと言ってしまったわけだし、このまま放置というわけにもいかないことは重々理解しているつもりだ。

「はぁ・・・・・・」

俺は自室のベッドに寝転がると、溜息をついた。

夏の夜は耳を澄ませば虫の声が聞こえてくるんだろうけれど、残念ながら現在クーラーをしているおかげで、窓を閉め切っているので自然のBGMが俺の耳に入ることはなかった。

しかし、「何か、とんでもないこと」に巻き込まれているということは虫の知らせというか、そういう類の半分空想じみた次元で知っていた。

わかっていたのではない。知っているんだ。

理解はしていない、聞いたこと、感じたことがある。と、そう思うだけ。

結局、本質ところは何もわかっていないから、「何か」なんだけれど。

無責任なのかもしれないな。

「夏祭り。どうしよっかな・・・・・・」

どうしよっかな、なんてどうしようもないことはわかっているんだし、行きたくなければ今からでも丸藤に、「ごめん。俺、キャンセル」とでも言えば片付く話だ。

でも、それじゃだめなんだと心が叫んでいる気がする。

本当の意志なんて、本人にわかるわけもなければ、他人にわかるわけもないのだと、初めて知った。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ