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黄昏に、咲け  作者: 灰原零二
1/8

夢と花火と巻き戻し


5:5

もう夕陽の淡い光が霞む黄昏時。

町で唯一の時計台のチャイムと共に、花火は上がった。

刹那、淡い紅がかった光が俺たちの目の前で弾け、辺りの草木や人々を包み込む。

まるで数秒、時間が止まってしまったような錯覚に陥る。

「あ・・・・・・」

言葉を失い、ただ茫然と、目の前で咲き誇る花火に圧倒されるほか、無かった。

閃光花火をありったけの力で拡大し、爆発させたような打ち上げ花火はやがて、小さな炎の粒となって、地に落ちてゆく。

壮大な打ち上げ花火が揚がった空を背に、アイツは神社に続く階段を一段一段上っている。

その背中を追いかけるように、花火に気を取られていた俺も階段を駆け上がる。

俺が階段を登り切った頃にはもう、アイツは、少し離れた鳥居の前にいた。

もう、この先会うことはない。

何故かそう言っているかのように感じた俺は、鳥居まで全力で駆ける。

このままでは、アイツの記憶も、経験も、思い出も、そのすべてが消えてしまうような気がして。

しかし、時計台の五度目のチャイムが鳴るとき、アイツはその浴衣姿には不似合いなヘッドホンを頭から外すと、俺のほうに振り向きこう言った。

「私、君のことが、ずっと、ずっと好きだったんだよ?」

知ってた? というような、まるで問いかけのようなその告白は、どこか儚げな色をした牡丹のような表情のアイツと共に、目の前から消えた。

自分の根拠のないカンなど、信用することはなかったが、それでも、何かに間に合わなくなると、そんな気がしていた俺の心は間違っていなかったらしい。正常な人間なら、今自分の目の前で起こったことが理解できていないだろう。しかし、俺は訳も分からないまま、現状に納得してしまうという矛盾に陥っている。まるで自分が、こうなることを知っていたかのようなこの気持ちは一体何なのだろうという、疑問を孕みながら。

そんなことよりも今は、アイツの気持ちに薄々気づいていたにもかかわらず、何もしてやれなかった自分が憎い。

数々の後悔が、走馬灯のように、生まれては消え、生まれては消えを繰り返す。

これは幾度となく繰り返される、俺とアイツの、〝終わらない物語〟









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