別れ
「こんな所に呼び出してしまってすいません。」
「いや、全然大丈夫だよ。」
俺は夜依に呼び出されて、人が滅多に来ない空き教室に来ていた。
俺から呼び出すつもりだったけど俺より先に夜依から呼ばれた。
今日は夜依との勝負に負けた。大敗だ。
俺はものすごく悔しいのに、夜依は勝ち誇った表情は無く清々しいものだった。初めから勝利を確信していたような表情にも見えた。
「今回のテストは負けたよ。完敗だね。…でも次こそは絶対に絶対に負けないからね。そこの所よく覚えておいてよ!」
俺は夜依を指さしながら宣言した。今回は俺の勉強頑張って及ばなかっただけだ。次こそは必ず勝つ!そのすまし顔を動揺した顔に変えてやる!
「…………………………………はい。」
夜依は静かに答えた。
「さぁ、何でも言う事を聞くから何か言う事を言えばいいさ。」
あとの細かい話はもういらない。俺は負けたんだ素直に夜依の言うことに従うつもりだ。
「分かりました。では私があなたに望む願いを言いたいと思います。」
一呼吸置いて夜依はキッパリと言った。
「今後、私に一切関わらないようにしてください。」
「…………………え!?それって………」
何を言ってるんだ夜依は?俺には理解できなかった。
「では私はこれで……」
「いやちょっと待ってよ。」
颯爽と立ち去ろうとする夜依を腕を掴んで止めた。
「……………………っ。私に触らないでください。」
夜依は俺の手を薙ぎ払った。男嫌いの夜依には接触はキツかったらしい。
「悪かったよ。だけど夜依も悪いと思うよ。なんの説明も無しにこれから関わらないでってどう考えても虫がいいんじゃないの?」
「いいえ、敗者には説明する価値もありません。」
「くっ……でも、少しくらい説明してもいいんじゃないの?」
「………………いいえ。では私はこれで失礼したいんですけど?」
「いーや、ダメだよ。ここは通す訳には行かない。」
俺は扉の前で仁王立ちをして夜依の行く手を阻んだ。
なんの説明も無しにこれからの関係を断つのはあまりにも理不尽だ。
「どいてください……」
「イヤだ。理由を言わないと通さないよ!」
「あなたには関係の無い話です。」
夜依は再びキッパリと言うけど、何かもどかしい表情をする。
「何か事情があるの?俺が知る夜依は俺には冷たいけど、そんな理不尽なことは言わないと思う。俺は夜依自身の言葉が聞きたいんだ。」
「私は……………っ。」
夜依は何か言いかけて黙ってしまった。夜依はスカートを掴み、下唇を噛む。やはり何か事情があるということはわかった。
「だったら俺に任せてよ。どうにかして解決してみせるから。」
男の特権をいくつか使えば何とか出来るかもしれないと思った。
「あなたには関わって欲しくないです。あなたには迷惑をかけたくない。」
「いいや、大丈夫だよ。俺に──」
「その優しさが時には邪魔なものだと言うことを分かってくださいっ!」
夜依は大きな声で言った。こんなに取り乱す夜依は初めて見た。そのせいで俺は言いかけていた言葉を言うことが出来なかった。
「な、なら次のテストも勝負だよ!そこで俺が勝ったら夜依の言った権利を撤廃してもらうからね!」
俺はどうしても夜依と関係を断つということは考えられなかった。何とかして関係を戻そうと考えた結果が再勝負の申し込みだ。
だけど夜依は頭を下げて言った。
「ごめんなさい。もう………勝負は出来ないんです。もう期限があと少ししか無いんです……もう次のテストまでに私はこの学校にはいられないんです……」
「え?」
俺は意味がよくわからず素っ頓狂な声を出した。
「さようなら…………。あなたと一緒に過ごした時間は決して忘れません。ありがとうございました。」
夜依は最後に笑顔で笑い教室から出ていった。夜依の目には小さな涙が出ているのが見えた。
なんでそんなに悲しく笑うんだよ………
俺はただ立ち尽くすことしか出来なかった。
俺は後に後悔することになる。ながなんでもこの時に夜依を呼び止めておくのだったと………
☆☆☆
次の日。
昨日は何も言えなかったけど今日こそは!と思い俺は学校に行った。昨日のうちに連絡をしようかと思ったけどやめておいた。電話するのはもう少ししてからにしよう。だってまだ夏休みまでには数日あるんだし、学校でしっかり話せばいいと思っていたからだ。それに電話越しに大事な話をするのはよくないと思う。ちゃんと目を合わせながら話をしたかった。
俺はいつも通り雫と一緒に学校に登校した。夜依はいつも教室で本を読んでいる。その光景をいつも見ていた俺は今日も夜依がそこにいると、思い違いをしていたことに……
「おはようー」
俺はいつも通りクラスの皆に朝の挨拶をして教室に入った。
俺はすぐに夜依が座っているであろう席を見る。
「あ、あれ……夜依は?」
だけどそこには夜依の姿は無かった。それに夜依の道具や教科書類が見当たらない。夜依の机だけ空き席のようだった。
「ん、夜依さんは今日は家の事情でお休みするって聞いたよ♪珍しいよね♪」
近くにいた春香が教えてくれた。
「あ、そうなんだ……ありがとう春香。」
俺はなんだか嫌な気がした。
まぁ、まず夜依が来るまで待つとしよう。あまり積極的に関わり続けると夜依の何でも言う事を聞く権利の意味が無い気もするし。
だけど、数日経っても夜依が学校に来ることは無かった。
☆☆☆
俺は夜依の家近くまで1人で来ていた。
俺や雫、春香などが夜依に連絡をとっても出てくれなかったからだ。
もう、夜依に何かあったとしか考えられなかった。
少しでも情報が欲しかった俺は奈緒先生から夜依の溜まったプリント類を渡しに行くというていで教えて貰い、夜依の家まで向かっていた。
もちろん奈緒先生からは反対された。だけど俺が頼み続けたのでしぶしぶ了承してくれた。
夜依はもう休んで4日が経過している。明日は一学期終了の終業式の日だ。
明日からは絶対に楽しくなるであろう夏休みがスタートする。だけど俺はどうも夜依の事で悩んでしまい今のところ楽しめそうにない。
まず夜依の安否を確認しなくちゃ話は始まらない。
数秒だけでも構わない、夜依が元気にしているのかを確認をしなきゃならない。
だからまず夜依の家にたどり着かなきゃ話は始まらない。
んーと、奈緒先生から教えてもらった住所まではあと少しのはずなんだけどな…………どうもよく分からない。
なんで進もうとしてるのにルート案内の方は逆方向を示してるんだ?もう訳が分からないや。
道に迷いながらぐるぐるそこら辺を歩いているとついにルート案内が終了した。ということは目的地はすぐ目の前だという事になる。
「え………ここ?」
この家は俺の家並の敷地、それに4メートルほどの塀があった。外からじゃよく分からないけどものすごい豪邸だということは見てわかった。門の入口は固く閉ざされていてネズミ1匹侵入することさえ困難だろう。
だけどよく見たら表札に北桜と書かれていた。北桜家は名家と前に聞いていたけどものすごい名家だったということだね。夜依の家で決定だ。
ここに夜依がいるってことか……
「よし………行くとするか……」
自分自身で喝を入れた。
待ってろよ夜依。俺は門に近づきインターホンを押そうとした。
「───お待ちください神楽坂様っ。」
急に名前を呼ばれて俺はびっくりした。インターホンは押せていなかった。
「え?なんだ?」
俺は後ろを振り返ると、そこには黒いスーツ姿の女性が1人で立っていた。
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