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親失格


夜依が学校に行っている頃……


俺は夜依の家に来ていた。


今日の終業式に夜依は出席しなかった。もう手段を選んでいる暇は無い。明日からは夏休みが始まる。そうしたら夜依と会う確率は更に低くなってしまう。だから俺は夜依と今日会って無理矢理にでも連れ出そうとしていた。


夜依の家は相変わらず大きな家でさすが名家だと伺えた。


俺はインターホンを押して待つ。


数秒後インターホンから声が聞こえてきた。


「どちら様ですか?」


その声は夜依に似ていたが夜依とは少し違かった。

一瞬夜依?と思ったけど、どうやら人違いだったようだ。


「えっと、夜依さんと同じクラスの神楽坂 優馬と言います。今日は夜依さんに会いに来ました。」

「神楽坂……………って!?もしかしてあなた男の!?………神楽坂 優馬!?」


インターホンからでも分かるくらいその声の持ち主は驚きの声をあげた。


え?どうして俺の名前を知ってるんだ?夜依が教えたのかな?


少しだけ疑問に思ったけど俺は普通に答える。


「そうですけど……」

「そうなのね!北桜家にようこそ。すぐにお通ししますね。」


そう言ってすぐにその声の持ち主が走ってここまで来た。


「え!?」


その人はとても夜依に似ていて、髪型以外はほとんどが夜依そのものに見えた。立ち振る舞い方や言葉遣いもすごく似ている。あれ?でもよく見ると歳をとった夜依と言う感じかな。


その人の服装は半袖半ズボンで肌をガッツリ露出度している服を着ていた。


まぁ、そろそろ暑くなってきたから相応しい服だとは思うけど、もう歳じゃないかな?と思った。肌の皮膚が少しヨボヨボだし、夜依みたいなスリムボディとは言えない。失礼だから絶対に口には出さないけどね。


あ!もしかしてこの人は……いや間違いないよな。この人は夜依のお母さんだ。そして俺のお義母さんになるかもしれない人………って、何考えてるんだよ俺は!!!


自分で自分はバカみたいだなと思った。まだ気が早すぎる。まだ少し先の話だ。


「どうぞ、お上がりください。」


そう言って夜依のお母さんは丁寧な敬語を使って家に迎えてくれた。


別にそんなことしてくれなくてもいいのにと思ったけど……この人は親切に案内してくれた。


夜依の家の中に入るとやっぱり和の造りでとても居心地が良さそうだった。


案内された部屋は想像通りの和室で四角い木でできた机と座布団が敷かれていた。


俺が座ると、夜依のお母さんはすぐにお茶をいれてくれた。


「どうぞ。」

「ありがとうございます。」


俺は渡されてすぐにお茶を飲んでみる。


わぁー、すごく美味しい。熱さもちょうど良くて飲みやすいお茶で部屋の和の雰囲気に俺は居心地が良くなっていた。


その人は俺の反対側の座布団に腰を下ろした。


あ、あれ?夜依を呼んでくるんじゃないの?

てっきりこのまま夜依を連れてきてくれると俺は思っていた。


「まず、自己紹介からですね。私は……もう、わかっているとは思いますが夜依の母です。よろしくお願いしますね。」

「あ、丁寧にありがとうございます。俺は神楽坂 優馬です。夜依とは同じクラスメイトです。いつも夜依と仲良くさせてもらってます。」


俺もこの人のように丁寧に言った。


「……………………?」


どうやら俺の口調、行動、態度に夜依のお母さんは疑問に思ったようだ。頭を斜めに傾けている。


「それで、今日はどうしてここに?」

「さっき言った通り夜依さんに会いに来たんです。」

「…その、すいませんが夜依はここにはいませんよ。」

「え…………もしかしてもう結婚してしまったのか!?」


俺はうっかり独り言を声に出して言ってしまった。夜依がモウココニいないことにビックリしたからだ。


「夜依は出かけただけですけど………どうして夜依の結婚のことを知ってるんですか?もしかしてあの子、あなたに言ったんですか?」


ずいっと顔を近づけて俺に問い掛けてくる。夜依に似てるから少しだけ照れる。


「違います。情報源は言いません。 」


この情報は19番さんが教えてくれたものだ。情報源を言う訳にはいかない。


「へぇー、それで?」

「夜依の結婚をやめさせて下さい。」


俺は早速本題に入った。

たとえ夜依に会えなかったとしても、親を説得して納得してくれれば結婚はなんとかなると思ったからだ。


それにこの人の説得に時間を使えばここで夜依を待つ口実になるので、一石二鳥だ。


「それは出来ないですよ。」

「な、何でですか?あの男の悪行をもしかして知らないんですか!?」


そんなことを言うんだったらこの人はあの豚野郎の事を全然知らないんだな。


「いいえ、全て知ってますよ。」


だけど俺の思った言葉とは違う言葉が来た。


「な、なら何でですか?自分の子供がどうなってもいいんですか!?自分の親よりも年齢が行っている人と結婚させていいんですか!?」


俺の言葉に力が入り始める。


「別にどうなっても構わないです。あんな愛想のなく、親の言うことを全然聞かない子なんてどうなったって知らないですよ……それに、この家を継続させるためにはどうしても子供が必要なんです。」


この人は躊躇わずハッキリと言った。


なんでそんなにハッキリと言えるんだよ……自分の子供が可愛く無いのかよ。大切じゃないのかよ……?


…あぁ、そうか。この人は…もうあの豚野郎の味方なんだな。夜依の親なのに、自分の子よりも家を選んでしまったんだな……


「なるほど……わかりました。じゃあこれから夜依がどうなったとしてもあなたは構わないという事ですね?」

「はい、そうですね。やっと、お荷物が出て行ってくれると思うと嬉しいですよ。大金を支払った甲斐がありました。」


なんなんだこの親は……見た目は夜依と似ていても、中身は夜依とは全く違うじゃないか……

夜依は頼りになって、素直じゃないけど誰にでも優しく、夜依は知らないと思うけど人望も厚い。そして自分の夢のために真っ直ぐな子なんだから。


こんな家のことしか考えておらず自分の子の魅力にも気付けていないなんて親失格だと思う。


「じゃあ、夜依は俺が貰いますから文句は言わないでくださいね。」

「は?一体何を言ってるんですか?もうあの子は結婚するんですよ?それにあんな子を貰ってもなんの得にもなりませんよ?」


俺の事をバカみたいに言った。


「得とか、どうでもいいんだよ。俺は夜依の事が好きだから貰うって言ってるんだよ。もうあんたは親じゃないんだから口出しするなよ!」


俺は大きな声で言った。口調は荒くなり、自分の思いを素直に言葉に出していた。


俺の言葉を聞いてぽかんとする夜依の母親。


「もう、あなたは夜依の母親とは名乗る資格なんてない。夜依は、あなたの子は家を継続させるための道具なんかじゃない!夜依は1人の……かけがえのない子なんだよ!」


そう強い言葉を最後に言ってやった。


俺はこの家から出て行こうと思った。こんな所で夜依を待ちたくないし夜依もこの人のことが嫌いだと思うからだ。


「ちょっと待ちなさい。」


夜依の元母親は俺の手を掴んで言った。


「何言ってるんですか?まだ大人の世界も知らない、ただの男がっ!あんまり大人を舐めない方がいいですよ。顔はいいけど頭はおかしいんですね。あの子は私の子なのよ。そうやすやす渡すわけないでしょう!それに今更結婚は止められないんだよ。あの人に盾突いたらいくら男のあなたでもタダでは済まされないんですからね。」


やっと本性を表したな。これがこの女の素か。醜いな。どうやら今まで猫を被っていたようだ。


「今は別にどうとでも言っておけばいいさ。でもその口もしばらくしたら何も言えなくなっていると思うけどね……」


この人は豚野郎に大金を支払ったと言った。それにあの豚野郎の悪行も知っていると言った。

つまり、この人は豚野郎の悪事を知っているのにも関わらず大金を支払って、豚野郎を援助した事になる。

俺が豚野郎の悪行の全てを世にさらけ出す事に成功したら結果的に援助したこの家も共犯になる可能性が高い。


もしそうなったら、この人は自分がしでかした事にきっと後悔することになるだろう。


「あ、もしかしてお前か!郵便受けにプリントを入れていたヤツは。」

「そうですけど……」


俺は昨日、パーティに強制参加する前に投函しておいたやつだな。あれには皆の夜依への寄せ書きを入れて置いた。あれを見たらが学校に来てくれると思ったんだけど結局夜依は来なかったんだっけ。


「あの子に希望を持たせちゃダメなのよ。そうしないと大切な子供を作るときに無駄に抵抗をして、夫が不憫になっちゃうでしょうからね。まぁ、夜依の目に届く前に全部私が捨てたけどね。」

「………………」


こ、こいつやりやがった。

皆の夜依を思う気持ちと夜依の気持ち、その両方をこいつは捨て去った。


許せない。俺は静かに怒りのオーラを出した。それに気づいたその女は一瞬たじろいだが、すぐに体制を整えた。


俺はもうこの人と話すことは無いと判断した。あの豚野郎には及ばないにしてもこの人も相当なクソ野郎なんだな。


こんな母親の元で育ったから夜依はいつも孤独だったんだな。人を無意識に遠ざけていたんだな。男である俺を拒否し続けていたんだな……


夜依の気持ちを少しだけわかった気がした。


俺はキーキーと俺を侮辱する言葉を吐く女を徹底的に無視し、無理やり手を振り払い家を出た。


寄せ書き捨てられちゃったんだ……後で皆に謝っておかないとな……


あの時俺が夜依に直接手渡せばよかったんだ。そうしていればみんなの思いを夜依に伝えることが出来たし、夜依を更に孤独にすることも無かった。少しでも希望を持たせてあげられたのに……


俺は無意識に拳を作り強く握りしめていた。

最近ストレスが多いのかな……無意識に俺は拳を握りしめるようになっていた。


俺は家に帰ってかすみさんの集めた情報を聞こうかなーと思っている時だった…


───テレンっ♪


「ん?」


あれ、スマホに着信がきた。


誰からだろう。


帰るまで暇だったのでこの着信を見ながら帰ろうと思った。


でも、着信相手を見て俺は声を上げるくらい驚いた。


「や、夜依!?」


なんと夜依から連絡が来ていたのだ。

俺はすぐに連絡内容を見てみる。


連絡内容はたったの一言。


“今日学校の校門で待っている”とあった。


俺は急いで返信する。


“了解、すぐに行く”と。


俺は学校に向かって走り出した。

少しだけ待っていてくれよ……夜依!

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